「生存率35%か、やっぱりキツいよなあ。いくら平均値だといってもな」
「それって完全切除できた場合のときでしょ。少しでも残ってたら、もっと下がるよね」
「ああ。処置できなきゃ、生存月数の中央値が6ヶ月だそうだ。あまりにも短すぎる」

沈黙の臓器とよばれる肝臓は良くも悪くも耐性がつよく、気づいたときには手遅れだ。
知人の患った胆管ガンは肝臓と十二指腸をつなぐパイプにあり、平均余命は短い。

「なにしろ五年だもんな、手術が成功したとしても。奇跡的に長生きする人もいるだろうが」
「逆に三分の二の人が五年以内に亡くなるわけね。早すぎるよね、あまりにも。何も残せない」
「五年前とくらべて、いまの俺たちはなにが変わっただろうな。そう思うと切なくなるよ」
「私はあなたと暮らすことで満足してるけど、あなたはどうなの。何か残したいの」

もちろん、この五年間で一緒にくらした生活には満足しているし、想い出もたくさんある。
だが実際に死を目のまえにすると、かなりの未練がわきあがってくるだろう。

「気づいたときには入院生活だからさ。そこからは何もできないわけだよ。旅行なんかとくに」
「その思いこみは変えるべきだわ。新たな生活を二人でスタートさせるのよ、そこから」
「でもなあ。片方はずっとベッドに拘束され、もう片方はその付き添いで日が暮れるわけだぜ」
「あら、あなたってもう少し思いやりがあったはずだけど。私の看護なんてつまらないっていうの」

そういうことじゃない。外の空気をすわせてやれないことに、いらだちを覚えるだけだ。

「だってさ、これから好きな外食に連れてってやれないわけだぜ。ラーメンやお好み焼きやらさ」
「そんなのはどうでもいいって言ってるじゃない。私はあなたがそばにいるだけでいいの」

こうしてくれれば何もいらないわ、と彼女が手を握る。残すべきものは、この柔らかい体温だな。