「連絡がつかなくて、どうしようもなくなっている友人がいるんだよ。心配だ」
たしか日本酒会で出会った女の人だっけ、。なんでもアメリカ人と結婚したって聞いたけど」
「うん。それがさあ、まったくひどい話なんだよな。正直ろくなヤツじゃない、その外人は」
「まったく働かないらしいわね。それでいてジェラシーがはげしいんだっけ」

典型的なヒモである。なぜそんな男へ惚れたのかわからないが、誰もとめられなかった。

「とくにゾッコンって感じじゃなかったんだよな。あの様子は、奇妙な母子関係にちかい」
「なんか病弱らしいけど、そのわりには日本酒会へ何度かきたらしいじゃない」
「そうなんだよ。自分で金を出すわけでもないのに、とにかく飲みまくってた。あれは気分が悪い」
「私も一度だけ顔をみたことがあるけど、持ってたカメラの自慢をされたわ。彼が買ったのかしら」

陰口をたたいてもしかたないが、とにかく彼女と連絡がつかない。自宅も留守のままだった。
じつは別の男性との赤子がおり、それを彼がひきとった。とはいえ、ニートが何をするわけでない。

「あれだけ管理されたら、誰でも逃げだしたくなるよ。電話やメールが全部つつぬけだそうだ」
「友だちが彼女と食事したときも、片手に赤ん坊をだきながら、もう一方でずっとメールしてたみたい」
「彼への報告だそうだ。バカバカしい。三時間以上、家をあけると警察なみの事情聴取があるらしい」
「それはもはや夫婦じゃないわ。王様と奴隷じゃない。さすがに疲れて実家にもどったのかしら」

なにか事件や事故に巻きこまれてなければいいが。こちらの心配が杞憂であってほしい。

「もし俺
の連絡がつかなくなったら、そのときは覚悟しておけよ。遺産はすくないがな」
「バカね。あなたのいるところなんて、すぐに想像つくわよ。いつもラーメン屋で携帯を切ってるじゃない」

そのとおり。麺がのびる行為は、店主に対して失礼だ。そのぶん、メールで彼女へ感想をいれる。
これが私にとってのあなたの遺書よ、と笑う。糸電話がわりのラーメンが、俺たちをつなげているのさ。