「ただいま、おそくなってすまん。連絡をいれるのをわすれちゃって、わるいな」
「いいよ、見舞いにいってきたんだったら。たぶん、そうじゃないかと思ってたし」
「うん。今日は仕事を定時に終われたので、かるく顔をみせるつもりが長居してしまった」
「というか、引きとめられたんじゃないの。ああ見えて、さびしがり屋だから」

いくら人生の先輩だといっても病状が深刻なだけに、人恋しくなるのはあたりまえだ。
今後の治療方針や病状の現状をたしかめながら、おもに雑談へたがいに身をゆだねた。

「重い話ばかりしてもしょうがないから、なるだけどうでもいい話に終始させたよ」
「それがいいかもね。わかりきったことをしゃべるより、気楽なほうを苦しいときは選びたいから」
「なんかさ、亡き奥さんとの出会いの話もきいたよ。それがなかなかおもしろくて、エロくてさ」
「なにそれ、ちょっと興味がひかれるわ。そういう話ができるなら、まだ大丈夫だよね」

地元ですこし悪ぶっていたときに、バイクの事故で出会ったそうだ。いわば被害者と加害者だ。
状況的には完全にのちの奥さんである女学生が悪かったが、結果的には彼が全てを背負ったそうだ。

「左折したバイクに、右側通行の自転車が右折してぶつかった。あれは防ぎようがないからなあ」
「それは圧倒的に奥さんが悪いわね。で、かなり怪我したのかしら」
「それがさ、バイクにのってた旦那が大怪我したんだよ。しかも股間近くに」
「あとは何となく想像できるわ。エロい展開ってそういうことなんだ。面白いわね」

高卒で働いていた旦那と、高校二年生だった奥さん。なにが出会いのきっかけか、わからないものだ。

「はからずも、奥さんもガンで亡くなったんだよなあ。皮肉なもんだ。なんとか治ってほしいがな」
「そういう形で天国の奥さんが呼んだってことは考えたくないけど。私は絶対にそんなことしないからね」

仮にそうなっても、まったく問題ない。イタコがわりの想い出が、君をいつでも呼びだしてくれるさ。