「こうみえて俺は冷え性でさ。会社の冷房に、凍えそうになりながら仕事してるんだよ」
「あなたは暑がりで寒がりだからね。たぶん平熱の幅が極端にせまいのよ」
「たしか36度5分が平熱だったはずだ。年齢からの平均より高いっていわれた」
「それは確実に高いわ。私は低いのよね、36度を下回っていたはず」

平熱は新陳代謝の活発度と比例するらしい。よく食べて運動する者は、文字どおり熱い。

「なんか本で読んだけどさ、新陳代謝って細胞の入れかえだから、結果的に短命になるんだと」
「太く短く生きるって、そういうことだったのね。さびしいけど私、がんばるから」
「がんばる必要もないし、そういうことを想像するのは冗談でもやめてくれ」
「大丈夫。そのために思い出づくりをはじめているから。はい、また人形をつくってあげたよ」

その昔に保育所の先生と一緒につくった人形が忘れられないと言ったら、同じものを作ってくれた。
軍手を素材にした素朴なものだが、幼ごころに自分の分身としてかわいがったものだ。

「ありがとさん。さすがに会社には持っていけないけど、やっぱりいいよな。癒されるよ」
「あまり童心にもどられすぎたら困るけど、たまにはね。私も母親がよく作ってくれたから」
「じゃ、今度一緒にお人形遊びでもするか。とはいっても、まるでやり方が思い出せないが」
「いくらなんでも、それは照れちゃうわ。そのうち本物で、いくらでも遊べるじゃない」

といいながら頬を赤らめる彼女。それは遊びじゃなく真剣だといいたいが、楽しいことには違いない。

「でもね、いまやスマホやタブレットがオモチャがわりだって。誰も自前で作らなくなるのかな」

この人形の魅力に優るものはない。補修という名の新陳代謝で、DNAがわりに受け継がれるさ。