「昨日、飲み会で北海道の話題になったんだよ。時期的にいつがいいかってね」
「やっぱり夏じゃないかしら。たしか五度くらいの気温差はあったよね」
「場所にもよるけどなあ。内陸部はかなり暑くて、こっちとあまり変わらんよ」
「夜はかなり冷えた気がするけどね。ああ、また行ってみたいなあ」

海鮮系の料理はなにを食べてもうまかった。とくに根室での回転寿司は最高だった。

「やっぱりあのへんは漁場が豊かで、当たり前だけど新鮮なんだよ。20皿くらい食べた」
「土地が生みだす雰囲気もあるよね。旅の最中だったら、なんでもおいしいとおもうわ」
「ところがそうでもないんだよ。博多の回転寿司はハズレだった。下関のはうまかったけどなあ」
「なんで、そんなに回転寿司ばっかりいくのよ。せっかくだから、ちょっと高めのでもいいのに」

金に糸目をつけないお大尽ならともかく、物価の高いこの国ではなかなか大胆になれない。
しかも時価と表記される寿司には、そのプレッシャーで味覚を麻痺させられそうになる。

「そういえば一度、築地の場外市場で寿司をくったけど、ビントロがうまかったなあ。200円だった」
「それは値段に対しての味ってことかしら。それしても築地のわりには安いわね」
「そこはとくに庶民でも楽しめる店だったんだよ。とはいっても、一貫千円の上トロもあったけどな」
「結局、その高いのは食べなかったの。さすがに千円は手をだしづらいけどね」
「高いのは味がよくて当たり前じゃないか。俺は探究心のかたまりだから、興味がなかったんだよ」

たんなるケチなくせに、と彼女がすこしさげすんだ目で見る。そうではない、価値観の違いだ。

「俺も出すときは、ドカンといくんだよ。ただ、食については質と量をかねたいんだ」
「まさか、私も回転寿司のような選択をされたのかな。イクラ、ウナギ、それともエビかしら」

残念ながら、どれも異なる。ウニでもなければブリでもなく、ましてやヒラマサでもない。
さんざん食べつくしたあとに、ほっと一息つけるもの。君は俺の人生においての、アガリなのさ。