「さすがに暑くなってきたな。努力してもどうにもならないものは、本当にどうしようもない」
「汗かきだもんね、あなたは。ただ、不思議と汗くさくないのよね。体質かしら」
「水分補給した瞬間に、頭から汗が流れるからな。新陳代謝マシーンとよんでくれ」
「たしかにトイレにいく頻度はたかいよね。体がまだ若いって証拠かしら」

それでも数年前にくらべれば、汗やトイレの量はへった。肉体は確実におとろえている。
歳相応といえばそのとおりだが、どこかしら反発したいロックな魂がそれをゆるさない。

「でもさ、やっぱり当時の流行りから離れられないんだよな。こだわりすぎるとさ」
「そうねえ。あまり言いたくないけど、二十代のころの髪型を引きずっている人は確実にいるわ」
「なにかきっかけがあれば、時の流れにそった自分を演出できるんだろうけど」
「なかなか難しいよね。人生観をおおきく変えなきゃいけないから。
とくに女はね」

現実をうけいれることは、人間にとってもっともむずかしいことのひとつである。
だからこそ他の動物にない夢や希望をおえるのだろう。究極のリアリズムは退屈だ。

「やっぱり、つねにスッピンでいられたくないでしょ。そういうことよ」
「まあ、そのたとえは何となくわかるけどな。じゃ、男にもとめる非日常ってなんだ」
「そうね。若さとかそんなのはどうでもいいけど、たまに確認してくれることかな。私をね」

ご飯時にはいつでも感謝しているし、家事もできるだけ手伝っているつもりだ。

「それもたしかにありがたいけどね。なんかふとしたときに確認したいし、されたいのよ」

そういいながら、背中から抱きついてきた。今夜の確認作業は、汗だくになりそうだな。