「明日、例の知人を見舞いにいくんだけどさ、見舞い品はなにがいいだろうな」
「あの人はお酒がすきだったよね。それは快気祝いにおいといて、やっぱり果物がいいと思うわ」
「でもなあ。病気が病気なだけに、このさい好きなものを食べ飲みしてほしいけどな」
「まだ治らないとわかったわけじゃないから。とりあえず普段のままで接するのが一番よ」

世の中で入院ほどつまらないものはない。何もしなくて気が楽といわれるるが、とんでもない。
ひたすら横になりつづける安静という行為が、どれだけ退屈でながい時間なことか。

「俺も四回ほど経験がある
、とにかく苦痛だったよ。とくに網膜剥離のときはつらかった」
「たしか高校生のときっていってたっけ。そのせいでひどい乱視になったんでしょ」
「うん。結果はしかたないけど、手術前まで悪化させないために、ずっと横になってたんだ」
「それって、トイレや風呂にもいけないの?ちょっとした拷問よね」
「入院とはそういうものだ。とくに全身麻酔後の動けなさは、この世の地獄だったなあ」

それが回復への試練なら耐えられるが、見込みが分からぬままだと途中で投げだしてしまう。
そこから先はそれまでの人生観にしたがえばよいが、決断にはつよい精神力が必要だ。

「だれもが本音では、好き勝手に生きたいと思ってるんだ。でも、それは健康ありきなんだよな」
「そんな当たり前のこといっても、しかたないじゃない。どうしたの、めずらしいわね」
「いや、だからさ。見舞い品も果物なんかじゃなく、本人の気持ちにそったのがいいかもと」
「あのね。胃にやさしく食べやすいものを贈ることは、私たちの祈りでもあるのよ。長寿へのね」

なるほど。たしかに老若男女関係なく、誰もが気やすく食べられるのは果物をおいて他
ない。

「そして旬を味わうものだから、来年も食べられるように元気になってくださいって


いまだに果実は季節の風物詩。それを思い出させてくれた彼女の気づかいは、永遠に旬だ。