「なくしたものの重みっていろいろあるけど、やっぱりつらいことには変わりないよね」
「どうしたんだ、急に。ついに俺からの愛情を感じられなくなったか」
「バカね。ちょっと海外ドラマをみていたのよ。ドキュメンタリーだったかな、足をなくした人の」
「うーん、それは本当につらいだろうなあ。心をうしなうよりマシだろうけど」

とはいってみたが、およそ健常な者からすれば、足の喪失は精神へ大いに影響をあたえる。
行動範囲が著しくせばまることで、それまで活発だった性格も内向的にならざるをえない。

「ちょっと偏見気味かな。世の中には、そんな状態でも活動的な人はいくらでもいるからな」
「そうね。でも、そこまで心を切りかえるには相当な努力と我慢が必要だわ」
「そのドキュメンタリーでは、どう描かれていたんだ。主人公の葛藤とかさ」
「イルカショーの調教師というか、ヒロインだったのよね。驚いたのが、そのちょっと言いにくいのよ」

今後とも晴れ舞台にたてないショックもそうだが、まずは女としての生きる自信を失ったそうだ。
二度と男性に抱かれないのではないかという魅力の喪失。動物本能がそう思わせるのだろうか。

「たしかに考えさせられることではあるな。おたがいに慣れれば、なんてことないだろうけど」
「その行為が愛情とイコールなのかは疑問だけど、女としてってことでかなり悩んでたらしいの」
「実際にその状況にならないとわからんが、男はそうだなあ。どこまで考えるんだろうな」
「弱い立場に追いつめられたというか、考えこんだ結果がそれを求めるのかしら」
「それで間違いないだろう。本能の部分で、自分の存在を認められたと確信するんだろうな」

それってなんか悲しいね、と彼女がいう。高度な知性をえたところで、しょせんは動物だ。
その後、結果的に自信を取り戻した主人公は、ふたたび調教師として活躍している
らしい

「考えても仕方ないけど、もし私がそうなっても無理しなくていいよ。こうしてくれるだけでいいから」

肩をよせながら、頭をもたれかけてきた。どんな身体になろうとも、この場所だけは死守するさ。