「ふう、飲み会の幹事をやるのも大変だよ。なかなか日程があわないからなあ」
「前に同窓会の幹事をやったばかりじゃない。面倒くさがりのあなたが、めずらしいわね」
「いや、最近ネットの割引チケットサイトにハマっちゃってな。あきらかに安くて食べ放題だし」
「あのね。もう学生じゃないんだから、量はそれほどいらないの。質が大事なのよ」

それはあくまで見栄だ。なんだかんだいって、女性の食欲はときに男性をうわまわる。
遠慮がちながらも最後までペースをたもちながら食べているのは、いつでも女性である。

「男は瞬発力
あるが、持続力におとる。とくに酒をのむとな。俺が典型的だ」
「そうね。あなたってアルコールがはいると、とたんにペースがおそくなっちゃうから」
「いったん酔っぱらうと、生き急ぐことへの加速装置が止まるからな。時間がとまるんだ」
「なんにたいして急いでいるのかしらないけど、たしかにせっかちではあるよね」

話が脱線したが、食べ放題にこだわるのは安心への担保だ。満足な食事を己でケアさせるために。

「高い会費をだして満足のいかない
食事ほど、あとに尾を引くものはない。食い物の恨みは深い」
「たしかに結婚式なんか代表的よね。なんであんなつまんないフレンチばかりなのかしら」
「あれは苦行というか修業というか、人生のもっとも不快な瞬間だな。スープも冷えてるし」
「もちろん友だちを祝いたい気持ちはあるけど、ちょっとねえ。二次会のほうがまだマシだわ」

あまり他人の陰口をしない彼女だが、今夜はめずらしい。気がつけばワインボトルが空きそうだ。

「だから俺は最低限の満足を与えたいがために、食べ飲み放題を選ぶんだよ」
「たしかにお腹がいっぱいになったら、誰も腹をたてないとおもうわ」
「そうだろう。自分の好きなものを目一杯注文して食べりゃ、そのときばかりは天国なんだよ」
「じゃ、私も努力しないとね。あなたの好きなメニューをもっと覚えなきゃ」

俺の好みは子供舌。ご飯時は母親役になる彼女、そのメシはどれもがおふくろの味なのさ。