「いやあ、食った食った。ちょっと腹がいたむが、明日にはおさまるかなあ」
「そりゃゴハンを四杯もたべたらお腹もいたむわよ。いくら食べ放題だからって、みっともないわ」
「ちがうぞ、それは。店に対しての感謝をしめしているんだよ。とくにアジア系の料理店ではな」

ネットで取得した割引チケットをつかって、サムギョプサルの食べ放題を二時間たのしんだ。
飲み放題もついて二千円は、じつにお得だ。しかも店員の態度が、とにかくよかった。

「あなたって誰にも遠慮なく話しかけるけど、今回だけはその才能にほれたわ」
「いまごろ気づくなよ。俺はいつだって、ほれられやすいフェロモンをだしているのさ」
「食べ物に対しての貪欲な知識欲よね。おかげで店員さんから面白い話がきけたわ」

その韓国料理店ではたらくスタッフは、全員が数年前に来日したそうだ。日本語も達者である。
そのうち一人は光州出身で、釜山にちかいことからさまざまなグルメ情報をあたえてくれた。

「北のソウルと南の釜山は、ちょうど東京と大阪の関係に似てるっていってたなあ」
「対抗意識をもやしているわけじゃないけど、違和感はあるってね」
「味も南へくだるにつれて、濃くなるともいってた。キムチがその象徴だって」
「面白かったのが、こんなにバリエーションが多い食べ方をするの
日本以外にないってことね」

メインのサムギョプサルは塩で味付けされたノーマルなものから、味噌やカレーまであった。

「意外に味噌がいけたよな。ゴハンがすすみまくった。カレーはいまいちだったが」
「店員さんも、こんな味付けがあって驚いたといってたよね。たしかに私もこの発想はなかったわ」
「とにかく何でもためしてみたいんだよ、俺たちは。伝統に対する挑戦ともいえる」
「どっちも大切にしたいよね、過度にならない程度に。文化交流って、こういうことかしら」

知らないことを知ることは、いつだって面白い。それが人間の本能へ訴えるものなら、なおさらだ。

「じゃ、今度は大和撫子の意地をみせてあげる。これ、飲んでみて」

なにかとたずねたら、タンポポ茶という。ノンカフェインで胃もたれをやわらげるそうだ。
花も綿毛も印象深いが、命を宿す効能もあるらしい。そういや俺の腹は、妊婦そのものだな。