「俺がよくわからない趣味のひとつに、時計があるんだよ。とにかく高すぎる」
「あなたはいつも千円くらいのしかつけてないものね」
「時間がわかればそれでいいし、いまや携帯やスマホもあるしな」
「そしてガサツな性格もあるよね。買ったその日に傷つけるでしょうから」
ほっといてくれといいたいが、まさにその通りだからしかたない。
そして汗かき体質のせいか、金属製のものを身につけるとカブれてしまう。
そのせいかジュエリー系のものへも、まったく興味がわかない。
「天然の庶民体質というか、高級品を体が否定するんだよ。まいったか」
「誰に対していってるのよ。でも実際そうだから、どうしようもないわね」
「たまに友だちのロレックスとかを試しにつけてみるけど、とにかく重くてさ」
「まあ、千円時計のベルトとは違うわよね。やっぱり憧れる部分はあったの」
「全然さ。みょうな重量感がずっと気になって、なんか落ちつかなかったよ」
なにしろ一本数十万円の世界だ。むき出しの現金を腕につけているようなものだ。
その緊張感と傷つけることへの価値の喪失が恐ろしく、とても耐えられそうにない。
「でも、男性がお金をかけられるオシャレって限られるからね。本人次第じゃないかしら」
「俺なんて、すぐに売りとばして東南アジアあたりで旅行三昧しちゃうよ」
「どっちが贅沢なのかは、価値観の違いとしかいいようがないわ。私はほどほどだけど」
そういいながら、手元の時計を眺める。そこそこ使いこんでおり、良い味を出している。
「お気に入りの一本を丁寧に使うほうが、時計も幸せだよな。そんなに狂うわけでもないし」
「そう、一生つきあっていくものだからね。私は千円以上の価値をつけてほしいけど」
時の流れは、時計だけで計るものじゃない。二人の間なら、たまには遅らせるのも一考だ。
そこへアラーム代わりに腹が鳴った。彼女の手料理をせがむ腹時計だけは、いつも正確だ。
「あなたはいつも千円くらいのしかつけてないものね」
「時間がわかればそれでいいし、いまや携帯やスマホもあるしな」
「そしてガサツな性格もあるよね。買ったその日に傷つけるでしょうから」
ほっといてくれといいたいが、まさにその通りだからしかたない。
そして汗かき体質のせいか、金属製のものを身につけるとカブれてしまう。
そのせいかジュエリー系のものへも、まったく興味がわかない。
「天然の庶民体質というか、高級品を体が否定するんだよ。まいったか」
「誰に対していってるのよ。でも実際そうだから、どうしようもないわね」
「たまに友だちのロレックスとかを試しにつけてみるけど、とにかく重くてさ」
「まあ、千円時計のベルトとは違うわよね。やっぱり憧れる部分はあったの」
「全然さ。みょうな重量感がずっと気になって、なんか落ちつかなかったよ」
なにしろ一本数十万円の世界だ。むき出しの現金を腕につけているようなものだ。
その緊張感と傷つけることへの価値の喪失が恐ろしく、とても耐えられそうにない。
「でも、男性がお金をかけられるオシャレって限られるからね。本人次第じゃないかしら」
「俺なんて、すぐに売りとばして東南アジアあたりで旅行三昧しちゃうよ」
「どっちが贅沢なのかは、価値観の違いとしかいいようがないわ。私はほどほどだけど」
そういいながら、手元の時計を眺める。そこそこ使いこんでおり、良い味を出している。
「お気に入りの一本を丁寧に使うほうが、時計も幸せだよな。そんなに狂うわけでもないし」
「そう、一生つきあっていくものだからね。私は千円以上の価値をつけてほしいけど」
時の流れは、時計だけで計るものじゃない。二人の間なら、たまには遅らせるのも一考だ。
そこへアラーム代わりに腹が鳴った。彼女の手料理をせがむ腹時計だけは、いつも正確だ。