「前に友だちと食事したときに、夫婦円満の秘訣ってなんだろって話になってさ」
「おい、それは遠回しのプロポーズかよ」
「かもね。でね、ヤケドしそうなくらいに熱かったカップルほど、離婚するのが早いよねってね」
「ああ、それはあるかもなあ。結婚しちゃったら減点方式になるからだろうな」

映画やドラマでは結婚にいたるまでの過程はえがくが、その後を物語るものは少ない。
本来は結婚後の生活こそが重要であり、それからの年数のほうがずっと長い。
それを円満にするハウツーがあってしかるべきだが、どうも世の中はそうでもない。

「よく言われるよね、愛が消えて情けがのこるって。結婚生活は」
「結婚した友人はこぞって、嫁は最高の親友だっていうよ」
「そうだよね。一生をともにするのを前提として結婚するんだから、気が合わないと無理よね」

たしかに、いくら魅力的な相手でも性格的にあわなければ一緒にくらせないだろう。
もちろん互いに努力することも必要だが、なにかしらのフィーリングの一致は必要だ。

「空気のようなものとも言うよね。普段は気にしないけど、なくなると死に直結するというか」
「あまりに相手を空気あつかいするのもどうかと思うけど、そういう心境じゃないとつかれるだろうな」
「だから、たまに化粧をわすれても許してほしいんだけど」
「あれ、そんなに俺への気づかいがあるようなメイクを普段からしてたっけ」

すこし、むくれた顔をした。冗談だとフォローすると、語気を強めて彼女がいった。

「まだ情けをかけられるようにはならないわよ。愛させてやるから、できるかぎりね」

気合をいれるのは嬉しいけど、たまには息抜きしなよ。君のキスは俺の酸素ボンべなんだから。