とあるアフリカの国で、寿司職人が活躍するドキュメント番組を見た。
日本人が出稼ぎしているわけでなく、現地の黒人が握っている。
店の客足はそこそこあり、暖簾分けをしそうな勢いである。

「やっぱり、どこか違和感はあるわね。おもしろそうではあるけど」
「まず、アフリカでとれた魚がうまいのかというのもあるな」
「前に回転寿司の特集をみたとき、ネタのほとんどはアフリカ産だといってたわ」
「へえ、そうなのか。日本人はどこまでも魚が好きなんだなあ」

世界一の魚市場をもつ築地には、あらゆる国から水揚げされてくる。
いったん加工されてしまえば、魚の味に国籍はない。旨さですべてが判断される。

「職人として極めていれば、肌の色なんて関係ないわよね」
「日本人がフレンチをつくるのに、フランス人が違和感を覚えるようなものか」
「関東人が大阪弁をしゃべるようなことじゃないの」
「それはちょっと違う気がする。いずれにせよ、見た目の違和感に左右されたくないね」
「そうね。あなたも目隠しして飲んだら、ワインの価値なんてわからないでしょ」

ビールくらいはわかるが、ともあれその場の雰囲気に味覚は影響されてしまう。
肌の黒さと酢飯の白さに、おおいなるギャップを感じてしまうのか。
ただ白人が握っても、おなじような違和感から逃れることはできないだろう。

「店では巻きずしがメインだったな。生魚は、やっぱり食べられないのかな」
「でもマグロもネタにしていたわよ。巻いちゃったら生臭さが消えるのかしら」
「まあ日本文化が、どういう形であれ認められるのはうれしいな。俺も興味がある」
「ただね、やっぱりこれが欠けると本当の意味で食べたことにはならないわ」

冷蔵庫から、そっと出された生ワサビ。ツンとくる風味が日本の心を思わせる。

「ほんの少しでいいのよね。愛情を深めるために、嫉妬するようなものよ」

なるほど、どうりで子供はサビ抜きで食べたがるわけだ。大人の味は複雑なのさ。