「今日は桃の節句か。女じゃないけど、なんかワクワクするよな」
「やっぱり、ひな壇は華やかだからね。見てるだけで嬉しくなっちゃうわ」
「それにくらべて端午の節句は地味だよなあ」
「私は結構すきなんだけど、いかめしい雰囲気は祭にそぐわないわね」

ひなまつりは女の子の成長を祈るものだが、一部の神社では性に関係なく、
子供の厄除けを祈念する祭をおこなっている。京都の下鴨神社はとくに有名だ。
紙製の男女の雛をさんだわらという円形の俵にのせ、境内の清流へながす。

「子供にのりうつった厄災を、ひなに身代わりになってもらうわけさ」
「なんだか、かわいそうね。そのおひなさまたち」
「清流の行く果ては神の国だから、喜んでの人身御供なんだろね」
「ひょっとして、昔は生け贄のようなかたちで選ばれた子供が流されたかしら」

そう考えると、すこしぞっとする。祭の起源は疫病のはやった平安期なので、
賀茂川に多くの死体が流されたのを写しとったのかもしれない。

「川に清浄さをもとめるのは、ヒンドゥーの思想がもとなのかもなあ」
「輪廻転生だっけ。海に帰って、生前の行いが浄化されて生まれ変わるのね」
「ひな壇って結婚式じゃない。子孫繁栄を祝うことだから、それも輪廻の結果だよ」
「どっちにしても子供の健康を願うことには変わりないのね。祈りは永遠だわ」

神社でお参りをすませ、飾られたひな壇を眺めながら、ひなあられを食べた。

「素朴な味だけど、なんでこんなに美味しいんだろうね」
「ホントだよなあ。しかも、この時期しか食べないんだからな」
「特別な日の食べ物って、それを口にした瞬間に生きててよかったってなるわ」
「やっぱり祭は生きている者のためなんだよ。厄除けにお守りを買っていくか」

祭にあわせて着飾った巫女さんに選んでもらう。すこし小ぶりのハーブ付き。

「ありがと、お内裏さま。これからも末永くよろしくお願い致しまする」

みょうな言葉づかいの嫁。帰ったら、ひさびさにお姫さま抱っこをしてやるか。