あとで電話をかけなおすと彼女に約束し、ジョンのメールを読んでみた。

「やあ、元気かい。僕の調子はまずまずだけど、母親がうるさくてね。
 どうも早めに追いだしたがっているみたいだ。月末までの我慢さ。

 今回は、いままで誰にも話したことのない内容を書いた。秘密にしていた。
 理由は僕が前に関わっていた職務について。僕のことを知ってもらうために、
 その封印を開けることが必要だった。君のご両親のためにもね。
 信用してもらえないかもしれないが、これはすべて真実だ。
 そして、僕がいかに才能あふれた人間であるかということを知ってほしい。
 すべては君との生活のためだ。単なるガイジン呼ばわりされないためにね。

 僕の地元は君も来たから知ってるよね、ポートランドさ。
 生まれてから様々なことを吸収する能力にたけていた僕は、
 その一挙手一投足が街中の噂になるほどだった。
 父親が国家の秘密機関に属していたことで幼い頃から英才教育をさせられ、
 10歳になるころには州をこえて、各有名大学からスカウトがあったほどだ。

 そのころから妹とは仲がわるくなり、つまり嫉妬されたわけだ。
 いつも学年トップの僕からすれば、妹の成績は別に気にしてなかったけど、
 親が僕ばかり褒めることで口を聞かない日々がつづいた。今もそうだ。
 そして高校に入るころから、父親から特殊訓練を受けることになった。
 CIAって知ってるよね。その特殊工作員にさせられたんだよ。勝手にね。

 工作員への道は学力だけでなく、あらゆるスポーツに万能な必要がある。
 昔から自転車が好きだった僕は、たしか8歳のときに記録を出したんだよ。
 自力速度のね。なんと100キロをこえていたんだ。あれは驚きだったよ。
 とにかく父親に鍛えられたおかげで、大学に入るころには一人前の工作員になった。 
 あらゆる活動をした。もちろん偽名でね。二つの顔を持つのはつらかったよ。

 大学卒業後、デンマークで工作員としての活動をかねて事業をおこした。
 いわゆるレンタル自転車店なんだけど、それを都市部に展開してね。
 エコロジーとボランティアリズムを全面におしだしたこの事業は大成功した。
 金銭面では大したことがなかったけど、それ以上に僕の名声を高めた。
 
それを利用して、デンマークのお偉方の情報を取得することに成功したんだ。

 ただ、当時は偽名で活動していたから、いま調べても僕の名前はでない。
 趣味と実益をかねたこのときが、人生で一番の幸せだったし絶頂だった」

なるほど偽名か。これ以上に便利なホラ吹きの道具はない。
すこし腹がへってきたので屋台街に場所をうつし、後半に目を通すことにした。


(つづく)