彼女がすこしつかれた顔をしている。さっきからため息ばかりついていた。

「いったいどうしたの。なにかストレスでもためこんでいるの」
「うん、ちょっとね。最近いろいろあって、その影響がでているの」
「悩みごとがあれば、すぐに言ってくれなきゃ。なにがあったんだよ」
「あのね・・・出ないよ。今日で三日目」

と言いながら、お腹をさする彼女。なるほど、それはとてもつらそうだ。
一日に三回はすませないと落ちつかない者からすれば、まさに拷問である。

「牛乳がきくっていうけど、ためしてみた?」
「いろいろと飲んではみたんだけどね。劇的な効果はなかったわ」
「おれはコーヒーをのめば即効だからなあ。それはもうパブロフの犬のように」
「あまりプレッシャーをかけないでね。大丈夫、なんとかなるわ」

どうやら年に数回ほど、そのことで苦しむらしい。
気がつけば治っているというが、その多大なストレスは想像にかたくない。
なにより食事が思うようにできない。どうしても気をつかってしまう。

「医者に薬をもらったほうがいいんじゃないか」
「薬にたよるのはきらいだし、病院はやっぱり恥ずかしいわ」
「でも、そのままだと苦しむ一方だよ。よし、俺が手伝おう」
「バカ。なにをしたいのか想像できるわ。とにかく、そっとしておいて」
「しかしなあ、伴侶の苦しむ顔は見たくないもんだよ。これは介護にもかかわってくる」
「そこまで連れそってくれる覚悟があるのなら、考えてもいいわ。でも今はいや」

遠回しのプロポーズをしてみたが、あまりにタイミングがわるかった。
とりあえずネットで見つけたマッサージをためす。へそ周りをやさしく撫でてみた。
それまでこわばっていた彼女の顔が、すこしずつやわらいでいく。

「これで、すこしでも良くなってくれればいいけどなあ」
「なんか、痛いの痛いの飛んでけって感じよね」
「そういえば痛みはあるの?ひどければ医者に診てもらおうよ」
「大丈夫、ありがと・・・なんかね、二人して老人ホームで暮らしているのを想像しちゃった」

それはさっきのセリフの返事かな。つぎに撫でるときは、新たな命の上でと願いたい。