数年前から自宅で活躍するガスストーブ。これがないと起きられない。
冷えた部屋を暖める速度は、電気ストーブやエアコンより段違いだ。
目覚めのアラームと同時にスイッチをいれると、五分後には布団から脱出できる。

「こいつがなきゃ、日本人の半分は仕事に遅刻だろうな」
「そんなの貴方だけよ。そもそもガスは危ないから、それほど普及してないわ」
「石油より安全だとおもうよ。万一のことがあっても、そのまま安らかに眠れるし」
「バカ言わないでよ。永眠するなら、その前に保険に入っておいてね」

最近はガス代もバカにならないので、電気系の暖房機と使いわけている。
電気カーペットが意外に役だつが、足腰を真に暖めるにはコタツが最適だ。

「まあ、日本の心だからなあ。いったん入ると、脱出はきわめて不可能だ」
「コタツで寝たら風邪ひくわよ。布団をひかないから腰にもよくないし」
「なんで外人はこんな便利なものを無視するんだろうな。靴文化などクソ食らえだ」
「コタツの代わりが暖炉になるのかしら。煙突付きの家しか無理だろうけど」

寒さから逃れるために文明が発達したといっても、過言でない。
火はまさにその象徴であり、寒冷からの克服が人類の生存地域をひろげた。
温暖化が懸念されているが、長い未来を考えると地球は確実にひえていく。

「いまさら氷河期に暖房機なしで暮らせとは、誰もいえないよな」
「究極のエコがそうなるのなら、あきらめがつくかもね。資源は限られているから」
「男は狩りに行き女は洞窟で家庭を守る、か。案外いまと変わらないかもな」

話題が寒くなってきたので、彼女がお茶をいれた。熱さが体にしみわたる。
火の絶える瞬間が人類のそれと同じだと思うと、今から火おこしの練習をしたくなる。

「私にできるのは、せいぜい火打ち石かしら。ヤケドしないように気をつけなきゃ」
「焼け石に水といいたいところだが、避難用具にいれるべきかもな」
「体に火をつけるのなら、てっとり早くこれがいいんじゃない」

めずらしくウィスキーを取りだしてきた。火を見るよりも明らかな天然ストーブだ。

「俺はお湯割りにするけど、どうする」
「シングル、になる気はないからダブルで。これからもずっとね」

どうやら先に一杯やったようだ。どんな氷河も、その笑みがあればすぐに溶かせるよ。