最近やけに太ってきたので、ダイエットに見せかけた散歩が日課だ。
体重をへらすことに努力している様子が必要なため、最後の1キロは走っている。
予算の関係からズボンのサイズをこれ以上、変えるわけにはいかない。
すくなくとも嫁はそう公言している。一キロ増えるたびに小遣いをへらすと宣告された。

「とはいうものの体脂肪の燃焼力が歳とともに衰えてくるから、無駄な努力だと思うが」
「そんなことないわよ。ミック・ジャガーなんて、今だにあの細い体型を保っているのよ」
「俺も年収が数十億あったら、あれくらいの努力なんてへっちゃらだけどなあ」
「まずは小遣いをへらされないことを目標にしなさい。あっ、きれいな梅」

散歩ついでに近所の天満宮へ寄ってみた。休日のせいか、露天がいくつかでている。

「おい、あの梅うどん旨そうだな。ちょっと一杯やっていくか」
「だめよ。いったい何のために散歩につきあっていると思ってるの」
「そうはいうけどさあ。ほら、梅の酸味はダイエット効果があるっていうじゃない」
「そんなのはじめて聞いたわ。まあ、たしかに酸味は血液をきれいにするけどね」
「だろう。俺はわざわざダイエットのために食べてやるんだ。他意はない」

なんとかごまかして一杯いただく。300円にしては少なめの量だが、縁日価格としておこう。
かなり大きめの梅にシソ、とろろ昆布がほどよい調和を生みだしている。
境内は五分咲きの紅梅と白梅が、甘酸っぱい香りとともに参詣者の歓迎をしていた。

「俺は桜より梅のほうが好きだな」
「桜は香りを出さないからね。あと、葉っぱくらいしか食材には使えないでしょ」
「でもサクランボがなるじゃない」
「あれは一般的な観賞用の桜とは別種なの。ともあれ、こうして梅の下で食べるのもいいわね」

花見は桜の専売特許になってしまったが、梅や桃、なんだったら菜の花もあっていい。
ようは目と香りを楽しませる場さえあれば、いまどきのテーマパークなどいらない。

「五感にうったえる環境は、もともとたくさんあったはずだ。今度、山登りでもするか」
「その前に体重を5キロはへらさないとね。はい、これおみやげ」

手わたされた梅昆布茶。これからはビールの代わりにするそうだ。先行きは甘くなく、酸っぱいぞ。