(広告代理業でヤオハン社長とは出会ったという)

これはあくまでも聞いた話じゃが、香港ヤオハングループ代表の和田氏にはお妾さんがおったという。勢い失くし倒産に追い込まれた和田氏は用なしか、そのお妾さんも今や小さな広告代理店の社長。西洋人と結婚をし、今はいいお婆ちゃんを演じておる。彼女はヤオハン代表の使えるツテを全て使い尽くしたんじゃなかろうかというくらい、今では領事とまで親しくし、勿論のこと日本人倶楽部と商工会議所では存分に幅を利かすようになっておる。その立ちふるまいと言ったら "主"、そのものであり、そこまでなるに相当な苦労があったかと思うんじゃが、甘えたような女性の武器というべき口調を巧みに駆使し、かといってハキハキと意思は強く、かなり年を召されておるのまで味方に付け、男性社会の中で上手く立ち回っておる。ある意味尊敬できる方なのじゃが、ワシは生臭くてあまり好きではない。彼女も夢を手中に収めた1人なのじゃろうのぉ。それは果てしなく遠い遠い夢だったに違いない。本音で話せるなら1度一献願いたいと思えるお方じゃ。嫌いではない。

何せ初の日本人市場アプローチでどうすればいいか分からんワシらの社長とマーケティング部担当者は、まず日本人倶楽部に入会し、商工会議所に登録。いい金蔓が来たとばかりに目を付けたのが、この元お妾さんである。
入社後にワシがテコ入れをした使えんパンフレットの話をしたが、実はこのお妾さんの会社の作品であった。日本語の話せる香港人社員に仕切らせたのは結構、最後に社長が目を通しておれば "あんなお粗末な日本語のパンフレット" はあり得なかったじゃろう。多分、相場を知らないと思い、相当な額で受注したんじゃなかろうかのぉ。

そこから数年はお妾さん会社の仕切る "秋の日本人倶楽部チャリティー・ゴルフイベント" にも相当なスポンサー料を払わされておった。日系のお駐在員様が100人以上集まり、朝から午後までゴルフ大会、最後に表彰を兼ねた夕食会で夜の9時頃お開き。収益の一部をチャリティーに当てるというものじゃ。お駐在員様は中々プレーすることの出来ぬ由緒正しい香港ゴルフ倶楽部で、尚かつ会社経費で堂々とプレーが出来るとあって大人気のイベントじゃ。
かなりのスポンサー料を出しておったようじゃが、お陰で "夕食会が豪勢になった" と参加者には好評。社名を知ってもらい、尚かつ日系企業のビジネスの中で無視してはならぬ会社であると知らしめるには、効果的な投資先であったとワシは思うのじゃ。
当日のワシらは、早朝のチェックインの手伝い、夕食会前のビバレッジの提供、その場でのプレゼンテーション、夕食会ではちび社長のスピーチ、ワシらはまだ顧客ではないターゲットの座るテーブルや、より親交を深めたい顧客の座るテーブルに同席し、食事を盛り上げる役目もしなくてはならない。ワシは常にXX銀行の社長やXX商事の社長の隣に座り、緊張の2時間を強いられるのであった。

(毎年恒例のチャリティーゴルフに華を添えた)

当時、"xxさんは凄いですね" とよく言われたもんじゃが、正直言ってワシの力は微々たるもんじゃったと思うんじゃ。基本的に社交的な人間ではないしのぉ。前も言ったが営業センスがいいとも思わん。
1) 何より当時パートナーシップを組んでいた都合上、社名がS-V○daf○ne(2005年〜2011年)と日本人に馴染み深かく、ネームバリューがあったこと。
2) 新規チーム立ち上げで会社が大きな予算を組んでいてくれており、香港日本人倶楽部や香港日本商工会議所に対し、イベントのスポンサーとして多大な金額を寄付してくれていたこと、
3) そのスポンサー料に群がる多くの人達から多大なご支援を頂けたことの方が大きかったと思うんじゃ。
実際に日本人倶楽部会長(常にU○J銀行社長)や商工会議所事務局長にも非常に良くしていただいたしのぉ。お陰でワシは恥ずかしがりで名刺交換会が苦手であっても、倶楽部や商工会議所の中で人脈を増やして行くことがいとも簡単に出来たのじゃった。

嫌な営業活動の1つに、中秋節やクリスマス、旧正月になると高額利用企業に贈り物を届けるというのがあった。現地社員であれば大手であっても総務部長辺りへの訪問で済むところ、日本人営業は総経理宛ての訪問になる。それもワシは全部超大手である。やれxx銀行支店長、xx商事総経理といったそうそうたるメンバーじゃ。訪問企業数も他の営業より断然多く、それでもクーリエ禁止で必ず足を運ばなくてはならない。またもやいつものように憂鬱な気分に浸ってしまうんじゃが、救われるのは、どこの社長さんであってもワシの名前は知っており、快く電話も訪問も受け入れてくれる事じゃった。ワシの名前に心当たりがなければ、電話すら繋いでもらえんからのぉ、、、眺めの良い大きな社長室のソファーで大手社長と談話しておるワシの姿、ワシ自身も含め、誰に想像が出来たじゃろう。だから人生は分からない。だから人生は面白い。

まだまだスポンサー料の欲しい商工会議所事務局長からの提案で、ワシが部会でプレゼンをする事になった。商工会議所のメンバーは業種毎に部分けされておる。例えば金融部、電気電子部品部、運輸部のようにである。その各部会で携帯電話に関するプレゼンをしてはどうかという話であったが、当時は既に日系企業で70%近いシェアがあったので、そこは丁重にお断りし、自分が副部会長を務めるICT通信部会だけでプレゼンをする事になった。多分じゃが、お駐在員様以外で現地スタッフが部会の役員を努めたのはワシが最初で最後じゃと思う。因みに部会長はK○DI社とN○T社の社長が交互と決まっており、ワシは1年おきに2年間、どちらもK○DI社とパートナーを組ませていただいたのじゃった。そして部会ではお誕生日席に座り、いかにも偉そうな顔をしておった、笑。昼部会の弁当が足りなかった時、役員には寿司が振る舞われた事があったが、笑。得したのはその位で、後は面倒な話や厄介な仕事ばかりじゃったが、誰もがワシのことを香港大企業のやり手なんじゃろうなという目で見ておったと思うが、ただの営業マンであった。平社員である、恥。

(商工会議所、ICT通信部にてプレゼンを行う)

そんなワシには幾つかささやかな目標があったのじゃ。

些細なことで言えば、昔に高卒でバカにした者共をギャフンと言わせてやりたかった。これは誰にも「大出世じゃないですか」と言われておったので、既に半ば達成しておったが、最後に初めての人材派遣会社でワシに「アナタに紹介できるのは肉体労働だけね〜」とクソミソ言ったアデコ○の社長じゃが、このワシに個人情報とはなんぞや、セキュリティー管理の虚弱性、目先の経費削減に追われず、コストを掛けてでも利益を取る時代だとコンコンと説教され、終わりに「今度もしも転職する機会があれば、是非ウチでVIP対応でやらせてくださいね」と言わせた、囍。その日のコンビニ立ち飲みビールは最高に旨かったのぉ。って事で達成しておったのじゃ。

もう1つは彼氏の友人から無料でいただいたBMWじゃたが、そろそろ買い替えても失礼ではなかろうという期間は乗ったので、Jaguar Sの中古に変えていたのじゃ。東京時代からJaguarだったしのぉ、、、ところがエンジンとクーラーにずっと問題があってストレスの連続。これを最新モデルに買い替えたいと思っていた矢先、ちょうど車検で修理必要箇所が出てき、ソコソコのコストが掛かるという。何件か中古屋を回ったんじゃが、香港では維持費が高いので全く人気のないJaguar、それも欲しいモデルと色まで決まっておると探すのは至難の業じゃった。BMWでもMercedesでもいいのがあったんじゃがその気になれず、ここで最後! 無ければ新車もやぶさかでないと思っておったところ、2年で2万キロも走っておらん黒のJaguar XFを発見、中古にしては高かったが、何よりコンディションが最高によく、試乗し即決してしまった、爆。値段は600万円チョイじゃったかのぉ。もちろんローンは組んだがのぉ。って事でこれも達成じゃ。

(5年ローンで買ったJaguar 3.0 V6 XF Luxury)

3つ目じゃが、銀行口座をアップグレードしてプレミアム口座を手に入れること。だからといってワシには特にご利益もないのじゃが、やはりステータスかのぉ。これも目標じゃったが、既にアメックスのゴールドカードは持っておったしのぉ。強いて言うなら、プレミアム講座を持っておればファーストクラス対応で、並ぶ必要もなく、待ち時間もほぼなし、時間のかかる案件はソファーでエスプレッソを飲みながら寛いで待てる。それだけの事じゃが、普通預金口座に最低額で1400万円の預金が必要じゃった。まだ少し足りなかったのじゃ。これ残念かな保留であった。

(このプレミアムの文字を見かけると胸が痛む)

実を言うと、この頃の自分が今でも嫌いで仕方ない。バカにされた仕返しじゃのとくだらん事に拘り、他人に何気に仕事の境遇や給料をひけらかしたり、、、気づけば自分がやられた様に、他人を上から目線で見たりと、かなり最低な男じゃったと思うんじゃ。それも人前では謙虚なふりしてソレをやるのであった。
でもワシは既に気付いておったんじゃと思う。ワシの実力で今がある訳でなく、会社や上司、同僚の力だと。ワシはその化けの皮が剥がれるのが怖かったんじゃと思う。それで1人で強がっておったんじゃと、、、今なら思える。ストレスはMAXに達しているようじゃった。素直に生きよう、これからは。