『四谷怪談』

 

今回はこういうお題でいきます。江戸の歌舞伎の幽霊というと、

最も有名なのが鶴屋南北の『東海道四谷怪談』ですね。それから

『牡丹燈籠』などです。江戸の歌舞伎は基本的には勧善懲悪の物語です。

『四谷怪談』で言えば、悪いことをして祟られるのは伊右衛門なので、
観客は怖いと思いながらも、自分とは直接関係のない話であり、
弁当を食べながらゆっくりと楽しむことができました。

この当時から、日本にはすでに恐怖を楽しむ文化があったわけです。

ただし、『牡丹燈籠』は少し違いますね。とくに悪いことは

何もしていない新三郎は、ただ恋に落ちたというだけで、

お露の亡霊につきまとわれることになります。

 

『牡丹燈籠』



これは元ネタが日本ではなく、中国の話だからなんでしょう。
中国には、こういった若い女が死んで幽霊になる話は
ひじょうに多い。流行っていたんですね。

では、これだけかというと、『皿屋敷』など歌舞伎には幽霊が出てくる

話はたくさんあるんです。今回はそれらを紹介していきたいと

思いますが、みなさんはいくつご存知でしょうか?

まずは「こはだ小平次」。こはだというのは江戸前寿司のネタで、
粋でいなせなイメージのある魚ですよね。ただ、この話の場合、
幽霊のように青白いという意味で使われているようです。

 

こはだ小平次



歌舞伎役者の一人に、小幡小平次という男がいました。

小幡という名と魚のこはだが掛けられているようです。この男は

大根役者で、歌舞伎座でもその他大勢でしたが、幽霊の役だけは

異常に上手く、評判をとっていました。

小平次にはお塚という妻がいましたが、お塚は愚鈍な小平次に

愛想を尽かし、鼓打ちの安達左九郎という男と密通していました。

奥州安積郡(福島県)への旅興行に出た小平次は、

左九郎から釣りに誘われるがままに一緒に安積沼へ行くと、

 

そこで沼に突き落とされて命を落としてしまいます。
左九郎は、これで邪魔者が消えたとばかり喜んで江戸のお塚のもとへ
行くと、そこにはなんと自分が殺したはずの小平次がおり、

 



床に臥せっていました。小平次は死んだ後に幽霊となって江戸へ

舞い戻ったのですが、生前あまりにも幽霊を演じることに

長けていたため、そこにいる小平次の幽霊は

生きていたときの小平次と変わらない姿でした。

 

驚きおののく左九郎のもとに、その後も次々に怪異が

起きます。左九郎はこれらすべては小平次の亡霊の仕業だと

恐れつつ、ついには発狂して死んでしまいます。

 

お塚もまた非業の死を遂げた・・・こういう筋立てです。

自分が殺したはずの男がいつのまにか江戸に戻って病気で寝ている

というシーンが不条理で不気味です。

 



次は「怪談乳房の榎」。榎は樹木の榎です。絵師として活躍していた
菱川重信の妻・おきせに惚れてしまった磯貝浪江という浪人は、
重信の弟子となっておきせに近づき、関係を持たないと子供を殺す

と脅迫し、おきせと関係を持ってしまいます。それだけでは飽き足らない
浪江はおきせを独占するため、師を惨殺します。夫の死のショックで

乳の出なくなったおきせの元に、死んだ重信の亡霊が現れ、

 

佐倉惣五郎の幽霊



乳を出す不思議な榎が松月院にあると教えます。やがてその榎の

乳で育った子・真与太郎は父を殺した浪江を討ち仇を取る・・・
こういった内容です。

 

これなんかも、はっきりした勧善懲悪の話で、江戸歌舞伎の

怪談はこういうものが多いんですね。どこの誰だか

わからない幽霊は出てこないんです。恨みを飲んで死んだものの

怨霊が、相手に祟ってとり殺す。


これが基本形で、この手の話はまだいっぱいあります。残念ながら

字数がなくなって、紹介は2つだけになってしまいました。

また、やる機会もあるでしょう。では、今回はこのへんで。

 

『こはだ小平次』