bigbossmanです。今回もまたインタビューシリーズです。道路工事の交通誘導の
仕事をしている村上さんにお話をうかがいました。村上さんは30代前半、
もともとはウェブデザインの会社に勤務されてましたが、そこをリストラされ、
次の仕事が見つかるまでのつなぎとして現在の交通誘導をされてるんだそうです。
場所はいつもの大阪のホテルのバーです。ここはいつもなら夜景がきれい
なんですが、その日はあいにくの雨でした。
「いや、今日はお忙しいところありがとうございます。お仕事は休みですか」
「はい。われわれの仕事は工事現場専門なので、基本的には工事がないときは
仕事できません」  「なるほど。転職をお考えだそうで」  「はい。
もともとIT畑出身ですし。ただ、IT業界は今、不景気なんですよね」
「ははあ。じゃあ今のお仕事はバイトみたいなもんですか」

「そうですね。いちおう警備会社所属ということになってますが、日給だし、
ほとんどバイトみたいなもんです。人の入れ替わりも激しいですし」
「そうですか。ところで、自分は怖い話のブログを書いてるんですが、
何かそういった経験はおありですか?」  「怖い話・・・幽霊とかですか?」
「まあそうです」  「うーん、ないこともないです」
「ぜひお聞かせください」  「はい、僕らの仕事は基本、2人一組で行うんです。
無線機と誘導灯を持って、工事してる路線の両端について車を止めたり、通したり」

「はい」  「それでね、警備員には60歳を過ぎた方が多いんです。
一般の会社を定年退職された方ですね」  「はい」  「で、元警察官だった
人も多いんです」  「でしょうね」  「それで米田さんという、やはり元警察官の
人と組んで仕事をしたときのことです。そのときは見通しのいい直線道路で、

通るのは車だけ。歩行者なんてほとんどいないとこでした。僕が道の
片側にいて、交通量の多い側でした」  「はい」  「ところがね。僕が誰も
通してないし、無線連絡もしてないのに、米田さんが向こう側で誰か歩行者を

通してるような動きをしてたんです」  「まったく通してない?」  「はい、

だから不思議に思ったんです。でね、2時間ほどして朝になって仕事が終わって、
米田さんと合流したら顔が真っ青だったんです。しかも小刻みに震えてる。
6月の話ですよ。それで、どうしたんですかって聞いたんです。そしたら、
幽霊を通してしまったって言うんです。よく聞いてみたら、僕が変だなと
思ったときのことでした」  「どういうことです」  「米田さんが言うには、
道路の脇、電信柱とガードレールの間ですね。そこをすり抜けるようにして
出てきた人影がある。米田さんは僕が徒歩の通行人を見逃したんだと思って

誘導灯をかざして誘導しようとしたんですが、うつむいた若い女性の顔を見て
あれっ!と思ったそうです。米田さん、20年以上警ら係をされてたんですが、
その間、死体を見たのは2回だけだったそうです。どちらも殺人などではなく、
行き倒れ。そのうちの1回は、若い女で、当時流行ってた合成麻薬をキメたまま
街に出てきて交差点で倒れたらしいんです。ニュースにはあんまりならないけど、
そういうことって多いみたいですよ。でね、そのときの女と顔が似てる。
髪型や体型もそっくり・・・まさか幽霊じゃないよな。そう思って振り返って
見たら、もう姿は消えてたんだそうです」  「うーん、それ、ただの通行人なのか、
それとも幽霊がお礼を言いにでも出てきたのか」  「わかんないです。僕は
その人そのものは見てないので。・・・ただ、人ではないんじゃないかと

思うものが通ることはあります。午前2時から4時あたりの時間帯が多いですね」

「人ではないもの?」  「何だかわかりませんが、たぶんみな同じ種類の
ものですよ」  「どういうこと?」  「そいつら、人の姿をしてて、
深夜なのに歩いてるんです。でもね、普通の人じゃないことはすぐに
わかります。顔が見えないんですよ。ないと言ったほうがいいかもしれません。
夜中だって街灯がありますし、工事のライトだってあるでしょ。それなのに、
どうやっても顔が見えないんです。黒い穴があいてるみたいに、顔の部分だけ

真っ暗な闇で」  「不思議な話ですね。幽霊とは違うんですか?」
「ええ。顔以外の部分は普通の人と変わらないんです。男も女もいますし、
子どもの体型のものもいます」  「それ、何なんでしょうかね?」
「わかりませんけど、僕が通せば、道路の向こうの相棒も通してやります。

以前、前の米田さんとは別の人に、あれ何ですかって聞いたことがあるんです。

そしたら・・・」  「そしたら?」  「俺もわからんけど、昔から
いるものだ。実害は特にないし、その時間しか通らないから、
じゃましない、関わらないようにしてるって言われました。それ以来、僕も
そうしてます」  「うーん」  「もしかしたら、人間に混じって暮らしてるのが、
夜だけ出てきてさまよい歩いてるのかもしれません。わからないですけど」
「不思議な話ですね。他にはありますか」  「うーん、あ、そうだ、あれがあるか。
夜の空って見たことがありますか」  「ありますよ。いちおう占星術をやって

ますから」  「じゃあわかりますかね。街の空ってけっこう明るいんです。

ライトとかの反射がありますから。特に明るいのは雲が出てる空ですね。

雨雲とかでない白い雲、そこに光の反射が映るんです」  「なんとなくわかります」
「でね、夜の交通誘導って暇なんです。大通りでないかぎり、ただ

立ってる時間のほうがずっと長いです」  「夜はそうでしょうね」  「だから、
ときたま夜空を見上げたりしてたんです。そしたら、雲の中に虫みたいな
ものが見えるんです」  「虫!」  「芋虫みたいな感じです。色は雲の色
だけど、それよりちょっと濃い感じで、長さは100m以上もあるんだと
思います。それが雲の中を這うようにして進んでいく。見るのは数日に
1回くらいの頻度ですけど」  「それも正体はわからないんですね」
「ええ、そうです。ただ、bigbossmanさんは星占いをやっておられるんで
しょう。だったら夜空を観察することは多いですよね」  「そうですけど、
でも雲を観察してるわけじゃないから。雲が多い日は星は見えないし・・・」
「ああ、そうですよね。じゃあ、今度 観察してみてください」
こういう話になったんです。その晩は「貴重なお話ありがとうございました。

早く次の仕事が見つかるといいですね」そう言って別れたんです。
でね、家に帰ってさっそく夜空を見てみたんです。うちには高性能の
天体望遠鏡がありますから。そしたら、その日はダメでしたが、翌日、
夜空いっぱいに雲が広がった夜にすみずみまで観察してたら、
たしかにそれらしきものがいたんです。雲と同じような色でまぎれてるんだと
思います。たしかに長さ100m以上の芋虫みたいなもの。
それが雲の中を見え隠れして動いてる。あっ! と思って望遠鏡の焦点を
合わせ、倍率を上げました。そしたらね、それが雲の塊りから別の雲の
塊りに移るときに顔が見えたんです。横顔でしたけど。でね、その顔、人間

みたいだったんです。もっと言えば観音様の仏像みたいな感じ。冠のようなのも
かぶってましたし。不思議でした・・・この話、信じてもらえますかね?