これは、自分が前に取材で知り合った霊能者さんから聞かせていただいた話です。
ある男性、40代後半の商社員の方だったそうですが、
中米の某国へ2年ほど長期出張していまして、
もちろんその年代ですから、日本に妻子を残した単身赴任です。
それが日本に帰ってきてから、いろいろとおかしなことが起こり始めました。
最初は、夜になると家鳴りがし始めました。

でも、普通の家鳴りはきしむような音がほとんどですよね。ところが

ポン、ポン、ポポンパという感じの音が、夜になると家の中のどこかで聞こえる。

太鼓を平手で叩いてる音に思えたそうですが、
あちこち見まわっても特に音がするようなものはない。
それで、家の外でしてるのが聞こえてくるんだろう、と思っていたそうです。

ところが、日がたつに連れて音ははっきりとしてきて、
リビングの天井付近で鳴っているとしか思えなくなってきました。
男性の家は戸建てで、リビングは吹き抜けの天井が高い造作になっていたんです。
まあでも、これだけなら不思議ではあるものの、
実害はないですよね。その家族の4歳と6歳の子どもさんも、
「また鳴ったね」 「これ妖精かなんかが叩いてるんじゃない」
そんな無邪気な会話もあったそうです。この太鼓の音が1ヶ月ほど続いて、
それから事態が変化しました。ある日中、専業主婦をしている奥さんが
1階の廊下に掃除機をかけていると、玄関の外で何やら叫ぶ声が聞こえました。
女の人の声なのは間違いないですが、外国語と思われる言葉で
意味はさっぱりわからなかったそうです。

その付近は、電気部品の組立工場ができたばかりで、

従業員には外国人もかなりいましたので、その人たちが騒いでるのかと

思いました。それにしても、扉のすぐ前で聞こえるので、

怖くなってスコープから覗いてみたものの人の姿はなし。思い切って
ドアを開けてみました。そしたら、家の外のコンクリの三和土の隅に、
人の背丈ほどの黒い煙のようなものが立っていたんです。
それは細かく動いていて、蚊柱のようにも見えましたが、
何の音もしませんでした。2,3歩近づいてみましたら、
煙はその奥さんの横をすり抜け、すうっと家の中に入ってしまったんです。
後を追いかけたものの、直線になった廊下には見えませんでしたし、
まさか煙がドアを開けてどこかの部屋に入ったとも思えなかったんですね。

気にはなったので、夕食のときに旦那さんに話したんですが、
「何かの見間違いじゃないか」と言われてしまいました。
ま、そのときはそれで納得したんです。でも、この煙は、それからちょくちょく
家の中に現れるようになったんです。台所仕事などをしていて、

ふっと背後に気配を感じて振り向くと、奥さんより少し低い高さで

煙が渦巻いていました。ただこれ、日中よりも、旦那さんが帰ってくる

7時過ぎからのほうが出現が多かったんです。前に太鼓の音が聞こえていた

リビングの天井隅に、もやもやした形で渦巻いている。もちろん

旦那さんも気がつき、長い剪定バサミを持ちだして煙に突っ込み、

かきまわしてみたりもしたんです。すると煙はいったん散らばるものの、

しばらくするとまた集まってくる。このときに旦那さんは

露骨に嫌な顔をしましたので、


奥さんは「これは何か知ってるんじゃないか」と思ったそうです。
でも、旦那さんに聞いても「俺がわかるわけないだろ」こんな調子だったんですね。
煙はだいたい3日に一度は見かけたそうです。それからまた2週間ほどして、
旦那さんが風呂に入っているときです。奥さんがたまたま風呂の前を通りかかると、
脱衣所へのドアの隙間から、あの煙がすうっと中に入っていくところだったんです。
気になったのでその前に立っていますと、ややあって中から「うわわっ!」
という旦那さんの叫び声が聞こえ、ドアを開けると、
旦那さんが脱衣所の鏡の前に裸で座り込んで両手を合わせていたんです。
そして旦那さんの顔の回りを取り巻くように煙がぐるぐる回っていました。
「あなた、ちょっとどうしたの?」そのとき、煙がぎゅっと集まったようになって
伸び上がり、そのとき鏡に映ったのを見てしまいました。

それは煙ではなく、長い髪をべったり濡らして額にはりつかせた、
色の浅黒い外国人の女性の顔だったんです。女性は血のように赤い涙を流し、
憤怒の形相をしていたそうです。・・・その日、子どもたちを寝かせてから、
奥さんは旦那さんを問い詰めまして、そして出張先であったことを
白状させたんですね。その内容は、ここでは書きませんが、
旦那さんは現地女性のひどい恨みを買っていたんです。そのことがあって、
煙はだんだんに人の姿をとるようになってきました。それで、つてをたどって、
冒頭で出てきた霊能者さんのところに話がいったわけです。霊能者さんは
50代の女性で、体格の良い、どこにでもいるようなオバちゃんなんですが、
(○○さん、すみません) 訪ねてきた夫婦を一室に招き入れて、
奥さんの前で、あらためて旦那さんに洗いざらいを話させたんです。

「あんたねえ、それで恨まれないわけがないことは、自分が一番よくわかるでしょ。
これね、外国の呪術だよ。私にははっきりはわからないけど、
何らかの方法で生霊をとばしているようだ。煙に見えてたのは、
現地語の細かい文字じゃないかなねえ。日本にも似たものはある」
続けて、すっかり恐縮してうつ向いてしまった旦那さんに、
「あんたが現地に戻ってケリをつけてくるのが当然のことだろう。
とりあえず当座は祓ってやることはできるが、それで済むことじゃない。いいね」
こう強く言いました。それから、「今すぐ呪法をやるから」
旦那さんを庭に連れだしたんです。郊外でしたので、かなりの広さの庭があり、
手入れをされた花壇があったんですが、「ここ壊すから、経費で払ってもらうよ」
旦那さんにシャベルを手渡して、そこに長方形の穴を掘らせたんです。

2m☓1m、深さも1mくらいの穴でした。それから旦那さんの袖をつかむと、
引っぱっていって近くにあった池に落としたんです。鯉の泳いでる庭の池って

ことです。「何するんですか?」旦那さんが立ち上がると、「うるさい」と

叱りつけ、旦那さんに、自分で掘った穴に仰向けに寝るように言いました。

旦那さんは躊躇していましたが、「これやらないと、あんたらの子どもにも

災いが行くよ」強くそう言われ、ミミズやらダンゴ虫の出てきている穴に、

ぐっしょり濡れた状態で横たわったんです。霊能者さんは、いったん屋内に戻り、

升いっぱいの米を持ってきました。そして呪言を唱えながら、旦那さんの体に

まんべんなくふりかけたんです。それから「このまま動いちゃいけないよ」

「いつまでです?」旦那さんが聞くと、「まあ2日、もしかしたらそれ以上かも。
 今あんたらの家にいる生霊がここ見つけるまでだね」

それで旦那さんは、まる2日ずっと穴の中に寝たきりだったんです。
その間、水だけは霊能者さんに飲ませてもらいましたが、食事はなし。
トイレも近くに置いたバケツにしてたんです。旦那さんが音を上げると、
「やかましい、これは罰なんだから黙ってやりなさいい」とまた怒られる。で、

2日目の夕方ですね。観念して寝ている旦那さんの上にあの煙がやってきたんです。
煙は旦那さんの体の上で急速に回転し、だんだん人型に変化していきました。
半裸の、現地人らしい女性の姿に変わりました。宙に浮いた状態で、
旦那さんの体と並行になり、手を伸ばして旦那さんの体に触ろうとしましたが、

散らばった米に触れたとたん、驚いたように引っ込め、放心したような目をして

消えました。それで終わりです。とりあえずは、その一家に害はなくなった

ということです。ここからは、話を聞いた自分と霊能者さんの会話。


「これ、米に呪力があったってことですか? お塩をまくみたいな」 「いやいや、

確かに散米といって神道では儀式にお米を使ったりするが、これは、そんなに

いいものじゃない。出てきた外国人の女にはお米がウジ虫に思えたはずだよ」
「えっ、ウジ虫!!」 「そう。つまり旦那が死んでると思ったろうってこと。
それで死体にウジがたかりついている」 「・・・そんなことできるんですか」
「生霊は普通の人間のように見たり聞いたりはできないから、そこをごまかす、
一時しのぎの方策だけどね。ショックだったのか、それとも目的を果たしたと

思ったか、生霊はいったん帰ったけど、根本的な解決にはならないから」

この後・・・中米に単身戻った旦那さんは現地で刺殺されました。犯人は

わかっていません。かなり酷い状態だった遺体は現地で火葬され、
子どもたちは奥さんとともに、実家に戻って暮らしてるんだそうです。

地鎮祭での散米