どうも。ある大学の3年生です。じゃあ、話していきます。
これね、俺の住んでたアパートでのことなんです。
あ、アパートって言ったら、事故物件のこととかと思うかもしれませんね。
怪談のマンガだと、そういうの多いから。けど、そうじゃないんです。
そこのアパート、俺、大学入学と同時に新築で入ったんですよ。
当然、まだ新しくてピカピカで、俺の前の住人てのはいません。
だからね、今起きてる変な現象は、アパートの外から入ってきたもんだと
思うんです。で、隣のやつにとり憑いた。え? 意味がわからないって?
ああ、スンマセン、俺、話下手なもんでね。順を追って説明していきます。
1週間ほど前ですね、朝の9時ころに大学へ行こうとしたら、
隣の部屋のドアもほぼ同時に開いて、宇和島が出てきて通路にばったり倒れて。

あ、宇和島ってのは隣に住んでるやつで、俺とは別の大学の2年生。
会えば話はしたけど、いっしょに遊びにとか飲みに行ったことはないです。
え? アパートの部屋? ああ、そうですね。俺が2階の右の角部屋で
205号室。宇和島がその手前の204号。1階に5部屋、2階も5部屋。
わかりやすいでしょ。それで、びっくりしたけど助け起こしたら、
「ああ、すみません、寝不足で」って言ったんで、
「なんだ、徹夜でソシャゲでもしてたのか?」って聞きました。
したら、「そうじゃないんです、大工が来ないように起きてたんです」って。
思わず「大工?」って聞き返してしまいました。
「はい、変な宅急便を受け取ってから、変な大工が部屋に出てくるようになって。
それも小さい」 ますます??ですよね。

寝不足で錯乱してるんだと思ったんで、「今日は休んで部屋に戻って寝ろ」
そう言ったら、「いや、もう自分の部屋にはいられないです」って。
しょうがないんで、「じやあ、俺、今からガッコ行くから、俺の部屋で
寝てれば。汚いけど」 「あ、ありがとうございます」
こんな感じのやりとりをしてね。で、俺が夕方6時ころ部屋に戻ったら、
宇和島はまだ寝てたんで、起こして近所のファミレスに連れ出し、
そこで事情を聞いたんです。場合によっちゃ心療内科とかに行くことを
勧めようと思ってました。こっからは宇和島と話した内容です。
「先週の月曜かな、夜に宅急便が来たんです。通販とか買ってないし、
変だなと思って住所見たら、実家からだったんですね。
あ、俺の実家って四国の○県です」 「実家に確認した?」

「いやそれが、後で電話かけてみたら、両親は何も送ってないって。
だから、誰かが実家の名を勝手に使ったってことになります」
「ふーん、妙だな。何か心あたりとかあんの?」 「それが全然。
で、ですね、送られてきたのは、菓子箱くらいのダンボールで、
けっこう重かったんです。最初は、実家が気を利かして暑中見舞い
の缶ビールとかを回してよこしたのかと思ったんです」 「それで?」
「ダンボールを開けてみたら木の箱が出てきました。あれは焼いてあるのかな、
真っ黒い板でできた箱。かなり重くて、動かしたら、中にすき間なく
物が詰まってる感じがしました。で、その箱、四隅が
カスガイで打ちつけられてたんです。釘抜きなんて持ってないから、
マイナスドライバーをねじ込んで無理くり開けました」 「中は?」

「それがね、空だったんですよ」 「え?」 「で、おかしなことに、
開けたとたんに箱が急に軽くなりました」 「うーん・・・」
「あ、それから、表蓋の裏に、なんか御札みたいなのが貼ってました」
「え、それ 今持ってるか?」 「いえ、そんときは事態がよくわかってなくて、
壊して、翌日燃えるゴミに出しちゃったんです」 「うーん、それで?」
「電話で実家に文句を言ったら、何も送ってないって答えが帰ってきて、
まあ悪友のたちのよくないイタズラかと思ってたんですが」
「なるほど、でも考えてみれば怖い話だよな。実在の住所を使って、
爆弾とか毒入りの食品とか送れるんだから」 「ええ、そうですね」
「それで?」 「次の日の夜です。俺、ベッドじゃなくて布団に寝てるんです。
ふつうは横向きで。寝たのは12時過ぎかなあ。

少しビール飲んでたんで、すぐ眠れるかと思ってたんですが、
金縛りになっちゃったんです。それも目を開けたまま」 「うーん、でもそれ、
目を開けてたつもりの夢なんじゃないか?」 「ああ、そう言われると
自信ないですけど、そんときはそう思ってました」 「で?」
「体は動かないし、目も閉じられない。そしたら、部屋の隅のほうから
荷車が出てきたんです」 「荷車?」 「あ、小さいやつですよ、
ちょうどスマホくらいの。荷車には木材が積んであって、押してたのが
小人だったんです」 「???」 「全部で4人いました。みな変な帽子を
かぶって、白い昔の着物、神主さんの服装みたいなのを着てて。
でね、そいつら、荷車から木材・・・割り箸くらいのやつを下ろすと、
トンテンカンと組み立て始めたんです。神社の建物ほど大きくはないけど、

何て言うんですかね、お堂? それをつくり出しました」
「ふーん、変わった夢だなあ」 「それで、動けないからしかたなくじっと
見てたんですが、そいつら、1時間くらい働いたら、そのお堂ごと
ふーっと消えて、体が動くようになりました。起き上がって床を見たけど、
何一つ残ってなかったんです」 「そりゃ、やっぱ夢だからだろ」
「でも、次の日も起きたんです。時間も同じ頃でしたね。お堂はほぼ完成し、
小人たちは今度は鳥居を組み出したんです」 「あ、やっぱ神社なのか」
「そうだと思います。お堂は白木だけど、鳥居は真っ赤に塗られてました」
「あ、そうだ、働いてる間、その小人らは何かしゃべったりしたか?」
「それが、黙々と動いてて、言葉は一言も。すごくつくり慣れてる感じでした」
「うーん」 「その日、動けるようになってから電気つけて、

部屋中を調べたんです。クローゼットの中とか全部見ましたが、なにもなくて」
「で?」 「3日目です。やっぱ来たんですよ。鳥居が完成し、そいつらは

いったん奥へ引っ込んでから、みなで何か平らなものを持ってきました」
「何だったん?」 「額ですよ。ほら、よく鳥居の上にくっついてる」 「ああ」
「それにね、宇和島神社って書いてあったんです。俺の名前」 「うーん」
「そいつらはそれを鳥居の下に置いて、それから初めて俺のほうを見ました。
顔はすごく粗雑にできてて、目は点、鼻は「し」の字、口は一本線で、
下手くそなマンガの人物みたいでした。でね、4人が並んで、俺のほうを指差して
大笑いしてから消えたんです」 「・・・」 「そのときにね、胸の心臓の
あたりがキューッと痛くなって、動けるようになってもドキドキしてました。
それで、次はあの額を鳥居に飾って完成なんだと思ったら、怖くなって」

「何で?」 「いや、すごく悪いことが起きる気がするんです」 「うーん」
「でね、次の日から寝てないんです。横になってないってことです。

一昨日は部屋の中でずっと起きてたし、昨日は24時間ファミレスに行って

朝方帰ってきました。それから、大学に行こうというところで倒れちゃって」

「まる2日間寝てないのか、それはダメだ。医者だよ、明日は休んで病院に

必ず行け」 「そうします」 「今夜はどうするんだ」 「あ、ここでずっと

寝かせてもらったんで、また徹夜してネトカフェへ行きます」まあ、こんな話で。

あとね、いちおうこんなことも聞いてみたんです。「お前、ここんとこ、何か神様に

怒られるようなこととかしたか」そしたら、宇和島は少し考えて「・・・いや、

こないだバイクで旅行したとき、大きな岩に注連縄張ったのの前でテント

張りました。でも、立ちションとかするわけないし、ちゃんとお賽銭も放って

 

おきましたよ、10円」 「・・・」でね、それからは隣の様子を

うかがってました。翌日、宇和島は病院に行ったらしく報告に来て「検査して

もらったら心臓に異常はなかったし、脳のMRIも撮ってもらって、
3日後に結果が出ます」こう言ってました。やはり心療内科的な
ものなんだろうと思ってたんですが・・・ 寝ている間に突然死しちゃったんです。
いや、病院で見てもらって安心したのか、部屋で寝ちゃったらしくて。
やつの大学の同じゼミのやつらが様子見にきて、鍵が開いてたんで中に入ったら
死んでたってことです。うーん、死因が何なのか、俺は聞いてないです。
今ごろは、宇和島神社に祀られて神様になってるんでしょうかね。
・・・こんな話なんですが、気になるのは、最初に何も入ってない宅急便が来たって
ことですよ。宇和島の話が本当だとしたら、その小人、まだアパートに
いるんじゃないですか。やつの部屋だけならいいけど、もし俺のとこに来たら。