今回はこういうお題でいきます。怪異の姿は見えず、声だけが聞こえる
怪談ってありますよね。これも考えてみれば不思議なことです。
何かが見えるというのは、対象に反射した光を目の網膜がとらえて、
それを視神経に電気信号として伝え、脳の中で再構築されるという
しくみになっているはずです。音声の場合も、空気の振動である音を
耳の鼓膜がキャッチして、やはり信号に変換されたのが脳内に
伝わって処理される。そう考えれば、見るのも聞くのもあんまり
違いはないんですよね。それなのに、不思議な声だけしか聞こえなかった
という話も少なからずあります。まあ、ある人 一人だけにしか聞こえなかった
場合などは、幻聴の可能性があるでしょう。ところが、その不可思議な声が
電気機器を通して録音されてしまうこともあります。

さらに、CDなどになって発売されてしまうことも。みなさんも、
霊の声が入った曲、なんて話は聞かれたことがあると思います。
このあたりは不思議ですよねえ。まあ、うがった見方をすれば、
レコード会社のほうで、話題づくりのためにわざとそういうのを入れてるのかも
しれません。商品を売るためには、どんなことでもやるのが資本主義社会です。
あと、昔から霊と電気機器は相性がいいんですよね。あのエジソンや
そのライバルであったニコラ・テスラが、競って霊界ラジオを開発していたのは
有名な話です。当時は、電波の周波数についての知識が深まり、
霊界の音は、ある波長で流れているんではないかという仮説があったわけです。
結果的に、どちらも霊界ラジオを開発することはできませんでした。
今回は、自分のところに集まってきた音の怪談をいくつかご紹介します。

専門学校生 屋敷信博さんの話
あ、どうも。じゃ、さっそく話をしていきますけど、これって
ただの偶然かもしれないんです。最初にそれはお断りしておきます。
俺ね、オカルトが好きで、そういう雑誌とかよく読むんですよ。
そしたら、ある雑誌で予言をうけとる方法ってのがあったんです。
ラジオを利用するんです。感度のいいラジオを用意して、デタラメに周波数を
合わせる。そのときに断片的に聞こえてきた内容をつなぎ合わせると
予言になってるという。でも、ただやってもダメなんです。
その雑誌によると、最初に「ジェーイシャー」という呪文を唱え、
それから、AMのラジオ・ウラジオストックに周波数を合わせる。
はい、ラジオ・ウラジオストックは、雑音が多いですけど、なんとか聞こえます。
それから、さらに細かいやり方があるんですが、そこは省略しますね。

AMじゃないとダメみたいです。これはたぶんFMよりも局数が多いからじゃ
ないでしょうか。でね、さっそく部屋に戻ってやってみたんです。
時間は夜の11時ころでした。え、信じてたかって?
いやあ、そう言われるとねえ、半信半疑よりも信じてないほうが
強かったです。でも、面白そうだし、話題にもなるじゃないですか。
呪文を唱え、防災用ラジオをラジオ・ウラジオストックに合わせると、
雑音混じりでロシア語が聞こえてきました。そっから雑誌のとおりに
やってみたんですが、うまくいかないんですよ。ほら、ラジオって
音楽を流してることが多いでしょ。そういうのに当たって、
意味のある内容にならなかったんです。30分くらいやって、
これはダメだ、もうあきらめようと思い始めたときです。

2秒ずつ3回チャンネルを回して、意味がつながったんです。
最初は女の声で「明日」、次が男で「落ちるんだって」、最後がまた女で
「山田君」。つなげるまでもないですよね。「山田が明日落ちる」
でね、僕が通ってるのは写真の専門学校なんですけど、親しい仲間の一人に
山田ってやつがいたんです。その翌日も授業で顔を合わせるはずでした。
そのときはね、ホント、面白半分だったんです。明日、山田が何かから落ちたら
ラジオの予言は本物ってことになるじゃないですか。翌朝9時に学校に行くと
山田がいたんで近づいてくと、眠そうな様子で、「昨日なあ、ラジオ聞いてて
徹夜した。俺、ふだんはあんまり聞かないんだけどな」こんなことを言いました。
いや、予言の話はしませんでしたよ。先入観になっちゃダメだと思って。
山田は、「嫌だなあ、やりたくねえなあ」とか言いながら、

教室の一番後ろの席で居眠りを始めまして。でね、その専門学校、けっこう
授業は厳しいんです。そのときは望遠レンズの使い方をやってたんですけど、
山田が机につっぷすたびに、俺がつついて起こしてました。
講師の先生は望遠で撮った画像をプロジェクターに映して解説して
たんですが、寒そうな港の写真が出ると、「ああああ」と叫んで山田が
急に立ち上がり、走って教室を出ていったんです。俺、「あ、連れもどしてきます」
そう言って後を追いかけたら、山田は呼びかけてもふり向きもせず、
非常階段をすごい勢いで駆け上がって屋上に出ると、手すりを登ってその上に立ち、
下にダイブしたんです。屋上は撮影のために出られるようになってました。
3階建てなんですけど、下は交通量の多い道路で、落ちた山田は
何台もの車に轢かれてズタズタに・・・ まあ、こんな話なんですよ。

番組制作会社 柏田洋平さんの話
あ、今晩は。俺ね、番組制作会社でディレクターをやってるんです。
いやいや、弱小のプロダクションですよ。大手のテレビ局からの仕事なんて
めったに来ません。でね、去年の6月ころ、夏に出すコンビニ向けDVDを
制作してたんです。ほら、夏場になると怪談ものって定番でしょ。
まあね、わずかな予算でできるし、俺らには稼ぎどきなんです。え、内容ですか?
ありきたりの心霊スポット探訪ですよ。タレントの卵の女の子と
売れてない芸人を連れて、夜に心霊スポットに行ってロケしてくる。
まあ、夜間撮影はそれなりに大変ですけどね。内容はほとんどやらせです。
最初から台本があって、ここで具合が悪くなってうずくまるとか
書いてあります。だって、そういうのがないと女の子は何もできませんよ。
素人同然なんだから。演技は臭いけど、それはしょうがないです。

あとね、ああいうDVDって、最初のほうでカメラとか照明の調子が悪くなったり
するでしょ。あれも全部 台本に入ってるんです。「すんませーん、
ライトが切れちゃいました」みたいなセリフもね。ええ、何から何まで
つくり物なんですよ。そのときには、霊能者の人も一人いたんですが、
じつをいうと、それ、霊能者じゃないんです。会社の役員の一人です。
ぜひやりたいって言うんで、貸衣装屋から和服を借りて着てもらって、
最後に女の子についた霊を祓う段取りでした。
行った先は、戦国時代の古戦場だった城跡です。城そのものはもうないけど、
石垣とか土台は残ってる。実際に人が討ち死にしてるのは確かなんですが、
戦国時代っていったら、もう500年も前のことでしょ。
幽霊がいるとしても、もう怨みなんて風化してるんじゃないかと・・・

え、俺ですか、いや、霊なんてまったく信じてなかったです。
スタッフにも信じてるやつなんていないと思いますよ。そのロケ現場でも、
何も不思議なことは起きませんでした。具合が悪くなった女の子を
ロケ車に運び込んで、霊能者役が除霊をする。そこまで撮り終えて、
現場でもすべて確認しました。もちろん、変なものとか映ってなかったです。
あとは会社に戻って加工するだけ。その手のCGって下手でもいいんです。
DVD買う客は、ほとんどギャグのつもりで見てますから、
むしろ突っ込みどころがあるほうがいい。でね、マックに取り込んだ映像を
流してたら、最後のほう、ニセ霊能者がお祓いのために
女の子の肩を榊の枝で打つシーンのところで、「ぎゃはははははは」って
大勢が笑う声が入ってたんです。何だこりゃって思いました。

でね、音声のやつを呼んだんです。「お前だろ、気を利かしてこんなの入れたの。
でも、これじゃ使えねえよ、わざとらしい」そう言ったら、
音声のやつは真っ青な顔になって、「いえ、僕じゃないです。
まだ何にもさわってません」って。2人でくり返して何度も聞きましたが、
その笑い声は少なくとも数十人のものが重なってました。
スペクトラムにもはっきり出てましたよ。で、聞いてるうちに頭痛くなって
きたんです。結局、使えないと思って、そこだけ音声を消して発売しましたが、
あんまり売れなかったですね。それで、後日談というか、その霊能者の役を
やった上司が、1ヶ月くらい後に会社で倒れたんです。脳腫瘍の診断で、
手術して1年以上になるのにまだ入院してます。あと、タレントの女の子は
芽が出ないまま実家に戻っちゃって、どうしてるかはわからないですね。

エジソンの霊界通信機