今回はこういうお題でいきます。月についてのお話です。
自分は大学の史学科を出ていますので、宇宙物理的な内容よりは、
この手の内容が専門なので、『竹取物語』について書いてみることにしました。
ただ、この内容は急に考えたものですので、話半分程度で聞いてください。



『竹取物語』・・・日本最古の物語と伝えられ、「物語の祖(おや)」と、
『枕草子』にも出てきます。成立年については諸説あるのですが、
遅くとも平安時代初期の10世紀半ばまでにできたのは間違いないと
思われます。これを語る切り口としてはいくらもあるでしょう。

高貴な身分の者が下賤の地に流された(貴種流移譚)。竹の中から
生まれたという(異常出生譚)。竹取の翁が富み栄えた(致富長者譚)。
求婚者へ難題を課していずれも失敗する(求婚難題譚)そして羽衣伝説・・・
説話を構成する要素が、まぜこぜになって取り入れられています。

それと、随所に出てくる言葉遊びも大きな特徴ですね。
どれを語ってもブログ1回分の内容にはなりそうですが・・・
ここでは「月」を中心にしなくてはなりませんし、ジブリの映画も
ありましたので、かぐや姫が元から住んでいた月の都と、
そこから追放された「罪」について考えてみます。

月の宮殿
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お話の最後の部分、月からの使者がかぐや姫を迎えに来たところで、
かぐや姫に薬を飲ませ、羽衣を着せかけようとします。
それを着てしまえば、心のありようが地上の者と異なり、
竹取の翁たちのことも忘れてしまうのです。

ここでかぐや姫は、「月の世界のものは不老不死で、悩みを持つことも
ありません」と述べています。 一般的に、月の都と言えば「月宮殿」・・・
須弥山の中腹をめぐる月にあるという月天子の宮殿のことを言います。
月天子は仏教における天部の一人で、もともとはインド神話の神でした。

ここから考えれば、須弥山はインド神話ですし、月天子は仏教の守護で、
元をたどればバラモン教です。これらの世界における理想郷を
集約したようなものが、月の世界ということになります。
『竹取物語』の成立した平安初期は、仏教が隆盛している時期であり、
また、宮廷人は中国古典に対する素養も深かったんです。

貴公子の求婚譚には、仙界である蓬莱山に金銀宝石の枝を取りに行く話も
あります。ですから、ここでいう月の都とは、日本古来の神道とは
かなりかけ離れた、異国風のパラダイスなんですね。迎えにくる天人の
衣装も、ひれを持つ中国風に書かれることが多いですよね。



今でこそ『竹取物語』といえば、きわめて日本的な話と考える人も多いでしょうが、
さまざまな文化が流れ着く果てであったから生じた物語とも言えそうです。
さて、話の中で、かぐや姫は「月の世界で罪を犯したため」地上に流された、
と書かれています。かぐや姫は急成長しましたので、

地上で暮らした時間はさして長くはないんですが、これによって罪が消え、
月世界へと戻ることができるようになります。では、この罪とはいったい
何だったんでしょう。ここは難しいところです。書かれてないですから、
「わからない」が正解なんですが、無理に少し考えてみます。

律令制においては、刑罰の種類は5つありました。
笞刑(むち打ち) 杖刑(つえ打ち) 徒刑(強制労働)流刑(島流し)
死刑(しけい)で、流刑は死刑に次いで重いものです。
Wikiで流刑を引いてみますと、

記録に残る最初の流刑は、允恭天皇時代に兄妹で情を通じたとされ、
伊予に流された木梨軽皇子と軽大娘皇女である、と出てきます。
兄妹婚、つまり近親相姦の罪だったんですね。また、これと関連して、
伊勢の斎宮の密通事件というのも思い浮かびます。

伊勢の斎宮
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伊勢神宮では古くから、未婚の内親王または女王から候補者が選ばれ、
亀卜により新たな斎王を定めました。
候補者は精進潔斎して斎宮に入り神の妻となるわけですが、
たびたび密通事件が起きてしまいます。

古くは、欽明・敏達紀にみる斎王2人の密通事件。
有名なところでは、同じ平安初期に成立した『伊勢物語』に記されている、
在原業平の斎宮密通事件(第69段)で、
この段のために、書名が『伊勢物語』となっていると考えられます。

文徳天皇の皇女、恬子内親王は異母弟の清和天皇の即位にともなって、
伊勢神宮の斎宮に選ばれましたが、在原業平がモデルとされる男が、
勅使として恬子内親王を訪ね、人が寝静まったころに密会した
記されています。しかも、この出会いにより恬子内親王は懐妊し、

生まれた子供は斎宮の管理者のもとに引き取られ、
養育されたということになっています。
この話が史実かどうかわかりませんが、
恋愛沙汰がそう大きな問題とはならなかった当時でも、

在原業平と斎宮
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事実であれば大スキャンダルだったと考えられます。
このような時代背景と、女性の流刑ということを合わせ考えれば、
かぐや姫の犯した罪というのは、
何か恋愛に関係したものだったんではないでしょうか。

さてさて、『竹取物語』で大きな部分を占めるのは、5人の貴公子の
求婚譚で、仏の御石の鉢(お釈迦様の使った金の鉢)、火鼠の皮衣、
龍の首の珠などを探しに貴公子たちは駈けずり回されます。
このあたりは異世界への興味や、当時の貴族の生活に対する
皮肉な目もあるのかもしれませんが

かぐや姫はこれらの貴公子の求婚をすべて跳ね返し、
さらには時の帝の求婚も断ります。物語の冒頭で、小さなかぐや姫が、
翁の切った竹から出てくるシーンは有名ですが、
なぜ、かぐや姫は小さい赤子の姿で生まれなくてはならなかったんでしょう。

話によれば、3ヶ月ほどで一人前の女性になったわけですから、
最初から大人の姿で落ちてきてもいいようなものです。
そして、かぐや姫は金持ちや高貴な身分の男たちの求婚を断り
続けるんですが、これも物語的には重要じゃないかと思いますね。

かぐや姫がもし、貴公子の誰かや帝の求婚を受け入れてしまったら、
罪は許されず、月の世界に帰ることはできなかったのではないか
という気がします。処女性を保ち続けることで、罪を清めることが
できたということです。どう思われますでしょうか? 
では、今回はこのへんで。

『竹取物語絵巻より』