その日は朝方に家庭のちょっとしたごたごたがあり、家を出るのが遅くなって、
いつもの通勤急行に乗れず、2本遅らせてしまった。
こんなことはここ何年もなかったんだが、
会社の始業にはなんとか間に合うだろうと思っていた。
途中乗車なんで座れないのはいつものことだ。

池田駅を通過したあたりで、
目の前でくたりと寝ていたOLが、急に目を見開いて立ち上がったので驚いた。
ザダッという音がして、そのOLだけでなくイスに座っていた
乗客がみなそろって立ち上がったのだ。
乗客はいっせいにくるりと車窓のほうを向き、直立不動の姿勢をとった。
自分のまわりで立っていた乗客も同じだった。

何事かと思っていると、乗客たちは完璧に同じタイミングで
右の車窓に向かって2礼し、パンパンと力強く2拍手した。
そして最後に一礼して、イス席の客は座り、
立っている客はバラバラに向きを変えた。窓の外に
有名な神社とかがあるわけじゃなく、いつもの見慣れた街並みだ。
自分はあっけにとられていたが、前のOLがとがめるような目で
自分を見た。他の乗客も自分のほうをうかがったり、
低い声で非難の言葉をささやき合っているようだ。

今のは何なんだ?
何も悪いことをしていないはずなのに、なぜかいたたまれない気分のまま、
電車はやっと梅田に着いた。降り際、ホームに足を着いたときに
ぐぎっという音がして足首をひねってしまった。足首を押さえて
しゃがみこんだ自分の後ろから、さっきのOLが追い越しざまに、
「ほら、お参りしないからバチが当たったんだよ」強くそう言い捨てると、

足早に改札へと向かっていった。