〇〇県立○△中学校2年 竹田大悟君の話

 

あ、僕は竹田といって、○△中学校の2年生です。僕が住んでるのは

○△市といって、人口が10万くらいの地方都市なんです。ここ、

市内に見佐瀬川という川が流れてて、けっこう大きい川なんです。

小学校のときに地域学習の時間に勉強しましたけど、一級河川って

いうらしいですね。○△市は海に面していて、河口のあたりは

幅が200m近くあるって言われてます。それで、こんなことを言うと

変に思われるかもしれないけど、その川って龍がいるんじゃないかと

思ってるんです。というのは、1回だけ見たことがあるんです。僕が

小学校4年のときだから、今から8年前になるのかな。ずいぶん

古い話だし、小学生の言うことなんて信用っできないと思うかも

しれませんけど、僕はたしかに見たと思ってるんです。

 

ええ、見たのは龍です。それもすごく大きいやつ。

見たのは頭だけなんですけど、それだけでも長さは大人の背丈より

長かったと思います。たぶん2m以上。あれは小学校の遠足の前の日

だったから、よく覚えてるんですよ。僕たちの学校は、6年生が修学旅行、

5年生が1泊の宿泊研修。4年生が徒歩での遠足があるんですが、

その前日が台風だったんです。だから明日の遠足は大丈夫かなあと思って

ました。もし中止だったら、朝一で連絡網が回るんです。で、あるかないか

わからないけど、準備だけはしなくちゃと思って、おやつとか下に敷く

シートなんかを買い物してたんです。雨風が強くて、町にはほとんど人が

出てなかったです。それで、傘もほとんど役に立たずずぶ濡れになりながら

○△川にかかる橋を渡ったときです。ふとなんか予感がして、欄干のすき間

 

から川面を見たんです。そしたら、龍がいたんですよ。水面から出てるのは

頭だけでしたけど。それでもボートくらいの大きさがありました。色は

焦げ茶に近い黒で、目だけが金色に光ってました。頭をもたげていたんだと

思います。龍だとすぐにわかりました。水面までは遠いけど、角もひげも

見えたんです。でね、僕と目が合っちゃったんです。しばらく睨み合ってた

というか、僕のほうはびっくりして動けなかったんですけどね。それが

1~2分続いて、そのあと龍は盛大な水しぶきを上げて海のほうに泳いで

いったんです。ああ、もちろんこのことは親にも話したし、学校でも話したん

ですが、誰も信じちゃくれませんでした。そりゃそうですよね。今考えれば

そんなことがあるわけないって僕も思いますから。残念ながら僕の他に見た

人はいません。あんな天気のときに川なんか見てる人がいるわけはないですから。

でも、あの目、すんごい金色に輝いてて、力があったんです。あ、遠足ですか、

できましたよ。翌日は快晴になったんです。

 

○□神社の宮司 川村秀明さんの話

 

ああ、龍の話ですね。昔からこの町にはそういう話をする人がちょくちょく

いたんですが、私はもちろんそんなことは信じちゃいませんでした。

でも、見ちゃったんですよ。そのときのことをお話します。私の神社は

裏が神域の森になってまして、その後ろも森・・・これは市有地なんですけど、

そのさらに後ろに○△川が流れてるんです。でね、その川近くの森を

つぶして製紙工場を誘致しようって話が出たんです。いや、そこは市有地で

神社の土地ではなかったんです。これに反対運動が起きましてね。町を

2つに分けて、賛成派と反対派がかなり長い間いがみあって。いや、私も

もちろん反対しましたが、結局県会議員の選挙になりまして、数十票の差で

賛成派の議員が勝っちゃったんです。それで森はつぶされて平地にされる

ことになり、工事が始まったんです。

 

そしたらね、とんでもないことが起きたんです。じつは私、見てたんです。

なんとか今からでも中止にできないかと工事の不備をさがしてたんです。

そしたら、いよいよ木の伐採が終わって地ならしにかかろうってとき、

突然川から龍が出てきたんですよ。それは電信柱より高くまで伸び上がり

ましたが、体はまだまだ川の中にあったと思います。でね龍は体を振ると

短い腕で、ブルドーザーをひっくり返して、また川に戻ったんです。

あとには波一つなかったです。一瞬のことであっけにとられました。幸いな

ことにブルドーザーの運転手やその他の工事関係者には怪我はなかったです。

それと、誰も龍を見たなんてことも言わなかったんですよ。だから私だけが

幻覚を見たのかと思ったくらいです。でも、あんなにはっきり見たのに・・・

でね、それからも工事は続けられたんですが、

 

なんと推進派の県会議員が急死しちゃったんです。それだけじゃなく、工事会社の

社長も急死。その他にも推進派の市会議員だけが何人も病気で入院しやったんです。

みんな現役でバリバリやってた人たちですよ。それで市長がブルっちゃったのか

わかりませんが、工事は延期。はい、中止にはなりませんでしたが、場所を変える

ことになって、そこの森はつぶされるのを免れたんです。でね、このことがあって、

関係者が死んだり病気になったりしたのは、私の神社の祟じゃないかなんて噂が

広まったんです。まさか、いくらなんでも神様がそんなことをするわけは

ありません。かといって龍がやったなんて言うわけにもいかず、あのときは

まいりましたよ。でね、こういうことがありまして、私はこの町の川には龍が

いるって信じてるんです。あれで興味を持って地方史を調べましたら、

歴史の節目にちょくちょく出てくるんですよ、龍の話がね。

 

地元○△テレビ局員 山田宏一さんの話

 

よろしくお願いします。さっそく話していきます。私は地元の○△テレビに

勤めてまして、地方テレビ局って人が少ないんで、アナウンサー、レポーター、

キャスター、記者を一人でやってるんです。さすがに

カメラとかはやってないですけど、それでね、10年前の台風のときです。

その日、港に取材に行ったんです。海が荒れて波が高いと

絵になるじゃないですか。それにそのときの台風って20数年ぶり

という大きなものだったんです。でね、土砂降りの雨の中でカッパ着て、

傘もささずに取材をしてたんですが、海の向こう、湾の対岸の工場地帯に

一筋の黒い線が空まで続いてるのが見えたんです。なんだろうと思ってたら、

その線はたちまち大きくなりまして。竜巻だと思いました。それが波しぶきを

まき散らして湾の中央に進んでくる。ますます巨大化しながら。

 

たいへんだ、こっちに向かってきてる。と思ったそのときです。

海からシュッと何かが出てきたんです。黒い龍でしたよ。あの絵で見るやつに

そっくりでした。その龍はぐるぐると円を描きながら空に舞い上がり、質巻きに

からみつくようにしていっしょにぐるぐる旋回したんです。そうしてるうちに、

だんだんに竜巻の勢いが弱まってきて、最後は線香の煙のようになって消えた

んです。そしたら龍は大きく空を回って、また海に頭から入って消えたんです。

たしかに見たんです。私だけじゃなく、カメラマンや音声さんも見たんですよ。

で、「今の撮ったか?」って聞いたら、カメラマンが「撮った!」って言うので、

局に帰って映像を見てみたら、それには何も写ってなかったんです。

ただ、大きな竜巻がひとりでに細くなって消えただけ。もちろんそれは

ニュースでは流しませんでしたよ。僕らが幻覚を見ただけだろうって言われるのが

みえてましたからね。でも、今でもあのときのメンバーとはよくこの話をしますよ。

 

鍼灸師 米村十蔵さんの話

 

この話、信じてもらえますかねえ。私は新国道沿いで鍼灸治療院を

やってるんですが、ある7月の夜にね、若い娘さんが一人訪ねてきたんです。

美人だったかどうかはわかりませんよ。私はこのとおり目が見えないもんで。

その人が言うには、急病人がいるので一緒に来て治療してほしいということ

だったんです。私はそういうことなら病院に行ったほうがいい。

なんなら救急車を呼んでも、と言ったんですが、西洋医学はその人は好まない。

それにそう重篤な症状でもないから、表に車を待たせてあるし十分なお礼を

するからなんとか来てほしいということだったんです。で、行きましたよ。

車で30分くらいかかったかな。港の方向に向かったと思いました。で、その間、

運転手は一言も話をしなかったです。でね、着いたのはおそらく、埠頭の倉庫群の

一つだと思います。潮のかおりがしてましたから。そこに娘さんに手を取られて

入っていき、そしたらね、なんだか生臭いんです。

 

病人はこちらですと娘さんが言い、すごく巨大な気配がしたんです。さわってみると

太さは、そうですね、直径2m近いものがとぐろを巻いている。しかも大きな鱗の

感触があったんです。「ここが痛いと言っています」そう言われたところを

さぐると、かなり大きな金属片があったんですよ。たぶんガードレールがめくれて

剥がれたものだと思いました。なんとかそれを抜き取り、するとそのものは

大きな吠え声を上げたんです。その後、傷を消毒し、傷の周囲の筋肉がこって

たんで指圧を加えました。それで治療は終わり。簡単な処置でした。娘さんは

たいそう喜んでくれて、これをお礼にと言って金属の粒を押し付けられたんです。

私は、もう大丈夫だろうが、消毒はかかさないほうがいいと言って

帰ってきたんです。家に戻って、財布からさきほどの金属を

取り出すと、妻がそれ、金じゃないかって言ったんです。

ええ、貴金属店へ持ってったら、30万円ほどで売れましたよ。

 

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