『殺人鬼 ――逆襲篇』(角川文庫)を読みました。
著者はミステリ作家の綾辻行人氏。
「覚醒篇」の続編。
殺人鬼が山から下りてきて、街でやるべきことをやる話。殺人鬼のやるべきこと――わかるよね?
街といっても、病院内と、隣接する院長宅が舞台のほとんどです。山からやってくる途中の道で、一仕事しますけど。
前作同様、スプラッター小説のなかにミステリ要素が仕込まれています。
残虐度は前作より増しましたが、ミステリ性とサスペンス性は低下した印象。
ミステリ性の部分は――前作ほど込み入った仕掛けではありません。
サスペンス性の部分――。
前作は、山のキャンプ場が舞台になっており、最初にキャンプをしているメンバーを見せておいて、ひとりずつ死亡退場していくというストーリー進行でしたので、全滅へ向かってカウントダウンを宣告されているような恐怖がありました。
ところが今回は、視点人物が切り替わるたびに、彼または彼女が殺人鬼と遭遇するパターンがくり返されるため、どこか流れ作業的な印象がつきまとい、残酷描写のわりに恐怖度はいまひとつ上がらない感じでした。
「殺人鬼」シリーズは、利点と難点が表裏一体になっている、作り手にとって悩ましい作品だと思います。
殺人鬼のキャラクターについての指摘です。
彼について判明しているのは、純粋な殺意のみを行動原理としていることだけ。素性不明で、外見的特徴も明確に描写されていません。
この正体不明ぶりが、ミステリ的なカラクリを仕込むには好都合なのですが、反面、キャラクター性を確立するためにはマイナスに働きます。
わかりやすい外見的な記号もなければ、読者の心に爪痕を残すような背景情報(出生の秘密など)も提供されない。
これでは、強烈な個性を印象づけるのは難しく、殺人シーンを量産するための便利なギミック以上の存在にはなれません。
もし、続編が執筆される機会があるなら、殺人鬼のキャラクターを立ててほしいと願う次第です。

