『ぼっち・ざ・ろっく!』に見る生き辛い人の心理 | 物語の面白さを考えるブログ

物語の面白さを考えるブログ

マンガ・映画・フィギュア・思索など

 

極度の人見知りで陰キャの主人公・後藤ひとり(通称〝ぼっち〟)が、バンド活動で輝こうとする日常系青春アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』。

毎回楽しく視聴していますが、ぼっちちゃんのキョドった言動を見るたびに、生き辛い思考パターンをしているなあと嘆息してしまいます。

 

【イントロダクション】

後藤ひとりは、現在、高校一年生。15年間、友達がいないほどの人見知りである。陰キャでも輝けそうなバンド活動にあこがれ、ギターを始めたものの、結局自分が楽器をやっていることをクラスの誰にも打ち明けられずに、一日6時間ひとりでギターの練習をしているだけの中学3年間をすごす(なので演奏技術は上達した)。高校生になったのを機に、今度こそバンド活動を始めようとするが――。

 

右端の目をそらしている子が主人公です(笑)

 

ぼっちちゃんが、他人とのコミュニケーションを成立させられないのはなぜか?

それはずばり、「先読みのしすぎ」をしているからです。

 

自分がこう言ったら、きっと相手はこういうネガディブな反応をするにちがいない

→ ネガディブな反応をされると自分が傷つくから、それを回避したい

→ ネガティブな反応を引き起こさないように、何かうまいことを言わねば

 

――と、頭の中で思考がグルグル回転し、結果、奇矯な言動に走ったり、フリーズしてしまう。

そもそも、「相手がネガティブな反応をするにちがいない」という予測が、的外れの一人相撲なのです。現実の相手を見ずに、自分の頭の中で相手のイメージを作りあげ、完結してしまっています。

相手の反応を気にしすぎるあまり、自分の本音を引っ込めてしまうので、本音で勝負したことがありません。

だから、自分に自信が持てない。

自信がないから、相手の反応を気にして、先読みして、自分が傷つかないように振る舞う。

それがまた的外れで――という負のスパイラル。

何とまあ、生き辛そうなことですこと。

 

相手の反応を先読みするとは、頭の中で、事前にシミュレーションをする――ストーリーを作ることです。

このストーリーが現実に沿っていれば、「気の利く人」「先見の明がある人」になりますが、現実と乖離していると「変な人」になってしまいます。

たとえば、劇中、ぼっちちゃんは、クラスメイトから話しかけてもらいたくて、ギターを持って学校へ行きます。

ギターを持っていれば、「これ、楽器?」「バンドとかやっているの?」などと、クラスメイトの方から話しかけてくるだろうとシミュレーションをしたのです。そういうストーリーを作ったのです。

ところが、現実には、誰も声をかけてきませんでした。

クラスメイトと話したかったら、自分の方から声をかければいいだけの話なのですが、自分のストーリーにどっぷりはまっているぼっちちゃんには、現実が見えていません。

そして、ストーリーどおりに事態が進行しなかったことに、勝手に傷ついて落ち込んでしまうのです。

生き辛そうですねえ。

 

  

メンタルが崩壊すると作画が崩壊する演出好き(笑)

 

作劇上の話をすれば、ぼっちちゃんの挙動不審ぶりが「笑い」の範疇におさまっているのは、他人に危害を加えず、自虐の範囲でおさえられているからです。

もし、ぼっちちゃんが、自分の「ストーリー」に執着し、それを「現実」よりも優先したらどうなるか?

あの手この手を使って、クラスメイトが自分に話しかけてこざるを得ないように仕向けることでしょう。

それは、他人を思いどおりにコントロールしようとする態度です。他者の自由意思を侵害する態度です。バウンダリーを侵犯する態度でもあります。

ここまで行くと笑えなくなります。

この一線を越えてしまうと、視聴者・読者は、不快感を催し、主人公を見捨てることでしょう。

フィクションだから許されるとか、コメディ調にすればいける、などと思うのは勘違いです。

視聴者・読者が不快感を催すラインを見誤ると、作品の命取りになりかねません。

 

   

 

こんな生き辛そうなぼっちちゃんですが、彼女が輝くシーンがありました。

第5話のオーディションのシーンと、第6話の路上ライブのシーンです。

高い演奏技術を持っているのに、自信のなさから、人前では実力を発揮できないぼっちちゃん。

ですが、このふたつのシーンではちがいました。

オーディションでは、バンドの仲間たちと一緒にライブハウスに出演したいとの思いがスイッチとなり、高度な演奏を披露することができました。

また、路上ライブでは、自分の演奏を聞くために足をとめてくれたお客さんを笑顔にするために、一生懸命ギターを奏でました。

これらのときは、「先読み」をしていないんですよね。

自分の本音に正直に従って動いている。

そして、いい結果を得ている。

こういうことを積み重ねていけば、自信がつき、生き辛い思考パターンからも脱却できると思うのですが、はてさて、どうなりますか。

ぼっちちゃんこと後藤ひとりは、〝ぼっち〟の名を返上できるのか。

生温かく見守りたいと思います。

 

 

 

ぼっちちゃんが本気を出したオーディション!

 

歌詞つき映像