◇第165話◇ 愕然と戦慄く  【鬼滅の刃・感想】 | 物語の面白さを考えるブログ

物語の面白さを考えるブログ

マンガ・映画・フィギュア・思索など

無一郎くんの身体を透視して、自分の子孫だと確信した黒死牟。

この透視、〝透き通る世界〟によるものかどうか、初読時は判断しかねました。

というのも、「遊郭」編で、無惨さまが、鬼は人間を見るだけで病気や遺伝子のことはわかると発言していたからです。

遺伝子の系統を知覚するだけなら、〝透き通る世界〟を体得していなくても可能ということになります。童磨も、肉質の違いから、カナヲとしのぶさんが血縁でないことを見抜いていましたし。

この透視の描写は、〝透き通る世界〟なのか、鬼特有の感覚によるスキャンなのか?

今では、〝透き通る世界〟を黒死牟が体得していることは判明していますが、血筋の判定は、やはり、鬼特有の感覚によるものでしょう。体内構造を把握できても、遺伝子の構成までは、さすがに視認できないと思うからです。でも、それだと、無一郎くんの身体をねぶるようにガン見した描写の意味がわからないので、〝透き通る世界〟を体得すると、鬼の感覚の精度も上がるのだと脳内補完しておきます。見るだけでDNA鑑定できるほどに。

 

黒死牟は、「継国家」の存否よりも、自分の子孫が――細胞が残っていたことの方に、感慨を抱きました。

ここに、縁壱さんに対するコンプレックスが透けて見えます。

縁壱さんが伝授した呼吸術は四百年たっても継承されているのに、自分の残し得たものは何もない、と、劣等感を持っていたのでしょう。そこへ、思いがけずに自分の子孫と出会って、テンションが上がってしまった。無一郎くんの精神力や剣技を値踏みするように確認していたのも、舐めプではなく、自分が残したもの(細胞)の価値をじっくりと鑑賞していたのかもしれません。そして、それが一流であったので、嬉しくなって、トドメを刺さず、鬼化して仲間にしようという発想につながった――このように考えると、黒死牟の心理として自然な気がします。

 

ひとつ気になるのが、黒死牟は、炭治郎の存在を――〝花札のような耳飾りをつけた鬼狩り〟の存在を知っていたのか、ということ。

知っていれば、縁壱憎しの黒死牟のこと、真っ先に抹殺しに飛んでいきそうなものです。

それをしなかったということは、無惨さまは、黒死牟と情報共有をしていなかったのか?

大正の時代にあの耳飾りを再び目にして、予想外すぎて正直ビビった、みたいな感情を知られたくないために、黙っていたとか?

それなら無惨さまの小物ぶりが際立つので、個人的には納得の理由ですけど。

真相は不明です。

 

無一郎くんの剣技の練度に感心した黒死牟、「此方も抜かねば不作法というもの」とつぶやき、初めて攻撃を見せます。

――月の呼吸。

これも初読時は「!?」でしたね。

これまでに判明していた情報によれば、呼吸の型の基本は炎・水・風・岩・雷の五つで、それらはすべて日の呼吸の派生ということでした。

後に、炎・水・風・岩・雷の剣術自体は、呼吸術より前に存在していて、呼吸術を導入したことにより技の精度が飛躍的に向上したことが判明しました。

これを踏まえても、月の呼吸の位置付けは、即座には明らかになりません。

「月の型の剣術」が既に存在していたわけではないのですから。

総合的に考えると、月の呼吸こそが、真なる意味で、日の呼吸の劣化模倣版ではなかったか。

縁壱さんは、無惨さまと遭遇した(この時点で日の呼吸の型が完成)あと、兄が鬼になったことを知りました。逆に言えば、巌勝は、鬼となった時点では、日の呼吸の型が十二個(本当は十三個)あることを知らなかったことになります。その概要を知ったのは、日の呼吸の型を知る者を殺戮する過程においてだと思われます。呼吸のやり方ではなく、剣技としての日の呼吸を。それに対抗する形で、月の呼吸の剣技を編み出して行ったのではないでしょうか。

黒死牟は縁壱さんを憎悪しつつ憧れた。縁壱になりたかった。日の呼吸をマスターしたかった。しかし、鬼の身体能力を手に入れても、それは叶わず、日の呼吸には及ばなかった。これでは、「日」よりも暗い、「月」と呼ぶのがせいぜいの代物ではないか。「月の呼吸」という名称には、炎・水・風・岩・雷とは別格であることを示す矜持と、「日」には届かない劣等感とが混交している気がします。

月の呼吸の型が、判明しただけで十六個もあるのは、日の呼吸に追いつけ追い越せの意識の表れではなかったでしょうか。

 

「読み返し感想」であるが故に、いろいろ考察できましたが、リアルタイムで読んだときは、黒死牟の強さがとにかく酷烈な印象を残した回でした。

天才・時透無一郎の片腕をあっさり斬り飛ばすわ、〝移流斬り〟を素手で完封するわ。

こんなのにどうやって勝つんだと、まるで予測が立ちませんでした。

 

こんなに強いのに、人気投票をすると、無一郎くんに圧倒的に劣ってしまう黒死牟が、無一郎くんを柱に縫い止め、子孫鬼化計画をうそぶいたところで

次回へ続く!

 

 

ペタしてね

 

フォローしてね!