◇第178話◇ 手を伸ばしても手を伸ばしても  【鬼滅の刃・感想】 | 物語の面白さを考えるブログ

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(週刊少年ジャンプ第46号 掲載)

 

黒死牟の過去編の続き。

これ、死にゆく黒死牟の意識が来し方をふり返っているとの理解でいいのか?

ラストで〝教えてくれ 縁壱〟と語りかけていることこら、

「神の視点」による過去の出来事の客観的な描写ではなく、

黒死牟の視点から見た縁壱との関わり、と理解した上で、思うところを述べます。

 

笛がいい味を出しています。

幼少のころ、巌勝が、縁壱にあたえた笛です。

人物の心情を小道具に仮託して表現する方法は有力ですので、

創作志望者は心得ておきましょう(←何から目線だ)。

 

双子というのは、結局は二人一組であって、分離してはダメなんだということを

感じさせられたエピソードでした。

もちろん、双子であっても、人格は独立した個人ですよ。

それを尊重しないというのではなく、ソウルメイト、みたいな感じ? で、

特別な絆が双子の間にはあり、それから逃れることはできないのかも、という話。

 

最初に分離を促したのは、戦国の武家の習わしでした。

双子は跡目争いの原因となるから、両方を生かすことはできない。

これは巌勝個人の力ではどうにもできない宿命です。

次に分離を意識させた出来事は、母の死でした。

母の日記から、子供心に巌勝が感じ取ったのは、母に愛されていたのは、

自分よりも縁壱だったということではなかったでしょうか。

母が頼りにしたのは――病に冒された半身をあずけたのは、縁壱でした。巌勝ではなく。

激しい嫉妬を感じるのは、子供として無理からぬこと。仕方のないこと。

縁壱の剣の才能に嫉妬と執着を感じるあたりは、巌勝個人の資質によるものかと思います。

巌勝は、終始、縁壱のことを、「天才」と見ていました。

一人の独立した人格を有する「人間」ではなく。

巌勝は、嫉妬というフィルターを通して縁壱を見ていたので、

縁壱も、自分と同じ弱さを持つ人間だ、などとは、思いもしなかったことでしょう。

実の父から兄と差別されて育てられること、生まれつき他人とは違う世界が見えること、

これらのことが、どれほどの孤独を縁壱にもたらしたことか。

巌勝が深い考えもなくあたえた笛は、縁壱の孤独を埋める宝物となったのかもしれません。

 

縁壱は、兄の身柄と心中を察して、自ら姿を消しました。

あずけられる予定だった寺にも行かず、行方不明となりました。

十年余りを経て再会したとき、縁壱は鬼狩りとなっていました。

彼が非の打ちどころのない人格者に成長したのは、産屋敷家の当主の影響が

大きかったのではないかと推察しておきます。

縁壱の出現により、巌勝の平穏は砕かれました。

縁壱の剣技に対する執着は、お家や妻子よりも重く、巌勝は鬼狩りとなる道を選びます。

弟を憎みながら、離れられないのです。

 

鍛錬を積み、縁壱とそっくりの痣の発現に到りましたが、

痣のもたらす寿命のタイムリミットが巌勝を追い詰めます。

縁壱に追いつくためには時間が足りない。

――この心の隙に、ぬるりと入ってくる〝あの方〟。

勧誘時に発するあの方の大物オーラは本当に凄い。

心が弱っているとき、人は特別な力に頼りたくなるものなのです。

深夜の通販番組を見た直後に電話したことのあるそこのあなた、

巌勝さんのことを笑える立場ではありませんよ。

巌勝は、刀を納め、あの方の前に膝を屈します。

このシーンの時系列を知りたい。

あの方が巌勝を勧誘したのは、縁壱と戦う前なのか後なのか。

 

鬼となってまで剣を磨いたというのに、縁壱には届かなかった。

寿命切れによる勝ち逃げを許してしまった。

黒死牟は縁壱の死体を両断しますが、懐から転がり出たのは、あの笛。

それは、黒死牟の一刀が、今しがた断ってしまいました。

兄弟の絆を。

壊れた笛を見て、鬼の目は涙を流します。

ここで己の本心に気付ければよかった。

しかし、それに気付くためには、さらに四百年もの時間を要するのでした。

 

死の間際の意識で、黒死牟は、自分は何も残せなかった、何者にもなれなかった、と、

悲観的な述懐をしています。

縁壱も同じ気持ちだったと知ったら、彼はどう思うでしょうか。

炭治郎の記憶――遺伝された先祖の記憶の中で、縁壱は自分のことをこう評しています。

 

「私は大切なものを何一つ守れず

 人生において為すべきことを為せなかった者だ」

「何の価値もない男なのだ」

 

大切なものとは何か。

それは〝兄〟ではなかったか。

兄が鬼に堕ちたとき、弟は自分に価値を見出せなくなったのではないか。

兄が鬼になったことと、自分の存在が無関係だと思えるほど、

鈍感でも無邪気でもなかったでしょうから。

黒死牟は、妻子を捨て、人であることを捨て、子孫を斬り捨て、侍を捨てまでしても、

何も手に入れられなかったと嘆きました。

では、天賦の才をあたえられ、神の寵愛を受けた縁壱が、すべてを手に入れたかといえば、

それは違います。

この兄弟は、結局、大切なものを己が手の中に掬うことができなかったのです。

兄弟の絆は、初めから、目の前にあったというのに。

これは、憐れな兄の物語にあらず、哀しき兄弟の物語。

 

黒死牟の亡骸が塵となって消えた後、残されたのは、二つに断たれた笛。

二つの断片は、寄り添っているようにも見えます。

 

次週へ続く――の、前に。

 

煉獄家の祖先:

「私には痣も出ない。特徴的な髪型を子孫に残すしか能のない男なのだ」

 

これが歴代の炎柱の手記に記されていた真実! な、わけないか。

 

次週へ続く!

 

 

今週のアオリ文:

(冒頭) 神に愛された弟。対する兄は――――

(末尾) 全てを捨て、残ったのは――…

 

目次コメント:

アニメ放送、最終話まで素晴

らしいクオリティで感激!ス

タッフの皆様に感謝!〈呼世晴〉

 

 

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