「冨岡義勇 外伝」に女マタギの八重が登場したので、
ちょっとマタギの話をしてみます。
マタギとは、北海道・東北から、北関東、甲信越地方にかけての
山岳地帯で、狩猟を生業とする人々のことを言います。
独特の狩猟文化を持っていたことから、
里人から、やや異種族視されていました。
そのひとつに、〝マタギ言葉〟があります。
彼らは、山の中では、平地の人々が話す〝里言葉〟を用いず、
マタギ言葉と呼ばれる独自の言葉を使っていました。
八重が銃のことを「シロビレ」と言っていましたが、
これがマタギ言葉です。
ただ、里でマタギ言葉が使用されたかは、
浅学な私には判断できません。
マタギの宗教観では、猟の獲物は、山の神からの
贈り物と考えられていました。
猟で山に入る前日に、女性と同衾することはタブーでした。
山の神は女神であり、女神に嫉妬されると、
贈り物を贈ってもらえず、不猟になると信じられていたからです。
女神を喜ばせるために、男性が性器を露出して踊る儀式も
存在していました。
このような宗教観でしたので、女性が猟師として入山することは、
基本的にあり得ないことです。
女のマタギが絶対に存在しなかったとは言い切れませんが、
八重の存在は、あくまでフィクションの嘘と考えた方がよいでしょう。
話は換わり――。
金屋子神(かなやごかみ、かなやこかみ)という神さまがいます。
中国地方を中心に、鍛冶師に信仰される神です。
性別については諸説ありますが、通常、女神とされています。
実際、古代製鉄の製鉄所であるタタラ場は、
女神の嫉妬を回避するため、女人禁制とされていました。
金屋子神は、血の穢れ、産の穢れを嫌うため、
技師長である村下(むらげ)は、妻が月経のとき、
および、お産のときは、タタラ操業をせず、
操業する場合は、家に帰らなかったと言います。
『もののけ姫』 では、タタラ場で女性が生き生きと働く様子が
描かれていましたが、フィクションの嘘として楽しむべきでしょう。
血と産の穢れを嫌う金屋子神ですが、
死の穢れは嫌わず、むしろ好んだようです。
製鉄の出来が悪いときは、仕事場に死体を飾ったり、
溶鉱炉に死体を投げ込んだりすることもあったらしい。
『うしおととら』で、獣の槍を造るさい、ジエメイが溶鉱炉に
身投げした結果、強力な霊剣ができるエピソードがありました。
これは、金屋子神と無関係ではないと、私は思っています。
マタギと鍛冶師の宗教観。
東日本と西日本という地域的な違いはあれど、
〝山の民〟の精神には、地域差を超えた
共通基盤があるように思われます。
みなさんは、どのように感じたでしょうか。
【参考】 マタギの小説
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黄色い牙
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著者・志茂田景樹。
第83回直木賞受賞作。
秋田県の阿仁マタギの社会を描いた傑作。
志茂田先生は、現地取材することなく、文献資料のみを頼みとし、
これを書き上げたのだから、凄い。
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邂逅の森 (文春文庫)
832円
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著者・熊谷達也。
第131回直木賞、第17回山本周五郎賞、ダブル受賞。
秋田県の阿仁マタギの生涯を描いた傑作。
時代設定が大正~昭和初期なので、「鬼滅」に近い。
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羆嵐 (新潮文庫)
562円
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記録文学の雄・吉村昭による、実際の熊害事件に取材した小説。
大正四年、北海道の開拓村を、一頭の羆が襲い、人間を食い殺す事件が発生。
軍隊まで出動する騒ぎとなったが、大自然の夜闇にまぎれて襲い来る
巨大熊の恐怖の前に、右往左往するばかりで有効打とならず。
凶暴な人食い熊を仕留めたのは、一人の老練な猟師の銃弾であった。
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熊撃ち (ちくま文庫)
648円
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同じく吉村昭の短編集。
七話とも実在の猟師に取材した実話。
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羆撃ち (小学館文庫)
689円
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大学卒業後、羆猟師となった久保俊治によるノンフィクション。
未読。
引っ越しする羽目になったので、大量の蔵書を売っ払ってもーた。
そのうちの一冊であったのだ……。
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高安犬物語/爪王 (地球人ライブラリー)
Amazon |
著者は、動物文学の第一人者・戸川幸夫。
五話収録の短編集。
「飴色角と三本指」は、飴色の角を持つカモシカと、
三本指のマタギとの死闘を描いた傑作。
気高きカモシカ〝飴色角〟の生きざまが泣ける。
個人的な一推しは、鷹匠と鷹の絆を描いた「爪王」である。







