突如、妹の背中から出現した〝お兄ちゃん〟。
目下、作劇上の急務は、
彼のキャラを立てることである。
というのも、彼は、この後、無類の強さを見せつけ
鬼殺隊を圧倒するのであるが、
ポッと出の後出しキャラが主人公を追い詰めたら、
読者はそれを納得しない可能性があるからである。
現段階では、何の伏線もなしに、強力な第二形態が
現れたようなものである(本当は伏線はあるのだが)。
ご都合展開と思われかねない崖っぷちだ。
突然の登場に読者が呆気にとられている今のうちに、
早急に彼を魅力的な敵役に仕立て上げねばならぬ。
柱の場合、本来のキャラクターとは正反対の
第一印象を読者に与えることにより、
そのギャップを利用してキャラを立ててきた。
堕姫の場合、遊郭での振る舞いを描写することで、
その驕慢な性格を表現してきた。
しかし、〝お兄ちゃん〟には、
そのようなエピソードを用意する暇がない。
では、どうするか?
吾峠先生は、まず、彼の名前の由来を、
ナレーションで説明することから始めた。
遊郭における「妓夫」という役職の解説。
そして、それがそのまま、
彼の名前となっていること。
ここで与えられた知識により、
読者は、彼の生い立ちを語る過去編に
すんなり入って行ける仕組みにもなっている。
彼の名は〝妓夫太郎〟。
次に、台詞によって、キャラの特徴を
印象づけていく。
妓夫太郎は、ひたすらに妬みを口にする。
「~なぁあ」と語尾をのばす口調も耳に残る。
これで、ジメジメした陰キャであることが表現できた。
そして、決定的なキーワードの投入。
すなわち、〝取り立てる〟である。
彼が徴収人であったことが説明済みなので、
この語はピタリと嵌まる。
加えて、借金のない人間から取り立てを行う
理不尽さも表現されており、
読者は威圧感をも覚えるであろう。
「ぶっ殺す」などの月並みな台詞では、
このような効果は望めない。
最後の仕上げは宇髄天元との掛け合いである。
女房が三人いるという天元の発言に、
一拍の無言の間を置き、
妓夫太郎は嫉妬全開で許せないと応じる。
この〝間〟の存在により、
この会話は漫才として成立している。
つまり、妓夫太郎は、天元の〝相方〟として、
読者に認知される運びとなったのである。
ここまでくれば、読者は、妓夫太郎の存在を、
場当たり的な後出しジャンケンとは思わない。
天元とのさらなる絡みを見たいと望むはずだ。
吾峠先生は、短い間でキャラを立てるのが、
本当に上手い。
妓夫太郎が血鬼術〝飛び血鎌〟を繰り出せば、
それを凌いだ天元が、爆薬で逆襲する。
両者、互角の応酬。
堕姫の帯が防護の天蓋となり、
爆発の衝撃を防いだ。
妹を肩車した妓夫太郎が不敵に宣言する。
「俺たちは二人で一つだからなあ」
〝上弦の陸〟との真の戦いは、始まったばかり!
次回へ続く!

