その日、事務所に仲間達が集まり、以前光姫が話した事について語り合っていた。
れなとれみの姉妹はテーブルに両手をつき、その横の葵とラオンは深刻そうな顔だ。
ドクロ、テリーの死神兄妹は椅子に深く寄りかかり、粉砕男は光姫と並んで一同を見渡す。
光姫は、冠を磨きながら語る。
「まず白の刺客ですが、彼らが闇の一派にどう出るかまだ不明な以上、下手な事はできません。その為、以前地球に出没した闇の一派の動向を、我々光王国が探っていこうと考えてます」
ここでドクロが手を上げてその場にいる全員に質問した。
「この間出てきた闇の一派に何か聞けないの?確かやつらはここからそう遠くないポリスタウンに収監されたんでしょ?」
そういえばそうだ。以前現れた闇の一派はれなと光姫に鎮圧され、犯罪者を取り締まる刑務所の街、ポリスタウンに送られた。
粉砕男がこれに回答する。
「いや、既に尋問は行われてるらしいが、やつらの口は異常な固さのようだ。噂によれば、最終的に非情を承知で拷問にまでかけたと言われているが、それでも何も情報を吐かないらしい」
「んん流石粉砕男ぉ、詳しいいい!!」
ドクロは顔を赤くし、クネクネ気味が悪い動きをしながら全力でデレる。テリーは、妹は渡さんとばかりに骨の顔に怒りを浮かべながら粉砕男を睨み、粉砕男は訳も分からず困惑する。
拷問は噂程度の情報だが…やつらが喋ったという情報が流れていない辺り、確かにまだ有力な手掛かりは出てないのだろう。
れなはじれったそうに拳を握り、震わせた。
「闇の一派の家とか分かれば潜入して戦うのに」
ラオンが頷く。二人共単純過ぎるが故、とにかく戦って事を済ませようとしている…。まあ、闇の一派のあの様子を見る限り、今回も多少戦う必要はあると思われるが。
光姫は今後の経緯を話した。
「私達もできる限り闇の一派のアジトを突き止めるよう動きます。以前現れた闇の一派は瞬間移動してきた為、宇宙から来たのか、それとも既に地球に潜伏していたのかまだ分かりませんが…瞬間移動時の目的地が遠ければ遠い程、大掛かりなワープ装置が必要になります。彼等が現れたあの小さなワープ装置を見る限り、そこまで遠い場所からワープしてきたようには思えません。すなわち彼等は地球のどこかにアジトを建設、そこから来た可能性が高いです」
光姫の長い長い話に、一同はテンポよく頷いていた。
やる事をまとめれば、闇の一派は地球のどこかに身を潜めている可能性が高く、やつらの場所を突き止める為に行動を起こす。それが今後の予定だ。
その日は一同は解散となり、それぞれの自宅へ帰っていった。
れなとれみは自宅である研究所に帰ると、直ぐ様博士の肩を揉んであげていた。
「ありがとなあ二人共」
順番で肩を揉む二人に、博士は嬉しそうに笑ってくれた。
「…二人共、また何かと戦う気なのか?」
博士の問いに、二人は迷わず頷く。博士は複雑な表情で、重い声で話しだした。
「…二人共最近心配なんだよ。日々色々な敵と色々な事情で戦ってるものだから、二人にとって戦いが日常的なのも分かる。だがな…」
博士は椅子を回し、二人の方を見る。いつも騒がしい二人が、博士の前では静かに彼の話を聞いてくれる。
「お前達二人は私の大切な娘なんだ」
その一言に、二人は顔を見合わせ、再び博士の方を見る。
どこか湿っぽいような、しかしそれでいて透き通った空気が場を渦巻く。
「…心配しないでよ博士!」
れなは明るく声を出した。
その横でれみも胸を張り、得意げな動きで博士を安心させようとする。
「私達は勝てなそうな敵に出会ったらちゃんと逃げるから!絶対大丈夫、命だけはいつも気をつけてるから!」
単純な答えに博士は微笑む。
2階に上がるれなとれみ。
博士は二人の並んだ後ろ姿を見つめていた。
また何か大きな力と戦おうとしている。長年一緒に暮らし続けた関係である為、言われなくても分かるのだ。
勿論二人を信用してない訳では無い。だが最近、二人を心配する機会が多くなったような気がしてならなかった。
…なぜなら、博士もまた、ある意味戦う立場に立たされているからなのだ。
博士の携帯が鳴る。
ため息混じりで手に取り、応答する。
「はい、もしもし」
「考えは変わりましたかね?」
どこか高圧的な声質の女性の声…ブルムからの電話だ。
ブルムの声とアンコウ鉱山の調査の件がもはやセットになっていた博士は、迷わず即答した。
「何を言われても動きませんよ私は。何度でも言います。命を失っては、元も子もない。絶対調査には協力しません」
…電話の向こう側のブルムは一瞬黙りこんだ後、薄ら笑いを浮かべているであろう怪しげな口調で言い放つ。
「あなたの大切な娘さん達に協力してもらっても良いんですよ?」
博士の真剣な表情が、水に流されたかのように消えた。
そして、満面に焦りを浮かべながら早口で言う。
「な、何を企んでる!?れなとれみだけは巻き込ませない!」
「なら、早く答えを出す事です。我々が一番望んでる答えを。あなた、頭の良さの割には人情家である事は知っていますからね」
…ブルムは電話を切ってしまった。
「くそっ!」
ニ階にいるれなたちに聞かれてはいけない。博士は静かな声で、苦悩を吐く。
…単純なれなたち。
もしこの事を言えば、危険な調査に協力してしまうだろう。
そんな事は断じてさせない。アンコウ鉱山は禁域とされる危険地帯なのだ。そんな所に出向けば、いくられなたちでも…。
とにかく何とか調査を断らなければならない。博士は思案を巡らせた。
そんな重い空気に満たされる一階とは裏腹に、れなとれみは互いにある本を読んで楽しんでいた。
テクニカルシティ情報ガイドという本だ。テクニカルシティにまつわる様々な情報を載せた情報誌。ここに住んでる自分達でも知らないような秘密が多く書かれており、中々面白いのだ。
今日もこの本から、おかしな物を発見した。
テクニカルシティの地面に嵌め込まれた多くのマンホール。そのマンホールの中に、一つだけ秘密のマンホールがあるのだそう。そのマンホールの下には黄金の世界が広がっており、永遠に金に困らないのだという。
あまりにも胡散臭い話だが、二人はこれをあっさりと信じてしまった。
「よーしれみ!早速このマンホールを見つけよう!博士の為にも頑張ろう!」
そんな迷信を信じる二人の意志は善意。博士の為に二階の窓から飛び出し、さながら映画のワンシーンのような光景を通行人に見せつけた。
外に出た二人は辺りを見渡す。
れみが、ある方向を指差す。
「あ!見つけた!」
そこにはマンホールがあった。れみは早速マンホールにかけより、こじ開ける。
…しかし、下に続いてるのは黄金要素など欠片もない、寂しい暗闇だった。
れみは再び周囲を見渡す。
テクニカルシティはかなりの都市なのだが、この二人、地道な作業で全てのマンホールを開けるつもりだったのだ。
ここでなければ次、次でなければ次の次…片っ端からマンホールを開けまくっていた。
飽きる事も疑う事もなく続けていき、開けたマンホールの数はついに六十を越える。れなは頭を掻き、れみに言う。
「全然見つからないね」
「あの本に載ってたから、存在しない訳ないしね。もう少し粘ろうお姉ちゃん!」
再び作業を開始しようとした二人だが…。
「よお嬢ちゃん達。あんたら黄金のマンホールを探してるんだってな」
声がした。
二人に声をかけたのは、ハットを右手で抑えた背の高い男。
…黄昏の狙撃手カールだ。
二人は、以前葵に話されたカールの話を思い出し、目の前にいる彼と特徴を照らし合わせる。
「カール!!??」
声を揃える二人。良い反応に、カールはさぞ面白そうに笑った。
「へへへ、そのマンホールの話の秘密、俺が知ってるぜ」
怪しい彼だが、れな達は単純だ。秘密を知ってるなら、教えてもらうのみ。
「マンホールの場所を知ってるの?なら教えてよ!」
歩み寄ってきたれみにニヤリと微笑み、カールはある方向を指差す。
そこには、先程れなたちが開けたマンホールがあった。
れなが首を傾げる。
「え?あそこはもう調べたよ」
「まあ見てな」
カールはそのマンホールに近づき、覗き込む。
暗闇が続き、奥底から僅かに水の流れる音が聞こえるのみだが…。一見何でもない光景を見て、彼は何かを確信したようだ。
「あらよっと」
カールは、右手を穴の奥に伸ばす。
…周りの人々は、配管工事か何かだと思い込んでいたようだ。特に気にする事もなく、通り過ぎていく。
…そしてこの時、穴の奥に伸ばされたカールの右手に、銃が握られている事も、当然周りは知る由もない。
地中に、小さな発砲音が響く。
周りの人々は一瞬聞き取って足を止めるが、気のせいかと思い、再び歩き出した。
「いってええええ!!!」
地中から声が響き、何かが穴の奥から飛び出してきた!
素早くかわすカール。穴から現れたのは、全身が黄金に輝くモグラだった!
驚くれなとれみに、モグラは両手の爪を向けて怒り狂う。
「この野郎!貴様ら何を撃ちやがった!」
「え、違う違う私ら違う!」
二人揃ってテンポよく手を振るう。カールはモグラに歩み寄り、右手に持つ銃を見せつける。
「俺だよ。この嬢ちゃん達があんたをお探しでな」
モグラはカールを見上げながら、目をつり上げる。
状況がいまいち分からないれなとれみに、カールは説明する。
「黄金マンホールの正体はこのモグラ野郎だ。あの本は闇姫軍が作ったデマブック。このモグラ野郎、キンモーグは闇姫軍の下っ端の一人って訳だ。簡単だろ」
「なにっ、や・み・ひ・め・ぐ・ん!?」
れなが一気に戦闘態勢に移る!キンモーグは爪を構えながら、ゆっくりと横に歩いていく。
互いに目を合わせ合う…。れなの拳、キンモーグの爪…。果たして先に当たるのはどちらか。
周囲にいつの間にか人も集まり、突如始まった戦いに胸を踊らせている。
カールは腕を組み、れみは…噂がデマだった事にショックを受けて放心状態。
キンモーグはある地点で足を止める。
人の多い街が一瞬沈黙に包まれ、風だけが静かに吹いた。
「…とりゃあ!!」
キンモーグは地を蹴り、丸っこい体をできる限り捻りながられな目掛けて飛んでいく!
そのまま爪を振り、れなを腕を狙う!
れなは迷う事なく拳を振り上げ、キンモーグの腹部を殴り上げた!!
勝負は一瞬でついた。キンモーグはすぐにダウンし、地面に叩きつけられる。
テクニカルシティのアンドロイドの力の勝利に、人々は歓声をあげた。れなは降りかかる歓声に拳を掲げ、やったぜと言わんばかりのポーズだ。
…そんな彼女を見て、カールは先程とはどこか異なる笑みを見せる。
「…やるじゃねえか」
…この時こそ勝利の喜びに浸っていたれなだったが、あの噂が嘘だった事は変わりない。それに気づくと何だか急に腹が立ってきた。
倒れたキンモーグを片手で持ち上げ、ヤクザさながらキンモーグを怒鳴り散らす。
「おいてめえ!!金の力で人を欺くたぁ…。…ひどい!やつめ!が!」
…何も考えずに怒りをぶつけようとしたので、上手く台詞が繋がらずに不自然な間が空く。キンモーグはこの期に及んでまだ馬鹿にした笑みを浮かべてる。
「キサマァ!許さんぞ!!」
れなは更に怒りを叩きつけるが…そんな彼女の肩に、誰かが手を置いた。
え?と振り返るれな。
…そこには、ヘルメットを被った男達が、れなを睨んでいた。
「外したマンホール、しっかり直して頂きますよ…」
テクニカルシティ水道局の者達だった。
れなとれみ、そしてキンモーグは、お仕置きとしてマンホールの点検作業をやらされる事となった。
「じゃ、頑張ってくれい」
…そんななか、カールは手を振りながら去っていった。何というか、何と手際の良いやつだ。
「ちょっとこんな時こそ手伝ってくれよー!!」
れなはマンホールの蓋を振り回し、泣きじゃくった…。