これから、夢のライブが始まる。

 一夜限り幻のステージ…
 
 こんな日が来るとは、思いもしなかった。欅坂を去ってから、二度と踏み入れることの無い場所だと、思っていた。

 

 あの日、あの一本の電話から全てが始まった。そして、小さな願望から大きな夢へと膨らんでいった。

 その電話をくれたのは、志田愛佳だった。
「もしもし、てち?久しぶり、元気だった?」
「えっ、ぴっぴ?ぴっぴなの?」
「そう。良かった覚えててくれて。」
「忘れる訳ないじゃん」
「フフフ…ありがとう。ところで、理佐が卒業するって聞いた?」
「うん。聞いたよ。」
「ねえ、一度さ、一期生みんなで集まらない?」
「うんうん、いいね。集まろうよ。」



 そんな電話から一週間。現役、OGの一期生が集まった。
 懐かしい顔ぶれに、みんな笑顔が絶えなかった。しばらく離れていたのに、そんなブランクなど感じさせないような、安心感があった。だから、あの頃と同じようにみんなが一つになった。

「私たちだけで、ライブやりたいなぁ…きっと楽しいだろうな。」
 隣でみんなを見ながら、理佐が呟いた。
「いいねぇ、やりたいね。」
「うん…でも…無理だよね…」
そう言いながら、理佐は悲しい顔をして、うつむいた。そんな理佐が切なくて、思わず大きな声を出してしまった。
「ううん、やろうよ!」
それが聞こえたのだろう、菅井友香が、ワイングラス片手に横に座った。
「何をやるって?」
「ん?一期生だけで、ライブをやりたいねって、理佐と話してたの。」
「えーっ!それいい!やろうよ!」
そして、友香は目を輝かせながら、みんなに向かって言った。
「ねえ、みんな、一期生だけでライブやらない?」
うるさかったメンバーが一瞬にして静まり、そして、一瞬にして沸いた。
「いいじゃん!」「やりたい!」
「やろうよ!」「ゆっかーすごーい!」「いいね、いいね。」
それから口々に、こんな事したい、あんなことをやりたいと、盛り上がった。
 けれど、誰もが叶わぬ夢だとわかっていた。それでも、みんなで夢を語り合える事が、嬉しくて仕方なかった。


 しかし、本当に無理な話しなんだろうか?夢でしかないのだろうか?どうにか実現できないかな?私は、どうしても諦め切れなかった。

 そこで私は、長濱ねるに相談してみた。
「ねぇ、ねる、この前の話しだけどさ、やっぱりやれないかな?」
「え?この前の話しって?」
「一期生だけでライブしたいって話し。私、どうしても諦め切れないんだよね。」
「ああ、あれか、あれは…だって…」
「私も、ずっと思ってたんだ。一期生だけでライブしてみたいって。ねるは、思わない?」
「うん。私だって、できたらいいなって思うよ。でもさ…」
「じゃぁ、ダメもとでやってみない?」
「えっ…でも…」
ねるは、無理だとはなっから諦めていた。

「私、欅坂が大好きだった。ホントに最高のグループだった。私はただ、それを守りたくて…私がいたら、きっと駄目になるって思って、だから、欅坂を辞めた。けど、結局、欅坂はなくなってしまった。」
「てち…」
「でもそれは、私が間違ってたんだ。私が、もっと頑張っていればって思うと、悔しくて…」
「それは違うよ。てちのせいじゃない。欅坂は、こうなる運命だったんだよ。」
「だからね、どうしても一期生だけでライブやりたいの。ねぇ、ねる、お願い。協力して?お願い。」
「てち……
うん。わかった。やってみるか。」
「ありがとう。ねる。」

 こうして、ねると二人、大きな夢への一歩を踏み出した。

 先ずは、運営に協力を求めた。何度断られても食い下がり、ようやく協力を得られるようになった。そして、ねると手分けして、辞めたメンバーを説得してまわった。




 
 
 理佐が卒業すると聞いた時、とうとうこの日が来たのかと思った。しかし、驚きはほとんどなかった。それはなんとなく感じていたし、むしろほっとした。欅から櫻に変わり、険しい坂を超え、ここまでよく頑張ってきた。やっと理佐は、楽になれるのではないか、そう思った。
 私が、欅坂を辞めると告げた時、
「嘘でしょ、てち、私を置いていかないで…お願い、ねぇ、てち…」
理佐は、泣きながら私を引き止めた。
「理佐なら大丈夫だよ。私がいなくても、大丈夫。」
そう言って私は、理佐を振り切り、欅坂を去った。
 そして、自分の気持ちも一緒に、置き去りにしてきた…筈だった…

 私には、この胸にずっと、秘めた想いがあった。誰にも言えない、想い…
 それは、欅坂を去ってからも忘れられず、それどころろか、ますます大きくなってゆくこの想い…
 だから決めた。
 もし、このライブが実現したら、ちゃんと伝えよう。きっと届かないと思うけど、でも、それでも、伝えたい。私のこの想いを…




 そして、とうとうこの日を迎えた。
 理佐の夢。私の夢。みんなの夢。




 楽屋で、理佐が興奮気味に言った。
「てち、夢じゃないよね?これは、現実だよね?」
「うん。夢じゃない。夢じゃないよ。」
「うん、うん。」
理佐が何度も頷く。


「みんな!」
友香の一声で、全員が円陣を組んだ。

 ああ、懐かしいなぁ…

「「謙虚!優しさ!絆!キラキラ輝け欅坂46!はい!」」

 これこれ!やっぱこれだよ。
 もう最高~!
 涙が出そうだ。



 Overtureが、流れ出した。
 きっと最後のOverture。
 そして、大きな歓声が上がる。


「さあ、行くよ!」
キャプテンの掛け声で、ステージへと飛び出して行く。

 厳しいオーディションを勝ち抜いて、集まったメンバー。みんなで一から作り上げてきた、このチーム。
 今はもう、どこにも存在しないこのグループだけれど、欅坂は確かにここにあったんだ。



 汗と、涙と、笑顔、大きな歓声。

 永久に続けと願う、夢の時間だった。
 けれども、あっという間に終わってしまった、夢の時間だった。





 楽屋に戻ると、私は理佐を抱きしめた。
「てち?」
「理佐、私ね、理佐が好き。ずっと理佐が好きだった。」
「てち…やっと言ってくれた。」
「えっ?」
「私、待ってたの。その言葉を、ずっと待ってた。」
「理佐…」
「ありがとう。てち。私もずっと、てちが好きだった。」

 届いた…
 届かないと思ってたこの想いが
 届いた…

 夢の時間は終わってしまったけれど、これからは、永久に続けと願う幸せの時間…


「理佐、ありがとう。やっと私の夢が叶ったよ。」
「ううん、今はまだ、夢の途中だよ。」
「そうだね。これから二人で、たくさんの夢を叶えていこうね。」
「うん。二人で、夢の続きを…」