“チュウさん”こと“塚本中弥”はある精神科病棟に三十年入院している。
同じく入院患者の“秀丸さん”“昭八ちゃん”その甥の“敬吾さん”外来通院中の“島崎由紀さん”らの友人とともに、それなりに穏やかな日常を送っていた。
だが、その日常を破壊するような事件が起きる。
傷害事件を起こしたヤクザで、精神鑑定の末に病院に送られてきた“重宗”に、島崎さんが暴行を受けてしまったのだ。
チュウさんは復讐を誓うが、秀丸さんに止められてしまい、代わりに秀丸さんが重宗を殺害して自首してしまった。
昭八ちゃんと敬吾さんは退院してしまい、島崎さんは行方知れず。
みんなバラバラになってしまい、チュウさんも自分のこれからについて真剣に考え始めるのだった…。


優しい物語でした。
患者の目線で進行していくのですが、患者としての悲痛な叫びや訴えのための作品ではありません。
はっきり言ってしまうと、患者でなくても、病院じゃなくても成立する人間の在り方の物語です。
人に優しくするのって難しいなと気付かされます。


スピード感や起伏はほとんどありません。
刺激を求めて読むと物足りないかも。
それでも色々考えさせられ面白く読めました。


作者が精神科医ということもあり、病院内部のことが詳しく書かれています。
平成6年刊行なので今とはだいぶ違うのだと思いますが、怖いなと思いました。
風邪や虫歯と同じで病気なのだから、自分もお世話になることがあるかもしれない。
そんなときにこの作品に登場するような心ない人がいたら…、そう考えるとゾッとします。
医療系の作品を読む時にいつも思いますが、やはり制度自体に問題があることが多いですよね。
少しずつでもいいから、良くなっていけばいいなと思います。


「淡々としつつ優しい語り口」と粗筋にありますが、その表現がぴったりな内容です。
読後感がとてもいいので、重い作品は嫌だというときにオススメです。