#3雷鳴刻まれし刻、神話砕きて嵐呼ぶ




 『マイルCSは荒れない。』かつての中央競馬にはこのような神話がありました。1984年のレース創設から1994年までのデータを振り返ってみても1番人気の連対率は100%、うち1着は7回、2着は4回と年代によってブレはあれど、基本的には荒れない事がセオリーでした。結局上位人気で決着してるやん!(CV.マイ億君の友達)ってやつです。まあ10年間の主な勝ち馬(1番人気で勝利経験有)を挙げると『マイルの絶対皇帝』にしてマイル路線のパイオニアのニホンピロウイナー、説明不要のアイドルホースにして『芦毛の怪物』オグリキャップ、『弾丸蹴脚』のサッカーボーイ、元祖マイル女王にして驀進王の好敵手『フーちゃん』ことノースフライトなどマイル路線のスペシャリストばかりだった点も否めませんが。そんなマイルCS、トロットサンダーは重賞勝利こそないもののここまでのマイル戦での安定感を買われて4番人気でレースを迎えます。パドック診断、枠入りにおいても『ピリッとしている』と好評価。

 スタートは鞍上とタイミングが合わなかったものの後方5番手に付け、レースは逃げ馬エイシンワシントンが引っ張り、番手に大型馬ヒシアケボノが付け先行する展開。 

 迎えた第4コーナー。1番人気のビコーペガサスが中団から抜け出せず、先頭に変わった2番人気のヒシアケボノが粘り込みを図り、これはヒシアケボノで決まりかと思われた時。大外一気をかけて一気に先頭に並ばんとするオレンジの帽子、黄色と黒襷の勝負服。紛れもない、トロットサンダーでした。直線で見事なごぼう抜きを見せ、内側で追い込みをかける大穴馬メイショウテゾロも振り切って一着ゴールイン。轟雷が如き鬼脚を繰り出し、スタートのゴタつきすら吹き飛ばす勝利を挙げ、晴れてG1の大舞台を制してマイル王の玉座に着いたのです。この時2着に入ったのは16番人気のメイショウテゾロ。『理由の見当たらない激走』とも称されたテゾロの奮戦、ビコーペガサス絡みの馬券がそれまでの傾向から過剰に売れていたのもあってか馬連は10万超の高配当が付くなど大荒れ。『マイルCSは荒れない。』という上位決着神話を、何度も怪我に苦しみながらも足掻き続けた浦和の怪物が見事に砕いて見せたのです。この時のトロットサンダーは既に7歳。地方時代から合わせて4年のキャリアの先に掴み取った栄冠でした。

  勝利した横山典弘は馬上で何度もガッツポーズをし、トロットサンダーを何度も撫で、メイショウユウシの鞍上四位洋文とハイタッチして大喜び。地方から移籍してきてここまでずっとコンビを組んできた相棒と掴んだ勝利に『走る馬だと信じていたけど、今日は素晴らしい脚を使ってくれた。』と絶賛。かくてトロットサンダーは7歳のキャリアにおいて大躍進を遂げ、遅咲きの雄としてその名を轟かせる事になりました。