私は元々自衛隊医官として防衛庁(現防衛省)に勤務していました。医官として、NBC(Nuclear 、Biological 、Chemical )兵器についての教育・訓練も受けています。


地下鉄サリン事件の時は、聖路加国際病院において第一線に立ち、サリンなど神経剤による中毒であることを第一に診断し、初期治療にあたった経験もあります。また、今回の東日本大震災後の負傷者、病人の救護活動は当に戦時下における野戦病院での医療活動と相似するものがあり、元自衛隊医官としての経緯を踏まえて気がつくことも色々多くありました。


今回の東日本大震災によって起こった福島第一原発事故は3月31日現在においても全く予断を許さない状況下にあります。現状において原発の周辺地域はもちろん、放射性物質による環境汚染は半径30km以内に止まってはおらず、大変深刻であり昨日の東電会長のコメントは明らかに問題でしょう。


私は原発のメカニズム等に関しては門外漢ですが、放射線被曝における人体への影響に関しては、そこそこの知識がありますので、「放射線被曝の人体への影響」という点にしぼって、少し書いてみたいと思います。なぜならば、ある容量以上の放射線被曝というのは、アンチエイジングとは真逆の状況下に陥る“アンチ”‐アンチエイジングにあたるからです。


放射線被曝の人体への影響を考える際には、急性(早期)障害と晩発性障害(大抵は数年後~)とを区別して考える必要があります。現場で大量の放射線に被曝する可能性のある作業員の方々の場合は、確定的に起こる急性障害を憂慮しなければなりませんが、現場から少なくとも50km以遠において起こる健康障害は、ほとんどが晩発性障害であり、これは確率的に起こるものです。


急性障害は吐き気、嘔吐、下痢などを中心とした消化器症状に始まり、重篤な骨髄障害による感染症や多臓器出血によって死亡します。広島、長崎の原爆投下後に多くの方々がこの急性障害で亡くなっています。直接の被爆を受けていなくても、救援に入った多くの兵士も残留放射能を浴びて同様に亡くなっています。最近では1999年、東海村で発生したJCO臨界事故で二人の作業員の方が亡くなっているのもこの急性障害によるものです。これはある程度以上の線量の放射線を浴びると不可避的・確定的に起こるものとされています。


晩発性障害は、当初は問題になるような線量ではなくても放射線を一回あるいは分割・遷延して被曝した後、長期間の潜伏期間を持って発症する障害です。その主なものは発がん。特に甲状腺、乳房、胃、肺、骨髄(白血病)の発症リスクが高まることが知られていますが、急性障害が確定的に起こるのに対し、こちらは確率的なものであり、発症確率が高くなるという考え方で語られます。


福島第1原発からある程度離れていても、大気、土壌、水源、海洋などの環境が放射性物質で汚染されてしまったのは残念ながら事実です。その放射性物質による外部被曝(体外にある放射線源から発せられた放射線による)、内部被曝(汚染された空気、水、食物が体内に入って起こる)も分けて考えなくてはなりません。長期的により大きな問題となるのは言うまでもなく内部被曝です。


放射性物質の粉じんを吸ったり、汚染された水を飲んだり、汚染された食物を食べたりした場合、体内に放射性物質が取りこまれます。政府がよく言っている「直ちに健康に与える影響は無い」という文句は、間違いではないのですが、「将来的には内部被曝や晩発性障害が問題となる可能性もある」ということを述べていない点で不十分で不正確な情報発信となっています。


さて、それでは具体的にこれらの影響を食い止めるもしくは、体内で起こった健康被害を改善する方法はないのでしょうか?


これらのことを考える上では、アンチエイジング医学の実践でもお馴染みのデトックス(解毒)の考え方が役に立つかもしれません。


1. 出来るだけ毒素を体に入れないように留意する


2. 入ってしまった毒素は出来る限り速やかに排出する努力をする


3. 毒素によって生ずる可能性のある健康被害(病気・疾患)があるか否かをチェックする


4. 健康被害を早期に発見し、有効な治療を出来るだけ早く受ける


1. に関しては、政府当局が正確な情報を的確に出し、放射性物質そのものやそれによって汚染された水、食物を体に入れないようにすることにつきるでしょう。どの程度、真実を表に出してくれるかがキーになりますが、いつまでも隠し通せるものでもありませんので、次第に汚染の程度は明らかになっていくことでしょう。悪い物は出来るだけ入れないようにするのが、最も大切なことでもあります。



2. に関しては、尿や便で拝出されるものもあるので、デトックス系のサプリメントなどを使いながらとにかく出す。例えば、有害重金属を排出させる効果が期待できる成分として、αリポ酸、MSM(メチル・サルフォニル・メタン)、シスチン、メチオニンなどがあります。


もうひとつ!アンチエイジング医療ですでに行われているキレーション点滴療法が、放射性物質を体外に排出するのに役立つ可能性があるかもしれません。これまでは、水銀、鉛、ヒ素、カドミウムなどの有毒重金属をデトックス方法として行われてきていますが、これを体内蓄積してしまった放射性同位元素(放射性同位体)の排出に応用できれば、晩発性障害の予防にもつながります。


3. &4.に関しては、健康診断やがんドックのような検査をこまめに受けることで、病気をできるだけ早く見つける努力をする。がんも早期発見すれば治癒可能です。ある意味、一病息災的に考えて最悪、がんになることを想定し生きていくことも必要なのかもしれません。


補足として…


・胎児や乳幼児はすでに言われているように、放射線感受性が非常に高いので、出来る限り影響の少ない環境下に退避させることが一番です。


・原発から半径200km以遠で40歳以上の場合、これ以上の事態の悪化が起こらなければ、将来的な健康被害は、「若干がんになる確率が高まる」、「体内の酸化ストレスが増しエイジングが進む」程度です。これからよりアンチエイジングな生活を心がけ、プラスマイナス0を目指しましょう。


・これまでにも、本ブログ内で紹介してきていますが、低容量放射線によるホルミシス効果というものも知られています。これは、ある程度のレベルの軽い放射線被曝は健康を害するものではなく、逆にその軽度の放射線ストレスが体内において健康にいい方向に代謝・自律神経・免疫システムを起動させるというもの。アンチエイジャーはポジティブシンキングですので、40歳以上ならば、この考えをひとつの柱としてしまうのもありかも?


最後に…


3月18日から防衛医大卒業の医官(私の同期であったり、先輩・後輩であったり…)らが、福島県およびDMAT(災害急性期に活動できる機動性を持った トレーニングを受けた医療チーム)からの要請で事故のあった原発30km圏内に入り込んでの医療支援活動を行っています。


本当に頭が下がる思いでいっぱいです。彼らの無事を心の底から祈らずにはいられません。