きのうの夜、スキージャンプ女子の高梨沙羅さんの祝勝会に行ってきました。
 ツレと彼女のお父さんが知り合いで、招待されただけなんですけど。
 わたしは、ご本人ご両親とも面識がないのですが、図々しくついていってしまいました。
 隣町が会場でしたから仕事を早退して、夕食を食べずにでかけました。

 沙羅さんの地元の町役場と商工会議所が合同で開催したとのこと。
 町の公民館の体育館に結婚式場のような丸テーブルを設置して、ステージ上には沙羅さん1人。
 テーブルにはオードブルとお赤飯。
 夕食になると思ったんですけどね。

 披露宴と同じような進行で祝勝会は進められました。
 まずは町長のご挨拶。
 続いて、商工会議所会長、商工青年部長、商工婦人部長のご挨拶が延々と。
 小学校の校長に中学校の校長までがご挨拶。

 スピーチの内容は、全員同じなんですよ。
 とにかく、どうでもいいようなことをしゃべるはしゃべるは。
 挨拶が終わるまでは、料理に手をつけられないじゃないですか。
 我慢も限界になって、イラッとしだしました。

 沙羅さんは、あきらかに困惑したような顔でじっとしていました。
 主役が耐えているのに、わたしがキレるわけにもいきませんから。
 1時間半近い挨拶もやっと終了して、町長が乾杯の音頭を。
 やっと夕食です。

 わたしは手をつけたんですが、ツレは食べないんですよ。
 「あれを見たら、食べる気にはなれない」って。
 その頃、ステージの上では、ツーショット大会。
 沙羅さんは、コップのジュースさえ飲めない状態で。

 唇を噛みしめながら、必死に笑顔を作ろうとしているんですよ。
 それを見たら、かわいそうになって。
 ふなっしーじゃないんですよ。
 イモトアヤコさんでもない。

 17歳の小柄な女の子にそこまでしなくてもね。
 ものすごいプレッシャーに耐えながら、日本を背負って戦ってきたのに。
 あまりにもひどすぎます。
 ゆっくりと休ませてあげてくださいよ。

 ツレとわたしは、お父さんの友人たちと同じテーブルでした。
 お父さんがテーブルに挨拶にきてくれて、頭をぺこぺこ下げて。
 「沙羅をつれて挨拶に回るから、とりあえず」って。
 ツレがとうとう、プツッ。

 「その必要はない! マスコミを通していやというほど感謝の言葉は聴いてるから」
 友人の1人も、
 「おまえ、かわいい娘をさらし者にされてよく黙っていられるな。 それでも親か、バカ!」
 ご両親の気持ちもわかりますが、友人の言葉もまちがってはいないんです。

 スマートフォンに夢中になったり、友達と遊んだりしたい年頃じゃないですか。
 あんなに痛々しい女子高生は、初めてみました。
 沙羅さんは、いまや国民的ヒロイン。
 それはわかるんですけど、ご本人の気持ちも考えてあげないと。
 夢は、ただの夢ですよ。
 かなうことはない。
 無責任に「夢はかなう」とか、セリエAで10番をつけるという夢を実現した、という方がいます。
 そんなのは数十億分の一ですからね。

 スポーツがしたいのなら、サラリーマンをしながらアマチュアチームに入ればいい。
 音楽がやりたいのなら、アマチュアバンドでやればいい。
 小説が書きたいのなら、ブログで書く。
 そんなことが、最近になってわかったんです。

 いつまでも夢の中にいるなんて、いい年齢をしてバカですよ。
 早く醒めないと。
 やっと、目が醒めました。
 きょうで、このバンドでのぼくは最後になります。

 それは、ツレが所属していたインディーズ・バンドのライブでのこと。
 アンコールでの、突然の発言。
 メンバーも驚きを隠せないようでした。
 わたしも、何も知りませんでした。

 5日もたってやっと、発言の意味を話してくれました。
 3月31日で、音楽に関する仕事をストップして、続行中のものを終えた時点で引退する。
 ポップスが好きになりかけているから、だと。
 好きになったのなら、とことん続ければいいと思いました。

 アニメが好きな人の創るアニメほど、おもしろくないものはない。
 『機動戦士ガンダム』の総監督である富野由悠季(当時は喜幸)さんの言葉だということです。
 宮崎駿監督も、アニメは一切観ない。
 おもしろいアニメのスタッフは、創るけど観ないんだそうです。

 『新世紀エヴァンゲリオン』のスタッフも、特撮怪獣作品ヲタク。
 手塚治虫さんは、マンガを読まなかった。
 自分の好きなジャンルを仕事にすると、知らず知らずのうちに自分が好きな作品に影響を受けてしまう。
 ポップスを聴くようになると、おもしろいポップスは書けなくなる、というわけです。

 アマチュアという距離が、一番音楽を楽しむことができる。
 自分が書きたいものではなく、売れるものを書くことが苦痛になってきている。
 音楽を楽しみたいから、アマチュアで思い切り楽しんでみたい。
 自分で決めたことですから、反対はしません。

 ツレの音楽はずっとスパルタ教育で、そこから逃げるためにプロになったんです。
 音楽を楽しむためにプロになったのに、売れるものを書くことを強制された。
 アマチュアバンドでは自分の好きなことができる、ということに気がついてしまったんですね。
 ふなっしーが、電話に出ると仕事が来るということに気がついたのと同じ・・・・・・ちがう・・・かな。

 今までは絶対に観なかった歌番組を、最近観ているんですよ。
 「ふなふなふなっしー」以外のポップスも聴くようになったし。
 ステージを降りたツレの顔は、今まで見たことがないくらいほっとしていました。
 心からお疲れ・・・てないの・・・・・・ふなっしーはやめなさい!
 
 盗まれた個人情報が、金融犯罪に利用された原因。
 きょう、すべてがわかりました。
 銀行の行員が、銀行のサーバーから持ち出していたんです。
 それを裏サイトで売っていた。

 わたしのパソコンに、不正アクセスがあったことはすぐにわかりました。
 IDとパスワードを盗まれたと、ツレは決めつけました。
 闇金融に口座を売ったんだろういうのが、警察の言い分でした。
 なんとしても、犯罪者にしたかった。

 あきらめていたんですよ。
 人生は終わりだと思っていました。
 昨夜、春物を取りに自宅に戻りました。
 遺失物届けを出してあったカードホルダーが、クローゼットの中にありました。

 闇金融に使われていた口座のカードもその中に。
 閉店したスーパーのポイントカードや、紛失したはずのレンタルDVDの会員証。
 再発行してもらってから見つかっても・・・・・・。
 そして、使えなくなったコンビニのポイントカードに図書カード。
 
 きょうの昼休みに警察に行きました。
 金融犯罪担当課ではなくて、本部長の元へ。
 北海道警察のこの街の支店長です。
 ツレはドカドカと入っていきました。

 ツレにとっては、もう一人の上司。
 とはいっても、アポなし突撃ですよ。
 おまけに、「おまえは謹慎、ずっと謹慎、死ぬまで謹慎」という立場ですから。
 非正規雇用社員が支店長に物申すか、って。

 わたしの問題を一方的に話したあと、デスクにカードをたたきつけて。
 「警察は昇進のために犯罪者をデッチあげるのか!」
 ゆっくりとため息をついた支店長。
 「また単独捜査をしたな」

 大正解。
 「おまえは警察という組織のコマだ。 勝手に動くな!」
 「組織が動かないから、単独で動いたんです!」
 言い返さなきゃいいのに。

 その瞬間、部屋のどこかで笑い声が。
 「いや、おもしろい。 実に頼もしい部下だ」
 スーツ姿の男性が、隅に置かれた応接セットから立ち上がります。
 「4月から本部長になる。 君のような直属の部下が持てると思うと楽しみだ」

 本店から異動になる、東大キャリアですよ。
 「ってことは、こっちの本部長はクビですか。 お疲れーした。 あーざーした」
 組織の常識を知らないのか、コイツ。
 定年だったんですよ。

 「君たちは、組織がもてあました事件を解決するために集められたメンバーだ。 単独捜査もときには必要だよ。 そうですね、先輩」
 新しい支店長。
 「いつまでそう言ってられるか。 あとで泣くはめになるぞ」
 ミルクがこぼれたと泣いても、元には戻りませんからね。

 「本部長!」
 勢いよく開け放たれたドアの向こうには、水野さん。
 「どうなってるんですか、警察はっ!!」
 ツレの班の紅一点です。

 「おまえは銀行口座を闇金に売ったから、逮捕するだって。 不正アクセスでログインIDとパスを盗まれたんですよっ! キャッシュカードはここにある!! ったく、トロいコなんだから、警察は。 トロいコほどかわいいとはよく言ったものですね!!!」
 わたしと同じ手口でした。
 「落ち着いて。 被害は他にも出てるから」
 「えっ? あっ、班長」

 それから、ツレと水野さんは警察の恥ずかしい部分を並べ立てました。
 3年前まで、オレオレ詐欺なんかありえないと切り捨てていたこと。
 知らない人間から電話がかかってくるはずがない、という論理なんです。
 被害は15年くらい前から出ていたようです。

 「君が水野くんか。 射撃の腕は警察庁トップクラスだったという。 まったく君たちの言う通りだよ。 架空請求詐欺を知ったのは2年前だ。 国民生活センターのほうが頼りになる。 わたしは、この組織の悪い風習を徹底的に改革してみせる。 君たちのような部下がいれば、それほど難しいことではない」
 最初は誰もがそう言いますが、待っているのは挫折だけ。
 「今回のケースも、他に多数の被害が出ているかもしれない。 新興宗教への潜入捜査も大切だが、まずは目の前の問題だな」
 眠れないような苦しみを抱えている方が一人でもいるとしたら、今すぐにでも解放してあげて。

 犯罪は、日々巧妙に進化しているようです。
 警察がトロいのかどうかはわかりません。
 追いつきたいけど、追いつけない。
 そうだと信じたいです。

 注)ツレのもうひとつの顔は、過去ログを読んでみてください。