午前8:00。 グランブルー・ドリームス・オーケストラに集合。
長くて短い1日のはじまりだ。
楽器のコンディションを確かめるために、軽く吹いて、ストラップ、リード、グリス、キーオイルなどの準備の確認。
コンディションOK。
装備品に忘れ物なし。
午前8:30。 銀座通り商店街から、商店街主運転のトラックが5台やってきた。
「北海道音楽大行進」のスタート地点に楽器を運搬し、楽器を降ろしてから、空になったケースと弦楽器をゴール地点に運んでくれる楽器車だ。
すみやかに積み込みを開始する。
1つ1つを毛布にくるむ。 車の中で楽器ケースが動いたりぶつかったりするのを防止するためだ。
医療チームが到着した。
アネさん、看護師長、副師長、そして宇野看護師。
「あー、すごい。 バトントワラーもついてるんだ。 私も昔はバトンを回してたんですよねー。 懐かしいな」
その言葉にすかさず紺野看護師が反応した。
「今、昔はバトンを回してたっていってた? 宇野ちゃん、確かに言ったよね?」
「はい。中学校の吹奏楽部が、地元の鎮守様の例大祭の日に音楽行進するんですけど、私は、先頭でバトンを回してました」
「あのさー、宇野ちゃん。 看護師寮の掲示板に、バトントワラーと吹奏楽経験者の募集広告が貼ってあったのを見なかった」
佐橋看護師が訊く。
「見えなかった、というか掲示板自体見たことがないので!」
ウチのツレ、頭を抱えた。
「佐橋も知らなかった。 募集広告、貼ってあったの? 佐橋はただ、紺野ちゃんと2人で書いただけだから。 なんで見ないんだろうと言われれば、バカだから。 佐橋バカだもん」
佐橋看護師はゲラゲラ笑った。 完全なる自虐ネタ。 彼女の一番得意なギャグだ。
「宇野ちゃん、ちょっと来てくれる?」
紺野看護師改め、バトンチームリーダーは宇野看護師を病院の中へ連れて行った。
「バトン1人増えるかもしれない? ハンチョウ、今からでも増員していいのかな?」
佐橋看護師は訊いた。
「問題はないよ。 最終的な団体の人数は開会式前に報告するから」
「1人増えるんだよ。 バトンが増えるんだよ。 これってスゴイよ!」
そういうと佐橋看護師は、またゲラゲラ笑い出した。
しばらくしてハイデッカー・バスが3台到着。
市内で最も大きく医療事業を展開する、現在、わたしたちの勤務する病院を以前リハビリ専門病院に使っていた売主でもある個人病院グループが、患者さんを送迎するために保有しているものだ。
出場メンバーと医療チームをスタート地点の川岸へ運び、お弁当を食べたり、休憩するなど、スタートの時間までの前線基地となる。
みんな最初はぎくしゃくしてた。
私たちが勤務する病院から参加したメンバーは、ツレとわたし以外、マーチングなんか初めて。
4kmを歩くことさえ初めてなのに、おまけに楽器を演奏しながらだという。
この日は、2ヶ月前から始まった。
市長特別枠での出場が決まって練習を始めたグランブルー・ドリームス・オーケストラを指導していたツレは、パーカッションの鳴りが足りないと悩んでいた。
舞台は屋外だ。
反響板もない。
発した音はすべてすぐに街に消されてしまう。
バンドリーダーと指導を変わり、わたしのとなりのアルトサックスパートに戻った彼は言った。
「これじゃあ、どうにもならない。 行進するためには足並みを揃えるためのパーカッションが不可欠なんだ。 でも、いまいち少ない。 当てはあるけど、どう切り出したらいいのか・・・・・・まいったよ」
当てってもしかして、ウチの医師バンドの連中?
ツレは頷いた。
ガンバの奥さんはドラマーでしょ
彼女に他の4人の特訓をまかせてみたら?
もちろん、みんなにまずヘルプをお願いしなきゃならないけどね
「やってみるよ」
春のコンサートで、共演したじゃない
みんなはあれがけっこう気分が良かったみたいで、医師バンドだけでライブをやりたいみたいな話をしてるから、二つ返事だよ、きっと
当たって砕けたら、それはそのときだって
サコちゃんらしくないぞ
「土下座をしてでもOKを取るよ」
これがやっぱり二つ返事。
「北海道音楽大行進に出られるんっすか。 わーお。 憧れだけど、吹奏楽できないからあきらめてたんっすけど、マジで出られるんっすか。 昨年は17万人が沿道で見守ってたんっすよ。 ぼくたち夫婦も、ハンチョウ夫婦の応援に沿道で観てたんっすよ。 それが出ちゃうんっすか。 ヤーリー!」
チャラ。
これが医師か・・・・・・。
ガンバは冷静さを装ってデスクの下でガッツポーズ。
ミスK舟木は目に一杯の涙をためて。
「ごめんなさい。 私も出場したいんですが、頷ける状態じゃないんで」
「舟ちゃんさ、泣きたいときは思いっきり泣くのがいいと思うよ。 私なんか頬まで流れてるけど恥ずかしくない。 日本人なら喜怒哀楽は素直に表そうよ」
そして、チャック櫻井はポーズ。
「いよっ、ウサイン・ボルト!」
ツレは声をかけた。
ウサインとは何ボルトなのか、未だにわからないんだけど・・・・・・。
ガンバの奥さんは少し考えてから言った。
「いつ出るか・・・・・・今年からしかないでしょう!」
今年、から? からって言った? それともヒップダンスのKARA。 「ガールズフォエバー」のKARA?
「私が徹底的に教え込みます。 ズブの素人を2ヶ月で1人前に変えて見せますよ」
ここで出てきたのが楽器の問題。
週一の練習ではとても追いつかない。
ツレはスネアドラムやバスドラムなどの楽器は学校の吹奏楽部などで、買い替えで使わなくなったものを、高校時代に、学校は違えど、人数不足で合同で1つの団体として出場し、今は音楽教師となって、中学と高校で吹奏楽の指導をしている友人に連絡して集め、安い楽器は、彼が、楽器店で全部百円で買った。
市内に「キリヤ楽器」という和楽器店がある。そこの娘さんと婿養子さんが、ピアノや電子オルガンなどを扱う洋楽器店を営んでいて、その娘さんが彼お母さんの高校時代の同級生で音楽仲間という間柄で、ただで持っていけ、と言ってくれて、いや、それはマズイと断ると、じゃあ、あんたが雅ちゃんの子だから私も一歩引くよ。 一山百円だ。 そう遠くないうちに、私も雅ちゃんのところへ行くんだから、息子を邪険にできないからさ」
咽頭癌なんですよ。 かすれた声で目一杯。
旭川市内ではキリヤ楽器かマチイ楽器かと言われた時代もあった。
マチイ楽器店の創始者で初代の社長が、昭和9年に、「北海道音楽大行進」の原点になった「慰霊音楽行進」を生んだ。 旭川では最も古い楽器店だったんですが、息子さん御夫婦に経営権が移った頃から、だんだん音楽からスポーツへと子供の興味が移り変わっていって、音楽人口が急激に減り、さらにインターネット・ショッピングの普及が盛んになった結果、倒産。
わたしのピアノはマチイ楽器さんで買ったんですけどね。
なんと、ここの息子さん御夫婦も、彼のお母さんの高校の同級生で音楽仲間。 高校時代からのお付き合いで結婚したんだとか。
マチイ楽器さんが倒産した後、YAMAHAが直営店を出して、島村楽器も開店するなど、旭川の音楽もなんとか持ち直したかな。
こうして、パーカッションの補強はできた。
昨年はPLMBというPL教団のプロに近いバトンチームが先導してくれたけど、今年は市長特別枠だから、吹奏楽連盟では、バトンをつけてくれない。
でもやっぱり、バトントワラーが先導すると華やかに見える。
音を聴くだけから、観て楽しむ団体になる。
どうにかしてバトンチームをつけたい。
そう思いついたツレは、PLMBなど、市内で活動するバトンサークルに片っ端から連絡をしたけど、すべて他の団体が入っていると断られ、素人を招集しようと、広告費を莫大に支払って、タウン誌や新聞の折込を入れて、待った。
これがけっこう功を奏して、20名程度が集まった。
それだけいればOK、ということで募集は締め切り。
バトンチームもつけることができた。
ある日、ツレが患者さんのMRIをライトボックスに貼り付けて、チャラと2人で見ていた。
チャラのスペックは、X線やMRIに、目に見えないほどにしか写らない異変を見抜くこと。
ツレは必ずチャラにも自分の担当患者さんのCTやMRIを見てもらう。
それで発見できた転移腫瘍は決して少なくない。
そこへ突然歩み寄った紺野看護師と佐橋看護師が歩み寄って声を掛けた。
ツレとチャラはビクッとなって飛び上がった。
佐橋看護師は声が大きいからね。
「あの、タウン誌を見たんですけど、北海道音楽大行進のバトントワラーを募集してるんですか?」
紺野看護師は訊いた。
「20名程度が応募してくれたんで締め切ったんだよ」
「そうなんですか」
気落ちしたような紺野・佐橋両名に、ツレは言った。
「タウン誌と新聞で集めた見ず知らずのメンバーだから、まとまらないと思うんだ。 誰か、ぼくの覚えている女性でバトントワラーチームのリーダーになってくれる人を探してるんだけど、見つからなくてまいってる。 もしかして、バトンの経験があるとか?」
「3歳から高校に入るまで、ですけどね。 中学時代は硬式テニス部のほうがメインになって、スタジオも週一しか通えなくて・・・・・・」
「佐橋も一緒ですよ。 エホバの商人の青年部でバトンをやって、学校では中学から高校卒業まで6年間硬式テニス部で」
「紺野さん、リーダーになってくれないか。 佐橋さんはサブリーダー。 看護師長と交渉して、6月8日の朝から夕方までの勤務クールを調整してもらうから」
「はいっ!」
「それとメンバーと話し合って衣装と振り付けも決めてほしい。 早速、土曜の午後から動いてもらえるかな?」
2人は頷いた。
メンバーがバスに乗り込みだすと、ピンクのレオタードに白いパンティーストッキング、オーバーサイズのTシャツの裾を右腰で結び、パレオを腰に巻いた宇野看護師と紺野看護師が出てきた。
「宇野、使えそうかな?」
ツレは紺野看護師に訊いた。
「十分。 かなりなハイテクニックもこなせると思います。 詳しい振り付けはスタート地点に着いてからで、間に合いますよ、本番に。 バトンのメンバーのみんな、1人強力なメンバーが増えたからね。 まず、スタート地点に着いたら、隊列を少し変えます。 それからリハーサルだからね。 よろしくお願いします」
紺野看護師はバトンチームに説明した。
「あっ」
「リーダーと同じ病院の看護師の宇野です。 どうぞよろしくお願いします」
宇野看護師は丁寧にバトンメンバーに頭を下げてから、各バスを回り、すべてのパートメンバーに頭を下げて回った。
ねぇねぇ、「あ」の続きはなんですかー?
「あっ、おまえはナンデスカマンだな!」
ツレがふざける。
この期に及んでふざけるだけの余裕があるとは。
さすが、高校時代3年間出場後、社会人バンドで3回の出場経験者。
さっきの「あっ」はなんだったのかと思って
「宇野が挨拶できないんじゃないかと思って、挨拶をしろ、の、あっ。 言いかけた途端に挨拶が始まったから・・・・・・」
大丈夫だよ。
宇野看護師は以前はドンくさくて使えない看護師だった。
でも、あなたの背中を見て、立派に成長してるよ。
最近なんて、あなたの先を読んで行動してるじゃない。
素敵なバトントワラーとして、この、100名を超える巨大な団体に立派な華を添えてくれるよ。
ツレはバスの3号車から1号車まで、全員乗り込んだかを確認してから、楽器車群に出発を促し、バスの1号車にも発車を告げて自分の乗る2号車に乗り込んだ。
さあ、スタート地点へ。
スタート時刻まであと4時間。
「Long Way Home 1 それは2ヶ月前に始まった」 了
まったく関係ないことでごめんなさい。
彼がいきなり言いました。
「ぼくはきょう、ある決心をしました。 ぼくは今回の総選挙をもって、AKB48を卒業します。 エグゼクティブプロデューサーとも話し合って決めたことです。 悔いはありません」
なんなんだか・・・・・・?
長くて短い1日のはじまりだ。
楽器のコンディションを確かめるために、軽く吹いて、ストラップ、リード、グリス、キーオイルなどの準備の確認。
コンディションOK。
装備品に忘れ物なし。
午前8:30。 銀座通り商店街から、商店街主運転のトラックが5台やってきた。
「北海道音楽大行進」のスタート地点に楽器を運搬し、楽器を降ろしてから、空になったケースと弦楽器をゴール地点に運んでくれる楽器車だ。
すみやかに積み込みを開始する。
1つ1つを毛布にくるむ。 車の中で楽器ケースが動いたりぶつかったりするのを防止するためだ。
医療チームが到着した。
アネさん、看護師長、副師長、そして宇野看護師。
「あー、すごい。 バトントワラーもついてるんだ。 私も昔はバトンを回してたんですよねー。 懐かしいな」
その言葉にすかさず紺野看護師が反応した。
「今、昔はバトンを回してたっていってた? 宇野ちゃん、確かに言ったよね?」
「はい。中学校の吹奏楽部が、地元の鎮守様の例大祭の日に音楽行進するんですけど、私は、先頭でバトンを回してました」
「あのさー、宇野ちゃん。 看護師寮の掲示板に、バトントワラーと吹奏楽経験者の募集広告が貼ってあったのを見なかった」
佐橋看護師が訊く。
「見えなかった、というか掲示板自体見たことがないので!」
ウチのツレ、頭を抱えた。
「佐橋も知らなかった。 募集広告、貼ってあったの? 佐橋はただ、紺野ちゃんと2人で書いただけだから。 なんで見ないんだろうと言われれば、バカだから。 佐橋バカだもん」
佐橋看護師はゲラゲラ笑った。 完全なる自虐ネタ。 彼女の一番得意なギャグだ。
「宇野ちゃん、ちょっと来てくれる?」
紺野看護師改め、バトンチームリーダーは宇野看護師を病院の中へ連れて行った。
「バトン1人増えるかもしれない? ハンチョウ、今からでも増員していいのかな?」
佐橋看護師は訊いた。
「問題はないよ。 最終的な団体の人数は開会式前に報告するから」
「1人増えるんだよ。 バトンが増えるんだよ。 これってスゴイよ!」
そういうと佐橋看護師は、またゲラゲラ笑い出した。
しばらくしてハイデッカー・バスが3台到着。
市内で最も大きく医療事業を展開する、現在、わたしたちの勤務する病院を以前リハビリ専門病院に使っていた売主でもある個人病院グループが、患者さんを送迎するために保有しているものだ。
出場メンバーと医療チームをスタート地点の川岸へ運び、お弁当を食べたり、休憩するなど、スタートの時間までの前線基地となる。
みんな最初はぎくしゃくしてた。
私たちが勤務する病院から参加したメンバーは、ツレとわたし以外、マーチングなんか初めて。
4kmを歩くことさえ初めてなのに、おまけに楽器を演奏しながらだという。
この日は、2ヶ月前から始まった。
市長特別枠での出場が決まって練習を始めたグランブルー・ドリームス・オーケストラを指導していたツレは、パーカッションの鳴りが足りないと悩んでいた。
舞台は屋外だ。
反響板もない。
発した音はすべてすぐに街に消されてしまう。
バンドリーダーと指導を変わり、わたしのとなりのアルトサックスパートに戻った彼は言った。
「これじゃあ、どうにもならない。 行進するためには足並みを揃えるためのパーカッションが不可欠なんだ。 でも、いまいち少ない。 当てはあるけど、どう切り出したらいいのか・・・・・・まいったよ」
当てってもしかして、ウチの医師バンドの連中?
ツレは頷いた。
ガンバの奥さんはドラマーでしょ
彼女に他の4人の特訓をまかせてみたら?
もちろん、みんなにまずヘルプをお願いしなきゃならないけどね
「やってみるよ」
春のコンサートで、共演したじゃない
みんなはあれがけっこう気分が良かったみたいで、医師バンドだけでライブをやりたいみたいな話をしてるから、二つ返事だよ、きっと
当たって砕けたら、それはそのときだって
サコちゃんらしくないぞ
「土下座をしてでもOKを取るよ」
これがやっぱり二つ返事。
「北海道音楽大行進に出られるんっすか。 わーお。 憧れだけど、吹奏楽できないからあきらめてたんっすけど、マジで出られるんっすか。 昨年は17万人が沿道で見守ってたんっすよ。 ぼくたち夫婦も、ハンチョウ夫婦の応援に沿道で観てたんっすよ。 それが出ちゃうんっすか。 ヤーリー!」
チャラ。
これが医師か・・・・・・。
ガンバは冷静さを装ってデスクの下でガッツポーズ。
ミスK舟木は目に一杯の涙をためて。
「ごめんなさい。 私も出場したいんですが、頷ける状態じゃないんで」
「舟ちゃんさ、泣きたいときは思いっきり泣くのがいいと思うよ。 私なんか頬まで流れてるけど恥ずかしくない。 日本人なら喜怒哀楽は素直に表そうよ」
そして、チャック櫻井はポーズ。
「いよっ、ウサイン・ボルト!」
ツレは声をかけた。
ウサインとは何ボルトなのか、未だにわからないんだけど・・・・・・。
ガンバの奥さんは少し考えてから言った。
「いつ出るか・・・・・・今年からしかないでしょう!」
今年、から? からって言った? それともヒップダンスのKARA。 「ガールズフォエバー」のKARA?
「私が徹底的に教え込みます。 ズブの素人を2ヶ月で1人前に変えて見せますよ」
ここで出てきたのが楽器の問題。
週一の練習ではとても追いつかない。
ツレはスネアドラムやバスドラムなどの楽器は学校の吹奏楽部などで、買い替えで使わなくなったものを、高校時代に、学校は違えど、人数不足で合同で1つの団体として出場し、今は音楽教師となって、中学と高校で吹奏楽の指導をしている友人に連絡して集め、安い楽器は、彼が、楽器店で全部百円で買った。
市内に「キリヤ楽器」という和楽器店がある。そこの娘さんと婿養子さんが、ピアノや電子オルガンなどを扱う洋楽器店を営んでいて、その娘さんが彼お母さんの高校時代の同級生で音楽仲間という間柄で、ただで持っていけ、と言ってくれて、いや、それはマズイと断ると、じゃあ、あんたが雅ちゃんの子だから私も一歩引くよ。 一山百円だ。 そう遠くないうちに、私も雅ちゃんのところへ行くんだから、息子を邪険にできないからさ」
咽頭癌なんですよ。 かすれた声で目一杯。
旭川市内ではキリヤ楽器かマチイ楽器かと言われた時代もあった。
マチイ楽器店の創始者で初代の社長が、昭和9年に、「北海道音楽大行進」の原点になった「慰霊音楽行進」を生んだ。 旭川では最も古い楽器店だったんですが、息子さん御夫婦に経営権が移った頃から、だんだん音楽からスポーツへと子供の興味が移り変わっていって、音楽人口が急激に減り、さらにインターネット・ショッピングの普及が盛んになった結果、倒産。
わたしのピアノはマチイ楽器さんで買ったんですけどね。
なんと、ここの息子さん御夫婦も、彼のお母さんの高校の同級生で音楽仲間。 高校時代からのお付き合いで結婚したんだとか。
マチイ楽器さんが倒産した後、YAMAHAが直営店を出して、島村楽器も開店するなど、旭川の音楽もなんとか持ち直したかな。
こうして、パーカッションの補強はできた。
昨年はPLMBというPL教団のプロに近いバトンチームが先導してくれたけど、今年は市長特別枠だから、吹奏楽連盟では、バトンをつけてくれない。
でもやっぱり、バトントワラーが先導すると華やかに見える。
音を聴くだけから、観て楽しむ団体になる。
どうにかしてバトンチームをつけたい。
そう思いついたツレは、PLMBなど、市内で活動するバトンサークルに片っ端から連絡をしたけど、すべて他の団体が入っていると断られ、素人を招集しようと、広告費を莫大に支払って、タウン誌や新聞の折込を入れて、待った。
これがけっこう功を奏して、20名程度が集まった。
それだけいればOK、ということで募集は締め切り。
バトンチームもつけることができた。
ある日、ツレが患者さんのMRIをライトボックスに貼り付けて、チャラと2人で見ていた。
チャラのスペックは、X線やMRIに、目に見えないほどにしか写らない異変を見抜くこと。
ツレは必ずチャラにも自分の担当患者さんのCTやMRIを見てもらう。
それで発見できた転移腫瘍は決して少なくない。
そこへ突然歩み寄った紺野看護師と佐橋看護師が歩み寄って声を掛けた。
ツレとチャラはビクッとなって飛び上がった。
佐橋看護師は声が大きいからね。
「あの、タウン誌を見たんですけど、北海道音楽大行進のバトントワラーを募集してるんですか?」
紺野看護師は訊いた。
「20名程度が応募してくれたんで締め切ったんだよ」
「そうなんですか」
気落ちしたような紺野・佐橋両名に、ツレは言った。
「タウン誌と新聞で集めた見ず知らずのメンバーだから、まとまらないと思うんだ。 誰か、ぼくの覚えている女性でバトントワラーチームのリーダーになってくれる人を探してるんだけど、見つからなくてまいってる。 もしかして、バトンの経験があるとか?」
「3歳から高校に入るまで、ですけどね。 中学時代は硬式テニス部のほうがメインになって、スタジオも週一しか通えなくて・・・・・・」
「佐橋も一緒ですよ。 エホバの商人の青年部でバトンをやって、学校では中学から高校卒業まで6年間硬式テニス部で」
「紺野さん、リーダーになってくれないか。 佐橋さんはサブリーダー。 看護師長と交渉して、6月8日の朝から夕方までの勤務クールを調整してもらうから」
「はいっ!」
「それとメンバーと話し合って衣装と振り付けも決めてほしい。 早速、土曜の午後から動いてもらえるかな?」
2人は頷いた。
メンバーがバスに乗り込みだすと、ピンクのレオタードに白いパンティーストッキング、オーバーサイズのTシャツの裾を右腰で結び、パレオを腰に巻いた宇野看護師と紺野看護師が出てきた。
「宇野、使えそうかな?」
ツレは紺野看護師に訊いた。
「十分。 かなりなハイテクニックもこなせると思います。 詳しい振り付けはスタート地点に着いてからで、間に合いますよ、本番に。 バトンのメンバーのみんな、1人強力なメンバーが増えたからね。 まず、スタート地点に着いたら、隊列を少し変えます。 それからリハーサルだからね。 よろしくお願いします」
紺野看護師はバトンチームに説明した。
「あっ」
「リーダーと同じ病院の看護師の宇野です。 どうぞよろしくお願いします」
宇野看護師は丁寧にバトンメンバーに頭を下げてから、各バスを回り、すべてのパートメンバーに頭を下げて回った。
ねぇねぇ、「あ」の続きはなんですかー?
「あっ、おまえはナンデスカマンだな!」
ツレがふざける。
この期に及んでふざけるだけの余裕があるとは。
さすが、高校時代3年間出場後、社会人バンドで3回の出場経験者。
さっきの「あっ」はなんだったのかと思って
「宇野が挨拶できないんじゃないかと思って、挨拶をしろ、の、あっ。 言いかけた途端に挨拶が始まったから・・・・・・」
大丈夫だよ。
宇野看護師は以前はドンくさくて使えない看護師だった。
でも、あなたの背中を見て、立派に成長してるよ。
最近なんて、あなたの先を読んで行動してるじゃない。
素敵なバトントワラーとして、この、100名を超える巨大な団体に立派な華を添えてくれるよ。
ツレはバスの3号車から1号車まで、全員乗り込んだかを確認してから、楽器車群に出発を促し、バスの1号車にも発車を告げて自分の乗る2号車に乗り込んだ。
さあ、スタート地点へ。
スタート時刻まであと4時間。
「Long Way Home 1 それは2ヶ月前に始まった」 了
まったく関係ないことでごめんなさい。
彼がいきなり言いました。
「ぼくはきょう、ある決心をしました。 ぼくは今回の総選挙をもって、AKB48を卒業します。 エグゼクティブプロデューサーとも話し合って決めたことです。 悔いはありません」
なんなんだか・・・・・・?