最近の新聞には、毎日のように生活保護関連の記事が載っているし、テレビのニュースワイドでも、頻繁に特集されるようになった。
 8月に法が改悪されるまでに、国の予算を圧迫しているのはなぜなのか。
 わたしのとんちんかんな解釈に、元・受給者のサコちゃんが答えてくれた。

 わたしは、はっきり言って、福祉のお世話になっている人々って、社会的な弱者だから、一番攻撃しやすいし、反論もしないから、切り捨てやすいところから切るのだと思っていた。
 医療にかかる費用が現在、どんどん削減されているけど、それも、患者さんという弱者を切り捨てるストレートな方法だから、生活保護の圧縮もそれと同じ論理に立ったものだろう。
 「額に汗して働く者が報われる社会の実現」は安倍政権の掲げるスローガンのひとつだけど、裏がえすと「額に汗して働かない者は徹底的に切り捨てる」。
 額に汗して働けるのに働こうとしない人はたくさんいる。
 例えば、パチプロと呼ばれる、パチンコで生活費を稼ぎ出す連中。 競馬などのギャンブルで生活費を稼いでる人も、働けるのに働かない人々にはいるね。
 そしてデイトレーダーというITを使って株式投資で生活費を稼ぐ人々。
 これらの人種にも納税の義務はある。 日本人である限り、納税はしなくてはいけない。
 でも、彼らの多くが所得税を納めていないという事実もあることも事実。
 彼らの場合、「額に汗して稼いだ所得」ではないわけで、所得税の分類は「不労所得」となる。
 税率は5割。
 本来ならば青色申告をする必要があるのに、していない人が半端じゃなく多いんじゃないかな。

 ついきのう、年収800万円の元会社員が、高性能な予想ソフトをさらに改変して、競馬の馬券を買い続けていたことに対して国税局が納税を求めていた件に、判決が下った。
 要旨は、外れ馬券が必要経費かどうか。
 会社を辞めて、競馬の儲けで妻子を養っていた人なわけでしょう。 もちろん納税していなかった。
 裁判所は、この儲けを「不労所得」ではなく「雑所得」と判断した。
 「不労所得」と「雑所得」の違いを調べたら、税率が違う。
 「雑所得」になると、とてもお安くなる。
 誰が見ても「不労所得」だと思うけどね。

 そういう人たちに対しては、国も優しいね。
 「額に汗して働いた人が得をする」んじゃなかったっけ。
 病院にかかっている患者さんや、生活保護受給者って、額に汗して働きたいんだけど、それが病気のためにできないんだよ。
 もちろん生活保護受給者の中には、アル中やギャンブル依存の不正受給者もいる。
 でも、ただでさえ少ない保護費の中から、貯金までしたり、1日1食にして真面目に保護法に従っている人々もいるんだよね。
 「額に汗して働いた人が報われる社会」を創るというこの国が、「額に汗していない脱税者」に優しいのは納得がいかないんだよ。
 そんな話を彼に訴えたら、じゃあ、生活保護受給者がなんで200万人を突破するような異常事態になってしまったのか、簡単に説明しようか、と言ってくれた。
 「一言で言うと、生活保護受給世帯の7割強はお年寄り世帯なんだよ。 病気で働けない世帯とか、流行りの派遣切りで保護を申請して、とりあえず生活費を保護に頼りながら、就労支援、いわゆる、ハローワーク通いを続けている人って意外と少ないんだ。 でも、何かと言えば少ないはずの病気で働けない人とか、就労支援を受けている人ばかりにフォーカスするけど、生活保護がこれだけ膨れ上がった原因はお年寄り世帯なんだ」
 だけどさ、お年寄りって年金があるでしょ
 なんで生活保護を受給するわけ?
 「今は国民皆保険制度がしっかりとしていて、20歳以上の国民は、社保に厚生、共済、国保のどれかに強制的に加入しなければならないよね。 ところが、強制加入となったのは昭和60年のことだったんだ。 それまでは加入か非加入かを選ぶことができた。 それは会社でも同じことで、社会保険に会社として加入していなかったところも少なくなかったんだよ。 そんな会社に勤務していたら、当然、無保険か、個人で国保に加入するしかなかった。 その時代に非加入を選択した人々は、当然、無年金になる。 強制加入になった時に会社員だった人は、25年の加入期間に満たないから、最低年金のみの支給になってしまうから、生活できないと言って生活保護を申請する。 国の制度の犠牲なわけだから、そういう人々は間違いなく申請が通るんだ。 何の審査もなくね。 病気で働けない人とか、突然勤務していた会社が倒産して職を失ったり、昨今の非正規雇用での失職や派遣切りの人々に対してはものすごく厳しい審査がある。 保護係の人が自宅まで出向いてきて、押入れの中から冷蔵庫、あらゆる収納、靴箱。 それに畳まで剥がして、換金できそうなものはないか、または保護を受けるために隠してないかを調べる。 それも訪問日時を告知しないでいきなりね」
 告知したら、金目のものを隠す可能性があるからでしょ
 たとえば自家用車とか
 「その通り。 自家用車は免許センターに照会するんだけど、貴金属とか、大画面の液晶テレビとか。 電子レンジやパソコンの保有が認められたのは、つい最近の法改正で、一昔前はそれらも贅沢品として、換金するように命じられた」
 お年寄り世帯の場合も、そういう調査があるんでしょ?
 「ないよ。 自家用車の保有に関する照会もされない。 でも、保護法では自家用車の保有を認めてない。 自転車はOKだけどね。 だから、ケースワーカーさんの訪問日は隣の家に自家用車を移動させたり、公共の駐車場に入れて隠すんだ。 本来はケースワーカーは訪問日を告知しないでいきなり訪問することになっているんだけど、1人で抱えている世帯が半端なく多いから、1世帯10分とかに決めて、どこから周るかをきちんと計画して動く。 その場合、訪問したは留守でした、では貴重な時間の無駄だよね。 それで、最近はあらかじめ電話や封書で何日の何時に訪問しますので、在宅していてください。 やむを得ない理由で不在される場合は、前日までに保護係に連絡してください、と告知してくれるようになった。 受給者にとっては不都合なものを隠す隙を与えてしまっているんだよね。 それと、受給者は、たとえばお隣さんからみかんを1個もらっても、それを即、保護係に連絡しなければならないという規則があって、その分は次月の保護費から引き落とされるんだけど、お年寄り世帯がその義務を怠っても、ああ、そうですかで終わりになってしまうんだ。 とにかく、お年寄りというだけで大切にされるんだよ。 市長からのリークだと、市議会で、8月の生活保護費減額の対象からお年寄り世帯を外してはどうかという議論があるらしい。 一番受給世帯の割合が多いところにそんなことをしてしまうと、げんがくのいみがなくなってしまうだろ。 お年寄りは大切にということが刷り込まれているからね、日本人は。 元はといえば韓国の儒教の考え方なんだけど。 お年寄りは盲目的に大切にしてくれるから、やりたい放題だろ、外来に出てたらわかるよね」
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 そっか、お年寄り世帯が7割強もいるのか
 でも、無年金や最低年金って、自分が社保や国保に加入する選択をしなかったことに問題があるんじゃないの?
 「強制加入にしなかった国にも問題はあるよ。 なのに、その国が減額を打ち出すんだから皮肉なものだ」
 それも一利あるか
 だけど、強制加入にしても、掛金でおかしな保養施設をポコポコポコポコ建てて、年金の財源を使い切ったのは国でしょ。 なのに、ろくに謝罪もしないで福祉にすべてを覆いかぶせるのは問題だよ
 「特に生活保護の減額は、憲法の生存権を犯す行為だからね。 憲法の位置づけとして、国が国民を縛るためのものなのか、国民が国の暴走を止めるためのものなのか、でまったく見方が変わってくる。 今は国が国民を縛るのに利用されているみたいだけど」
 このあとも、彼は8月に迫った生活保護費減額についてしゃべり続けた。
 国が生活保護費減額について、実施要項を明らかにしないために、人権派弁護士たちも生存権を盾にとった訴訟を起こせずにいることまで、とにかく話はやまなかった。
 
 きのうの彼はそうしていないとやりきれなかったのだ。
 彼の音楽的才能をいち早く認め、自らが経営する芸能プロダクションに所属させて、当時のアイドル早見優さんのスタッフとして、楽曲のアレンジからプロデュースの基礎を教え込み、彼女がラジオで担当していた英語講座の構成から、番組から生まれた英語教材の制作までをまかせてくれた恩人が、すい臓がんのために急逝したという連絡が入った後だったから。
 その人がいなければ、今の彼はなかったという。
 86年4月初め、当時のトップアイドルだった岡田有希子さんが、彼が所属していたそのプロダクションのビルの屋上から、突然投身自殺をしたときに、最後に彼女と会話をしていたのは彼だった。 そして、第一発見者も彼。
 窓の外を何かが落ちていったのを、テニスで鍛えた動体視力は人間だと認めた。
 急いで窓を開けると、歩道に・・・・・・。

 きのうの仕事上がり。
 彼はその恩人の未亡人に連絡を入れた。
 「おかあさん・・・・・・今までお父さんが守ってくれていた、ユッコのお墓、ぼくも遠くからですが守るお手伝いをさせてください。 あの、お父さんのすい臓がんは発見されてからどのくらい?・・・・・・5日ですか・・・・・・はい、すい臓がんは「沈黙のがん」と言われていて、早期発見できないがんなんです。 みんな1週間から長くても2週間でもう手遅れで治療のしようがないんです。 もっとお父さんと話がしたかった。 勤務している病棟で月に一度、演芸会というのがあって、スタッフがかくし芸を入院患者さんに披露するんですけど、今月はスティールギターの弾き語りをするんです。 ハワイアンなんですが、お父さんがスティールの基礎を教えてくれたからこそできるんですよね。 手のかかる教え子で申し訳ないと今、思ってるんです。 もっと、お父さんに教わりたかった。 カントリー&ウェスタンであっても、スティールを弾くという点は同じですからね。 亡くなっても、魂は50年間、この世に残るといいますから、演芸会にはぜひ来てもらって、悪い点を指摘してもらいたいと願っています・・・・・・。機会があれば必ず、お父さんの墓前に手を合わさせてください。 せっかく難しいがんの専門家になったのに、おとうさんにはなにもできなかったのがくやしくて・・・・・・ええ。 おかあさんもお元気で」
 そして彼はぼそっと言った。
 「仏様みたいな人だったのに。 そんな人が仏様になったら笑えないよな」

 わたしができたのは唯一、彼の話を聴くことだけだった。
 でも、わたしにも、生活保護の抱える問題がはっきりと見えたのは、とてもありがたかった。
 生活保護費って、各自治体によって金額が違うんだよ。
 持て余すくらい高いところと、生活の、たとえば食費を削らないと公共料金を払えない自治体もある。
 マスコミが取り上げるのは、決まって高額なところ。
 仕組みを知らないのか、それとも知っていてわざとそうしているのか。
 だとしたら悪意を感じる。
 最近のマスコミは強気をくじき弱気を助けないから。
 強気と一緒になって、弱気を叩くんだよ。

 この世の中に フェアなものなんて何もない