「『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が百万部突破だって。 何がいいんだか。 これも村上パターンで書かれた作品なんだろ。 なんであんなものがおもしろいのかね」
アネさんは新聞を読みながらつぶやいた。
「流行にのらずにいられない日本人の悲しい性ってやつでしょう。 文章は下手だし、物語は難解。 読んでも理解できない人が大半だと思うけどな」
チャラは答えた。
「村上パターン?」
ガンバは訊いた。
「ももちは、読んだことないからわからなーい.。 ぶりぶりっ」
チャック、誰がももちだって。
「主人公好みの女性が出てきて、主人公とすぐに”寝て”。 二十代のうちに何人と”寝た”かを自慢する。 同性愛には否定的で偏った考えを持つ。 あんなのはクリスマス・バレンタイン・ホワイトデーという三大白色テロルに加えるべき白色テロルだよ。 高慢で自己愛多過。 川端(康成)と三島(由紀夫)を”文章といえないほどの稚拙な文章とつかみどころのない物語で、プロとはいえない最低の文学だ”と酷評してる。 自分が見えてないってことだね」
やっぱりウチの彼は酷評したね。
どんなことでも点数が厳しいから。
回らない御寿司屋さんの良し悪しをみるのは魚じゃなくて紫。 いわゆる醤油。
醤油が赤くない御寿司屋さんはそれだけでダメ。 とことん酷評して2度と行かない。
醤油は醤油さしの中に入れてしまうと、酸化してだんだん黒くなっていく。
醤油さしから小皿に紫を出してみて赤くないということは、それだけ醤油さしの中で時間が経過してる。 つまり、客がこないところだということ。 客がないということは魚の鮮度もよくはない。
それが妙に当たるんだよね。
そういうところには二度と行かない。
高いから客が行かないんじゃないかというと、そういう高級店は、毎日醤油さしの紫を取り替えてるんだとか。
「川端康成はノーベル文学賞を受賞してる作家だ。 そんな稚拙な作家でもノーベル賞はもらえるってことか。 自分はどうなんだ、って言いたいね」
ガンバ。
何度も候補にはあがるけど受賞してないってことは、川端康成以下ってことじゃないの
「要するに、大江健三郎さんがノーベル文学賞を受賞した時に、ブームになって著書がバカ売れしたことがあったじゃないっすか。 でも、読んだほとんどの人は訳が分からないと酷評した。 それと同じで、流行に乗り遅れたくないから読んで訳が分からなくてもわかるふりをして買う。 日本人って自分にとって必要のないものでも、流行にはしっかり乗る人種だから。 流行に乗ってないと恐ろしいんですよ。 社会の中で孤立したような気分になる。 そんなもんだと思いますけどね」
「私も「ノルウェイの森」も「IQ184」も読んだし、「風の歌を聴け」ってデビュー作も読んだけどな。 どれも話の先が見えるんだよ。 ハンチョウの言うとおりの流れなんだ。 その程度の文章しか書けない奴が、川端や三島を批判するのはどうかと思うけどな。 文壇では川端や三島のほうがはるかに評が高いんだよ。 単なる身の程知らずだな。 チャラもいいことを言ってるよ。 日本人ってファッションも食生活もみんな同じだろ。 他人と同じじゃなきゃダメだと言う考え方なんだよ。 お友達がたくさんいないと不安なの。 他人と違うものを見つけたときの喜びを知らないんだな。 お粗末な人種だよ、まったく。 お恥ずかしいことで」
サコちゃんは三島に傾倒しているから、三島をバカにされるとだまっていられないんだよね
「こいつの場合は傾倒じゃない。 心酔だ。 考え方まで三島と同じなんだよ。 なあ、ハンチョウ、憲法第9条についてどう考えてる?」
神の次は憲法か。
よりによって第9条とはね・・・・・・。
アネさん、それを訊くなよ・・・・・・。
「敗戦国日本の戦勝国への詫証文だと思ってますけど。 特に第2項の自衛権、交戦権およびいかなる戦力の所有を否定しています。 これを遵守すると日本は侵略されても自衛すら許されないまま“国家として死ぬ”以外にはないから、そのため政府はいわゆる緊急避難の解釈理論という牽強付会の説を立てたということに他ならない。 そしてそれは、実際に執行力を持たぬ法の無権威を暴露するのみか、法と道徳との裂け目を拡大しているということで、国家理念を剥奪された日本は、生きんがためには法を破らざるをえぬことを、国家が大目に見るばかりか、恥も外聞もなく、国家自身が自分の行為としても大目に見ることになったんですよ。 法的には明らかに違憲である自衛隊の創設は、皮肉にも、新憲法を与えたアメリカ自身の、その後の国際政治状況の変化による要請に基づくものであるが、朝鮮戦争やベトナム戦争という難関を突破した1970年以降も、ただ護憲を標榜するだけの政府については、消極的弥縫策(一時のがれにとりつくろって間に合わせるための方策)にすぎず、しかもアメリカの絶えざる要請にしぶしぶ押されて、自衛隊をただ“量的に”拡大し、平和憲法下の安全保障の路線を、無目的無理想に進んでいってますよ」
「だろうな。 アメリカからの押し付け憲法としてはどうだ?」
「同条が日本の戦力の所有を徹頭徹尾否定する内容である以上、この詫証文の成立が、日本側の自発的意志であるか米国側の強制によるかは、もはや大した問題ではありませんね。 この条約が、国家としての存立を危うくする立場に自らを置くものであることは明らかです」
「まったく同感だ。 それらの持論は三島が私兵組織「盾の会」を組織して徹底的に憲法研究を行った結果得られた持論と同じだ。 確かそれらをまとめあげたのが『問題提起』だったよな。 まあ、ハンチョウの場合、戦犯として処刑された英霊のたった一人の遺族だから、第9条の内容をかみくだかず、無理解なのに理解したふりで盲目的に遵守すべきだという人間とは切り口が違って当たり前だけどな。 じゃあ、第2項だけを削除すればどうだ?」
「第九条第一項の規定は、世界各国の憲法に必要条項として挿入されるべきであり、日本国憲法のみが、国際社会への誓約を、国家自身の基本法に包含するというのは、不公平不調和であって敗戦憲法の特質を永久に免かれぬことにならうものですから、第九条全部を削除すべきです」
「よし。 第9条の矛盾をよく見抜いてるな。 やっぱり三島に心酔すると憲法持論も同じになる」
さすがは元・全共闘。
これだけの過激な発言にもひるまないね。
「憲法の改正においては第1章「天皇」と第20条「信教の自由」に関する神道を兼ね合わせて考えるべきで、それなくして日本は独立国家としての体面を回復できないばかりか、アメリカの思う壺にはまるだけです。 日本が真の独立国家としての体面を回復するならば、第9条を即刻破棄し、憲法において日本国軍を組織すべきであり、憲法に、日本国軍隊は、天皇を中心とするわが国体、その歴史、伝統、文化を護持することを本義とし、国際社会の信倚と日本国民の信頼の上に健軍される、という建軍の本義を規定・明記するべきであると思います。 それに、アメリカとの安保条約を双務条約に書き換えるだけではアジア反共国家に並ぶだけに過ぎない。 日本の真の国体は日本国軍の創設によってのみ回復されるものです。」
「うん。 反論の余地もないほど完成された持論だ。 安保の双務条約化だけでは韓国と同じで、それは真の独立国家日本の体面を回復したことにはならない。 私たちの理念もそうだった。 37mしか飛ばない”使えない放水車”と鉄球の前に理念は砕かれた。 ハンチョウ、おまえ生まれてくるのが遅すぎたな。 おまえがセクトのリーダーとして全共闘に参加していてくれたら、理念を砕かれるばかりか、理念を砕かれた私たちをなまぬるいと言って離反した連中が日本赤軍を創設し、ハイジャックをきっかけに大菩薩峠の同胞に対するリンチ事件、そしてその場から警察に追われ逃げ込んだ河合楽器あさま山荘での篭城、そしてダッカでの世界を巻き込んだハイジャックという一連の事件を引き起こさずに済んだと思う。 あいつらは表向きのイデオロギーをかぶった単なる犯罪者でしかない。 元同胞として恥ずかしいよ、まったく」
「アネさん、2001年に重信房子は世界に向けて、連合赤軍の解散を表明したんですよ。 もういいじゃないですか」
「重信らはいまだに罪に服してない。 赤軍の起こした一連の事件に対する総括はまだ終わっていないんだよ」
ここまでくると誰も口を出せない。
アネさんとウチの彼のやりとりをただ傍観するのみ。
「それは警察が情けないってことであって、その上の国も根本的に間違っているということです。 犯罪者を裁けないほど腰抜けなんですよ、この国は」
アネさんはくすっと笑った。
「私もわかるような気がします」
おおっ、ミスK。 わかるか、この話題が。
「日本は自衛隊という軍を持っていますね。 でも、彼らは北の独裁国家に対して何もしてくれない。 その間に何十万人が餓死したり、いわれのない罪で公開射殺されているのに。 核ミサイルを発射台に立てても、日本の領空に飛んでこなければ何も出来ない。 北朝鮮の普通の人々を助けてください」
「自衛隊は軍じゃないから。 それ、基本的に間違ってるよ。 憲法がその存在を否定してるんだよ。 なのに存在してる。 透明人間みたいなものか・・・・・・あっ、幽霊、わかる? 亡霊でもいいけど。 自衛隊は幽霊だから何も出来ないんだよ。 憲法第9条が削除されると初めて足が見える。 そうなったら、真っ先に北のカリアゲくんをチュドーンってしてあげるから」
チャック・・・・・・おいおい、わかりすぎる理論だよ。
「でも、セルフ・ディフェンス・フォースだから。 フォースっていうのは力っていう意味でしょう。 『スターウォーズ』のフォースはものすごい戦力だし。 どうして自衛隊はフォースを使ってくれないの?」
『スターウォーズ』ファンなの?、ミスKは。
わたしもある時点まではそうでした。
でも、『スタートレック』を観てしまうと、単なる三流おとぎ話で、黒澤明監督作品のパクリとしか見えなくなった。
今となっては、何が面白いのかさえわからない。
「憲法第9条がフォースを使うことを認めてないの」
チャックは単刀直入だね。
「じゃあ、どうして自衛隊はあるの。 自然災害のための専門家なの?」
「うーん・・・・・・そんなものかもしれない」
「でも、戦闘機や戦車や軍艦を北よりたくさん持ってるよ。 あれは兵器でしょ」
「そうなんだけど、使えないの。 子供がね、ミニカーとか戦隊ヒーローのロボットとか『仮面ライダー』の変身セットを集めるのと同じで、単なるコレクションだね。 デニムをはかないのに集めてるみたいなものだから。 ただ並べて楽しんでるの」
「どうしてそんなことをするの? 北も兵器は集めてるけど、使えるものはミサイルだけ。 それは何十年も前にロシアからもらったもので、全部請われて動かないから」
「だから、憲法第9条があるから、使えないの。 日本の兵器はちゃんと動くし、アメリカから最新式のものを買ってるんだからね、動かないと詐欺でしょ」
「ちょっと、いいかな。 何でも最新式じゃないんだよ。 たとえばイージスは2隻とも中古なんだ。 それを磨いて最新式だと言って売りつけたの。 日本はその言葉を信じて新品の価格で買ってしまった。 アメリカの言うことは何でも信じるんだよ。 アメリカのわんこだから。 ぼくが米軍にいた頃は、日本は笑いものだった。 相当しつけの行き届いたわんこだって。 お手っていえば、さっとお手をするし、お座りって言えば、いつまでもお座りしてるって」
ウチのゴールデンレトリバーみたいだね。 チワワも厳しくしつけられてるし。
「えっ!」
チャックは目を大きく見開いた。
「税金詐欺だっ、アメ公の野郎、くそっ!」
「そのアメ公の大学に6年もいて、アメ公の経営する病院で働いていたのは誰だっけ?」
彼はすかさず突っ込む。
「それは・・・・・・ちょっとかんだみたいなものだって!」
かむというのは、たとえば「革命」を「かわめい」って平気で言ってしまうことだからね
「あっ、それ、ひどい。 今までわんこみたいに尽くしてきたのに」
だって言ったじゃない
医学にかわめいを起こすって
「あれはかんだだけだって」
だからかんだってことの例にしたんでしょ
「むごすぎます・・・・・・いいんだ、いいんだ。 ぼくさえいなければ、世の中まあるく治まるんだ。 ツンツツツツクツクツンツンしらけど~り~」
ストップ!
なんで「しらけ鳥音頭」になるわけ
誰も知らないでしょ
昭和のギャグなんか
「あっ、それは人に言えるかな。 あなたは昭和49年生まれじゃないですか。 ちなみにぼくはピッカピカの一年生、ズン。 でした」
女性の年齢を人前でばらすな
デリカシーってものがないの、サコちゃんは!
「おまえたち! 何の議論なんだよ、これは。 本来の議題から大きくそれてるだろうが!」
アネさんは新聞を丸めて、デスクに叩きつけて怒鳴った。
と、まあ、72時間の中ではこんな破綻した場面もありました。
ちなみに、アネさんが怒鳴った途端に救急車から救急搬送の受け入れを具申する連絡が入ったんだけど。
アネさんは新聞を読みながらつぶやいた。
「流行にのらずにいられない日本人の悲しい性ってやつでしょう。 文章は下手だし、物語は難解。 読んでも理解できない人が大半だと思うけどな」
チャラは答えた。
「村上パターン?」
ガンバは訊いた。
「ももちは、読んだことないからわからなーい.。 ぶりぶりっ」
チャック、誰がももちだって。
「主人公好みの女性が出てきて、主人公とすぐに”寝て”。 二十代のうちに何人と”寝た”かを自慢する。 同性愛には否定的で偏った考えを持つ。 あんなのはクリスマス・バレンタイン・ホワイトデーという三大白色テロルに加えるべき白色テロルだよ。 高慢で自己愛多過。 川端(康成)と三島(由紀夫)を”文章といえないほどの稚拙な文章とつかみどころのない物語で、プロとはいえない最低の文学だ”と酷評してる。 自分が見えてないってことだね」
やっぱりウチの彼は酷評したね。
どんなことでも点数が厳しいから。
回らない御寿司屋さんの良し悪しをみるのは魚じゃなくて紫。 いわゆる醤油。
醤油が赤くない御寿司屋さんはそれだけでダメ。 とことん酷評して2度と行かない。
醤油は醤油さしの中に入れてしまうと、酸化してだんだん黒くなっていく。
醤油さしから小皿に紫を出してみて赤くないということは、それだけ醤油さしの中で時間が経過してる。 つまり、客がこないところだということ。 客がないということは魚の鮮度もよくはない。
それが妙に当たるんだよね。
そういうところには二度と行かない。
高いから客が行かないんじゃないかというと、そういう高級店は、毎日醤油さしの紫を取り替えてるんだとか。
「川端康成はノーベル文学賞を受賞してる作家だ。 そんな稚拙な作家でもノーベル賞はもらえるってことか。 自分はどうなんだ、って言いたいね」
ガンバ。
何度も候補にはあがるけど受賞してないってことは、川端康成以下ってことじゃないの
「要するに、大江健三郎さんがノーベル文学賞を受賞した時に、ブームになって著書がバカ売れしたことがあったじゃないっすか。 でも、読んだほとんどの人は訳が分からないと酷評した。 それと同じで、流行に乗り遅れたくないから読んで訳が分からなくてもわかるふりをして買う。 日本人って自分にとって必要のないものでも、流行にはしっかり乗る人種だから。 流行に乗ってないと恐ろしいんですよ。 社会の中で孤立したような気分になる。 そんなもんだと思いますけどね」
「私も「ノルウェイの森」も「IQ184」も読んだし、「風の歌を聴け」ってデビュー作も読んだけどな。 どれも話の先が見えるんだよ。 ハンチョウの言うとおりの流れなんだ。 その程度の文章しか書けない奴が、川端や三島を批判するのはどうかと思うけどな。 文壇では川端や三島のほうがはるかに評が高いんだよ。 単なる身の程知らずだな。 チャラもいいことを言ってるよ。 日本人ってファッションも食生活もみんな同じだろ。 他人と同じじゃなきゃダメだと言う考え方なんだよ。 お友達がたくさんいないと不安なの。 他人と違うものを見つけたときの喜びを知らないんだな。 お粗末な人種だよ、まったく。 お恥ずかしいことで」
サコちゃんは三島に傾倒しているから、三島をバカにされるとだまっていられないんだよね
「こいつの場合は傾倒じゃない。 心酔だ。 考え方まで三島と同じなんだよ。 なあ、ハンチョウ、憲法第9条についてどう考えてる?」
神の次は憲法か。
よりによって第9条とはね・・・・・・。
アネさん、それを訊くなよ・・・・・・。
「敗戦国日本の戦勝国への詫証文だと思ってますけど。 特に第2項の自衛権、交戦権およびいかなる戦力の所有を否定しています。 これを遵守すると日本は侵略されても自衛すら許されないまま“国家として死ぬ”以外にはないから、そのため政府はいわゆる緊急避難の解釈理論という牽強付会の説を立てたということに他ならない。 そしてそれは、実際に執行力を持たぬ法の無権威を暴露するのみか、法と道徳との裂け目を拡大しているということで、国家理念を剥奪された日本は、生きんがためには法を破らざるをえぬことを、国家が大目に見るばかりか、恥も外聞もなく、国家自身が自分の行為としても大目に見ることになったんですよ。 法的には明らかに違憲である自衛隊の創設は、皮肉にも、新憲法を与えたアメリカ自身の、その後の国際政治状況の変化による要請に基づくものであるが、朝鮮戦争やベトナム戦争という難関を突破した1970年以降も、ただ護憲を標榜するだけの政府については、消極的弥縫策(一時のがれにとりつくろって間に合わせるための方策)にすぎず、しかもアメリカの絶えざる要請にしぶしぶ押されて、自衛隊をただ“量的に”拡大し、平和憲法下の安全保障の路線を、無目的無理想に進んでいってますよ」
「だろうな。 アメリカからの押し付け憲法としてはどうだ?」
「同条が日本の戦力の所有を徹頭徹尾否定する内容である以上、この詫証文の成立が、日本側の自発的意志であるか米国側の強制によるかは、もはや大した問題ではありませんね。 この条約が、国家としての存立を危うくする立場に自らを置くものであることは明らかです」
「まったく同感だ。 それらの持論は三島が私兵組織「盾の会」を組織して徹底的に憲法研究を行った結果得られた持論と同じだ。 確かそれらをまとめあげたのが『問題提起』だったよな。 まあ、ハンチョウの場合、戦犯として処刑された英霊のたった一人の遺族だから、第9条の内容をかみくだかず、無理解なのに理解したふりで盲目的に遵守すべきだという人間とは切り口が違って当たり前だけどな。 じゃあ、第2項だけを削除すればどうだ?」
「第九条第一項の規定は、世界各国の憲法に必要条項として挿入されるべきであり、日本国憲法のみが、国際社会への誓約を、国家自身の基本法に包含するというのは、不公平不調和であって敗戦憲法の特質を永久に免かれぬことにならうものですから、第九条全部を削除すべきです」
「よし。 第9条の矛盾をよく見抜いてるな。 やっぱり三島に心酔すると憲法持論も同じになる」
さすがは元・全共闘。
これだけの過激な発言にもひるまないね。
「憲法の改正においては第1章「天皇」と第20条「信教の自由」に関する神道を兼ね合わせて考えるべきで、それなくして日本は独立国家としての体面を回復できないばかりか、アメリカの思う壺にはまるだけです。 日本が真の独立国家としての体面を回復するならば、第9条を即刻破棄し、憲法において日本国軍を組織すべきであり、憲法に、日本国軍隊は、天皇を中心とするわが国体、その歴史、伝統、文化を護持することを本義とし、国際社会の信倚と日本国民の信頼の上に健軍される、という建軍の本義を規定・明記するべきであると思います。 それに、アメリカとの安保条約を双務条約に書き換えるだけではアジア反共国家に並ぶだけに過ぎない。 日本の真の国体は日本国軍の創設によってのみ回復されるものです。」
「うん。 反論の余地もないほど完成された持論だ。 安保の双務条約化だけでは韓国と同じで、それは真の独立国家日本の体面を回復したことにはならない。 私たちの理念もそうだった。 37mしか飛ばない”使えない放水車”と鉄球の前に理念は砕かれた。 ハンチョウ、おまえ生まれてくるのが遅すぎたな。 おまえがセクトのリーダーとして全共闘に参加していてくれたら、理念を砕かれるばかりか、理念を砕かれた私たちをなまぬるいと言って離反した連中が日本赤軍を創設し、ハイジャックをきっかけに大菩薩峠の同胞に対するリンチ事件、そしてその場から警察に追われ逃げ込んだ河合楽器あさま山荘での篭城、そしてダッカでの世界を巻き込んだハイジャックという一連の事件を引き起こさずに済んだと思う。 あいつらは表向きのイデオロギーをかぶった単なる犯罪者でしかない。 元同胞として恥ずかしいよ、まったく」
「アネさん、2001年に重信房子は世界に向けて、連合赤軍の解散を表明したんですよ。 もういいじゃないですか」
「重信らはいまだに罪に服してない。 赤軍の起こした一連の事件に対する総括はまだ終わっていないんだよ」
ここまでくると誰も口を出せない。
アネさんとウチの彼のやりとりをただ傍観するのみ。
「それは警察が情けないってことであって、その上の国も根本的に間違っているということです。 犯罪者を裁けないほど腰抜けなんですよ、この国は」
アネさんはくすっと笑った。
「私もわかるような気がします」
おおっ、ミスK。 わかるか、この話題が。
「日本は自衛隊という軍を持っていますね。 でも、彼らは北の独裁国家に対して何もしてくれない。 その間に何十万人が餓死したり、いわれのない罪で公開射殺されているのに。 核ミサイルを発射台に立てても、日本の領空に飛んでこなければ何も出来ない。 北朝鮮の普通の人々を助けてください」
「自衛隊は軍じゃないから。 それ、基本的に間違ってるよ。 憲法がその存在を否定してるんだよ。 なのに存在してる。 透明人間みたいなものか・・・・・・あっ、幽霊、わかる? 亡霊でもいいけど。 自衛隊は幽霊だから何も出来ないんだよ。 憲法第9条が削除されると初めて足が見える。 そうなったら、真っ先に北のカリアゲくんをチュドーンってしてあげるから」
チャック・・・・・・おいおい、わかりすぎる理論だよ。
「でも、セルフ・ディフェンス・フォースだから。 フォースっていうのは力っていう意味でしょう。 『スターウォーズ』のフォースはものすごい戦力だし。 どうして自衛隊はフォースを使ってくれないの?」
『スターウォーズ』ファンなの?、ミスKは。
わたしもある時点まではそうでした。
でも、『スタートレック』を観てしまうと、単なる三流おとぎ話で、黒澤明監督作品のパクリとしか見えなくなった。
今となっては、何が面白いのかさえわからない。
「憲法第9条がフォースを使うことを認めてないの」
チャックは単刀直入だね。
「じゃあ、どうして自衛隊はあるの。 自然災害のための専門家なの?」
「うーん・・・・・・そんなものかもしれない」
「でも、戦闘機や戦車や軍艦を北よりたくさん持ってるよ。 あれは兵器でしょ」
「そうなんだけど、使えないの。 子供がね、ミニカーとか戦隊ヒーローのロボットとか『仮面ライダー』の変身セットを集めるのと同じで、単なるコレクションだね。 デニムをはかないのに集めてるみたいなものだから。 ただ並べて楽しんでるの」
「どうしてそんなことをするの? 北も兵器は集めてるけど、使えるものはミサイルだけ。 それは何十年も前にロシアからもらったもので、全部請われて動かないから」
「だから、憲法第9条があるから、使えないの。 日本の兵器はちゃんと動くし、アメリカから最新式のものを買ってるんだからね、動かないと詐欺でしょ」
「ちょっと、いいかな。 何でも最新式じゃないんだよ。 たとえばイージスは2隻とも中古なんだ。 それを磨いて最新式だと言って売りつけたの。 日本はその言葉を信じて新品の価格で買ってしまった。 アメリカの言うことは何でも信じるんだよ。 アメリカのわんこだから。 ぼくが米軍にいた頃は、日本は笑いものだった。 相当しつけの行き届いたわんこだって。 お手っていえば、さっとお手をするし、お座りって言えば、いつまでもお座りしてるって」
ウチのゴールデンレトリバーみたいだね。 チワワも厳しくしつけられてるし。
「えっ!」
チャックは目を大きく見開いた。
「税金詐欺だっ、アメ公の野郎、くそっ!」
「そのアメ公の大学に6年もいて、アメ公の経営する病院で働いていたのは誰だっけ?」
彼はすかさず突っ込む。
「それは・・・・・・ちょっとかんだみたいなものだって!」
かむというのは、たとえば「革命」を「かわめい」って平気で言ってしまうことだからね
「あっ、それ、ひどい。 今までわんこみたいに尽くしてきたのに」
だって言ったじゃない
医学にかわめいを起こすって
「あれはかんだだけだって」
だからかんだってことの例にしたんでしょ
「むごすぎます・・・・・・いいんだ、いいんだ。 ぼくさえいなければ、世の中まあるく治まるんだ。 ツンツツツツクツクツンツンしらけど~り~」
ストップ!
なんで「しらけ鳥音頭」になるわけ
誰も知らないでしょ
昭和のギャグなんか
「あっ、それは人に言えるかな。 あなたは昭和49年生まれじゃないですか。 ちなみにぼくはピッカピカの一年生、ズン。 でした」
女性の年齢を人前でばらすな
デリカシーってものがないの、サコちゃんは!
「おまえたち! 何の議論なんだよ、これは。 本来の議題から大きくそれてるだろうが!」
アネさんは新聞を丸めて、デスクに叩きつけて怒鳴った。
と、まあ、72時間の中ではこんな破綻した場面もありました。
ちなみに、アネさんが怒鳴った途端に救急車から救急搬送の受け入れを具申する連絡が入ったんだけど。