きょうはサコちゃんの、今まで伸びていた皮膚科の診察だった。
きょうの午後になって、いきなり連絡があって、今夜午後6時30分に来てくださいという。
本人は内緒で、皮膚科クリニックで処方される薬と同じものを、この病棟の薬剤師に頼んで、製薬会社から取り寄せてもらっていた。
それも、3日分しか売ってくれない。
劇薬に極めて近いので、大量販売をすると製薬会社に、国から指導が入るというのだ。
総合診療科医の書いた処方箋であってもダメだ、唯一長期間使用する許可を出すことのできるのは皮膚科専門医だけだと言われた。
要するに、総合診療科は、まだ日本では正式な認知を得ていないのだ。
「ここで治療を投げ出せば、そう遠くないうちに失明する。 志村のこのベイビーフェイスも見られなくなるし、患者さんの診察もできなくなる。 それだけじゃない、臨床心理士としても目が見えなければクライエントが見えなくなるから、カウンセリングもできなくなる。 まあ、それはそれで仕方ないな。 だけど、志村の顔だけは死ぬまで見てやって欲しい。 お願いだ」
アネさんが素晴らしいことを言ってくれたおかげで、彼は診察を受けに行く気になった。
午後6時に仕事を上がって、急いでクリニックに向かう。
食べるものも食べないで、ただまっすぐに。
「おそらく、病院食は取り置きしてくれてないから、帰りにどこかで食事をして帰ろう」
だろうね
今頃はエレヴェーターを降りて、給食会社のゴミ箱の中だよ、きっと
でも、どうして急に、きょうの予約をきょう入れてくるんだろう
「きょうは水曜日だよね。 昨日の火曜と明日の木曜は午前のみ診療なんだ。 だから、おそらく午後から大量にお待たせ患者さんを診察してるんじゃないかと思う。 ぼくの順番が火曜の患者さんと木曜の患者さんのブリッジだったんだろうね。 昼間は来られない患者さんを午後診察の日の終わりにくっつけたとか。 理由なんかどうでもいいけど」
診察の結果は、
「波がありますねー」
の一言だった。
前回、つまり先月は驚くほどに状態がよかったから、慎重に進めて叩ききるつもりで、弱めの処方薬を数種組み合わせてみた。
でも、考えが甘かったから、病巣は一気に元気を取り戻して、攻撃を始めてしまった。
だから、今月は強い薬に戻して悪魔が勢いを落とさせる。
最高強度のステロイドを数種、皮膚に塗布するものと服用するものの両側から攻め立てる。
常に先を読んでの完璧な治療計画だった。
髪の手を持つ、と言われるのもこういうところに所以があるのかもしれない。
きょうは久々に液体窒素で頭のイボを焼き殺す治療を受けた。
相当ひどいのか・・・・・・。
アネさんに何と報告すればいいんだろう。
「・・・・・・剤薬局に行くよ」
えっ、ああ、ええ
「ごめん。 お腹が危険だよね。 ラーメン? みよしの? お寿司?」
ラーメン
「やっぱり。 手話の時にも本当にラーメンが食べたかったんだから」
悪い?
「いや。 とにかく薬を出してもらって」
志村です
「おお、終わったか、治療は?」
ええ、たったいま
薬局で処方薬を受け取ったところです
「どうだった。 かんばしくないだろう。 待たされたことでリズムが崩れた。 病気に隙を与えたからな」
最高強度の
「ステロイドを数種か」
塗布と内服両方から攻撃するそうです
「なるほど。 どっちが勝つか。 いい結果が出るといいな」
はい
これから帰ります
「あー、志村。 あのなー、病院食はさ、時間が経つと冷たくなるよな。 おみおつけは冷たくなるし、ごはんは冷えると硬くなる。 魚も硬くて食べられたものじゃないから、下げた。 どこかでさ、な、わかるだろ」
はい
そうします
大体ね、病院食は食べないで下げられてしまっても、きちんと1か月分、給与から引き落とされるんだからね。
税務署的な金盗れシンドロームだよ、まったく、あーあ。
でも、ラーメンにはかないませんね。 何ってたってラーメンだよ。
食べると思うの。
このために人生やってるんだなー、って。
イオンの前を通るよね?
「マックスバリュのほうだけど」
あそこのスーパーワイルドラーメンにしない?
「だめだめ。 一度完食すると入店お断りだから」
うそ、まさかそんな
「入り口の壁に書かれていたのを見なかった?」
見てない
そうか
それなら、どこにしますか?
「いつものとんとろチャーシューとチャーマヨおにぎりで、どう」
それがいいか
うんうん、そうしようそうしよう
スーパーワイルドラーメンは、味はありふれたというかイマイチなものだったから
かといって山岡家はまずいよ。 味がカップめん
「慣れたところでいいでしょう」
病気が深刻で、失明の危険性もあるというのに、サコちゃんは顔にも出さない。
わたしなら自暴自棄になるだろうな。
強いよ、ほんとうに。
再会できてよかった。
生涯をともにして正解だった。
神様がわたしにくれた人。
かみ
「ちょっと、やっぱりイオンに寄っていい? 買い物を忘れてた」
なに?
「下着。ボクサーブリーフとトランクス。 食事の前にごめんね」
神様は笑いのできる人を遣わしてくれた・・・・・・って女性に、ブリ・・・・・・とかトラ・・・・・・なんていう、普通?
わたしは、彼に具体的には言えないよ。
ブラとかパンなんて絶対に言えない。
でも、女性下着にはいい言葉があるよね。
ランジェリー。
そういえば、ずっと一緒にいても、ちょっと離れてベンチで待っていてくれるから。
「ごめん。 さあ、ラーメン屋だ」
路面がキラキラ光っている。
雪解け水が凍結したものだ。
雪は一度解けたら、二度と雪に戻ることはない。
このうえ、無謀なおばちゃんドライバーや走り屋がいないことを望む。
無謀な一人の運転が大惨事を引き起こす。
絶対に巻き込まれたくはない。
彼とずっと生きていたいから。
きょうの午後になって、いきなり連絡があって、今夜午後6時30分に来てくださいという。
本人は内緒で、皮膚科クリニックで処方される薬と同じものを、この病棟の薬剤師に頼んで、製薬会社から取り寄せてもらっていた。
それも、3日分しか売ってくれない。
劇薬に極めて近いので、大量販売をすると製薬会社に、国から指導が入るというのだ。
総合診療科医の書いた処方箋であってもダメだ、唯一長期間使用する許可を出すことのできるのは皮膚科専門医だけだと言われた。
要するに、総合診療科は、まだ日本では正式な認知を得ていないのだ。
「ここで治療を投げ出せば、そう遠くないうちに失明する。 志村のこのベイビーフェイスも見られなくなるし、患者さんの診察もできなくなる。 それだけじゃない、臨床心理士としても目が見えなければクライエントが見えなくなるから、カウンセリングもできなくなる。 まあ、それはそれで仕方ないな。 だけど、志村の顔だけは死ぬまで見てやって欲しい。 お願いだ」
アネさんが素晴らしいことを言ってくれたおかげで、彼は診察を受けに行く気になった。
午後6時に仕事を上がって、急いでクリニックに向かう。
食べるものも食べないで、ただまっすぐに。
「おそらく、病院食は取り置きしてくれてないから、帰りにどこかで食事をして帰ろう」
だろうね
今頃はエレヴェーターを降りて、給食会社のゴミ箱の中だよ、きっと
でも、どうして急に、きょうの予約をきょう入れてくるんだろう
「きょうは水曜日だよね。 昨日の火曜と明日の木曜は午前のみ診療なんだ。 だから、おそらく午後から大量にお待たせ患者さんを診察してるんじゃないかと思う。 ぼくの順番が火曜の患者さんと木曜の患者さんのブリッジだったんだろうね。 昼間は来られない患者さんを午後診察の日の終わりにくっつけたとか。 理由なんかどうでもいいけど」
診察の結果は、
「波がありますねー」
の一言だった。
前回、つまり先月は驚くほどに状態がよかったから、慎重に進めて叩ききるつもりで、弱めの処方薬を数種組み合わせてみた。
でも、考えが甘かったから、病巣は一気に元気を取り戻して、攻撃を始めてしまった。
だから、今月は強い薬に戻して悪魔が勢いを落とさせる。
最高強度のステロイドを数種、皮膚に塗布するものと服用するものの両側から攻め立てる。
常に先を読んでの完璧な治療計画だった。
髪の手を持つ、と言われるのもこういうところに所以があるのかもしれない。
きょうは久々に液体窒素で頭のイボを焼き殺す治療を受けた。
相当ひどいのか・・・・・・。
アネさんに何と報告すればいいんだろう。
「・・・・・・剤薬局に行くよ」
えっ、ああ、ええ
「ごめん。 お腹が危険だよね。 ラーメン? みよしの? お寿司?」
ラーメン
「やっぱり。 手話の時にも本当にラーメンが食べたかったんだから」
悪い?
「いや。 とにかく薬を出してもらって」
志村です
「おお、終わったか、治療は?」
ええ、たったいま
薬局で処方薬を受け取ったところです
「どうだった。 かんばしくないだろう。 待たされたことでリズムが崩れた。 病気に隙を与えたからな」
最高強度の
「ステロイドを数種か」
塗布と内服両方から攻撃するそうです
「なるほど。 どっちが勝つか。 いい結果が出るといいな」
はい
これから帰ります
「あー、志村。 あのなー、病院食はさ、時間が経つと冷たくなるよな。 おみおつけは冷たくなるし、ごはんは冷えると硬くなる。 魚も硬くて食べられたものじゃないから、下げた。 どこかでさ、な、わかるだろ」
はい
そうします
大体ね、病院食は食べないで下げられてしまっても、きちんと1か月分、給与から引き落とされるんだからね。
税務署的な金盗れシンドロームだよ、まったく、あーあ。
でも、ラーメンにはかないませんね。 何ってたってラーメンだよ。
食べると思うの。
このために人生やってるんだなー、って。
イオンの前を通るよね?
「マックスバリュのほうだけど」
あそこのスーパーワイルドラーメンにしない?
「だめだめ。 一度完食すると入店お断りだから」
うそ、まさかそんな
「入り口の壁に書かれていたのを見なかった?」
見てない
そうか
それなら、どこにしますか?
「いつものとんとろチャーシューとチャーマヨおにぎりで、どう」
それがいいか
うんうん、そうしようそうしよう
スーパーワイルドラーメンは、味はありふれたというかイマイチなものだったから
かといって山岡家はまずいよ。 味がカップめん
「慣れたところでいいでしょう」
病気が深刻で、失明の危険性もあるというのに、サコちゃんは顔にも出さない。
わたしなら自暴自棄になるだろうな。
強いよ、ほんとうに。
再会できてよかった。
生涯をともにして正解だった。
神様がわたしにくれた人。
かみ
「ちょっと、やっぱりイオンに寄っていい? 買い物を忘れてた」
なに?
「下着。ボクサーブリーフとトランクス。 食事の前にごめんね」
神様は笑いのできる人を遣わしてくれた・・・・・・って女性に、ブリ・・・・・・とかトラ・・・・・・なんていう、普通?
わたしは、彼に具体的には言えないよ。
ブラとかパンなんて絶対に言えない。
でも、女性下着にはいい言葉があるよね。
ランジェリー。
そういえば、ずっと一緒にいても、ちょっと離れてベンチで待っていてくれるから。
「ごめん。 さあ、ラーメン屋だ」
路面がキラキラ光っている。
雪解け水が凍結したものだ。
雪は一度解けたら、二度と雪に戻ることはない。
このうえ、無謀なおばちゃんドライバーや走り屋がいないことを望む。
無謀な一人の運転が大惨事を引き起こす。
絶対に巻き込まれたくはない。
彼とずっと生きていたいから。