前回の更新では、新成人に対して、かなり耳の痛くなるような話題を書いてしまいました。
 もし、新成人の方々が読まれたとしたら、ごめんなさい。
 とにかく、お互いに言いたいことを言うのが、この病棟の規則なんです。
 看護師が医師に対して苦言を言うこともありますし、その逆も当然あります。
 上司であるアネさんに対しても、違うと思えばはっきりと違うと言う。
 現在の医療で最も重んじられているのは、チーム医療なんですね。
 医師と数名の看護師が1つのチームを結成して、担当患者さんのすべてのケアを行う方式です。
 そのチームの中で、隠し事があったり、言いたいことを言わずに自分の中に溜め込んだりしていては、もしものときにスタートがバラバラニなり、治療が遅れてしまうことが起こります。 それは、言い換えれば、患者さんを見殺しにしてしまうことなんですよ。
 わたしたち、医療に携わるものにとって、最低限守らなければならないこと。
 それは、患者さんが入院生活を快適に終えて、健康になって社会に戻っていってもらうこと。
 そのためには上司だ部下だ、目上だ目下だなんてことは厳禁です。
 それは各病棟に2名ずつ配属されている、ゴミ箱の整理や簡単な清掃を行うスタッフまでが、同じ権利を与えられています。
 いいことはいい。悪いことは悪い。 それをはっきりと言い合わないと円滑な病棟運営はできません。
 医長、副医長なんていう役職は、単なる文字にしか過ぎません。
 これからの更新でさらに、他人を中傷するような記事を書くことがあると思います。
 そのことを頭に入れてからお読みください。

 さて、患者さんが戻り、本格的な治療が再開されたきょうのことです。

 彼は今朝もなお、コーデックとかいうものを探して、ネットに夢中で、食事はただ、掻き込むだけ。
 そして、いきなり、
 「あった!」と叫んで、なにやらキーボードを叩いて、パソコンを再起動させました。
 「これで、多分すべてのブルーレイディスクを再生することが可能になると思うよ」
 早速、レンタルしているブルーレイをパソコンのトレイにセットすると、数秒後、今まではPS3でも、BDレコーダーでも再生できなかったディスクが見事に再生されました。
 フリーのDVDプレイヤーソフトでのことです。
 音声・字幕メニューもチャプターも、特典メニューもすべて正常に作動します。
 ただ、ひとつ面倒なのはネット環境から切断しなければならないこと。
 LANケーブルをパソコン側の差込口から抜かないとダメなんです。
 LANハブ側を抜いても、パソコンはLAN環境にあると錯覚するんです。
 ネットワークを探すことに全機能を集中させて、他のコマンドは一切受け付けなくなる。
 後ろからディスプレィを覗き込むと、真っ赤な文字で大きく「NOTICE」とあり、それ以下の注意書きはすべて、見たことのない文字でした。
 なに、これ?
 注意書きだけど、下の文字はヘブライ語でもないみたいだし、見たことがないけど
 「これはインド文字、ヒンドウゥ語とも言われるインドの公用語だよ。 このコーデックを作ったのはインドのエンジニアなんだ」
 インドにコンピュータのエンジニアがいるの・・・・・・。
 インドにいるのはカースト制度に当てはまる、いわゆる士農工商と、街角の蛇使いとカレー職人だけだよ。
 インターネットやコンピュータなんか無縁の国だと思ってたけど。
 まあ、それはいいとして。

 ねえ、入れて! 今すぐわたしに入れて!
 「えっ・・・・・・何を・・・・・・そういうのは夜、ベッドの中での言葉だよ。 少なくても、きみはそんなことを言うような下劣な女の子だとは思わなかったな。 まあ、抗鬱薬が処方されなくなったから、普通の男性機能は回復してはいるけど・・・・・・でも、女の子が安易に口にするべき言葉じゃないよ」
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????????????????????????????????????????????????????????????。
 わたしのPCでも、レンタルしてきたブルーレイが再生できるようにしてってことだけど?
 「えっ、あー、なるほど。 だったら、言葉が足りなかったね。 新成人のことを批判できないよ。 最初からそう言えばいいじゃない」
 うれしかったから、つい・・・・・・そういうことってあるでしょ
 ガッツポーズみたいな
 簡単に言うと、わたしはうれしさのあまり、心でガッツポーズをしたんだよ
 あっ、そういえばサコちゃんって、ガッツポーズしないよね
 難手術を成功させても冷静沈着で、なんていうか、こんなの当たり前みたいな感じを受けるよ
 「ぼくがテニス部にいた頃は、ガッツポーズをするとものすごく怒られたんだ。 今では、プロのアスリートでさえ派手なガッツポーズをするけど、以前の日本では、はしたない行為とされていた。 だから、オリンピックで金メダルを獲得しても、世界新記録を出しても、ガッツポーズをしただけで大問題にされた。 ガッツポーズに対して日本人が違和感なく受け入れるようになったのは、Jリーグ開幕後じゃないのかな。 大相撲の力士って場所優勝しても、ガッツポーズをしないで、冷静に表彰式に臨むし、部屋での会見で、記者たちがガッツポーズをリクエストしても、きっぱり断るんだ。 あれが美しい日本人なんだよ。 ガッツポーズというのは、対戦相手を殲滅したという意味で、武士道精神に反することだ。 日本人は、負けてしまった相手に対してもきちんと敬意を払うということが美徳とされてきた。 海外ではそういう日本を素晴らしいと尊敬していたんだよ。 オリンピックの報道でも、自国の選手が日本人に敗れたのに、日本人選手を褒め称える記事になる。 自国の選手たちに対して日本人を尊敬しろ、見習え、真似ろと辛口なことを書いた。 最近はそんなことを全く書かない。 美しい国、日本を取り戻すのがこの政権の目標なら、まずそこから正すべきだと思う。 ガッツポーズをしないと気がすまないなら、自分1人になってからすべきだと思うよ。 今は松岡修造と同じNPOで活動してるけど、いまだになるべく口を利かないようにしているんだ。 あいつのガッツポーズは汚い。 特にテニスは英国王室貴族のスポーツだから、礼を重んじなければならない。 それがわからないならスポーツをするなと言いたいね。 全勝優勝しても表情さえ変えることすらなかった、現在の貴乃花親方を観ていて、これが真の日本人の姿なんだろうと思って涙が出たよ。 日本人はああでないといけない。 緊急経済対策で箱物を作るのが美しい国日本の第1歩じゃない。 優遇税方式だってそうだ。 まず、元来の日本人の姿を取り戻すことがすべてにおいて先んじられないと、美しい国は取り戻せない。 高校野球で盗塁に成功した選手がガッツポーズをしたためにアウトになったなんて、毎回あるんだよ。 だから、野球部ではまず精神を鍛えてどんなに素晴らしいプレイをしても、沈着冷静でいることを叩き込まれる。 それで試合に逆転負けしてしまった学校もあるんだよ」
 それって、わたしたちスタッフが、患者さんの病室に入るときに必ず一礼をしなければならないっていうのと同じことなのかな?
 「そう。 いい例はイオンモールの1階のジャスコ。 あそこのスタッフは裏方であるはずの惣菜部や鮮魚、生肉部のスタッフでさえ、品出しのときに店に出たところで、まず深く一礼して、品出しの最中に客とぶつかると必ず90度に頭から上半身までを下げて一礼するでしょう。 だから、された客はきぶんがよくなって、つい、買わなくてもいいものまでカゴに入れてしまうんだ。 行動心理学上で定義された行為なんだよね」
 わたしがガッツポーズをする場面なんて絶対にないけど、覚えておいて損はない。
 人間、死ぬまで勉強ですよ。
 そうすると、脳年齢がいつまでも若くいられるからね。
 そういえば、船木医師は、いつも患者さんに対して90度礼をするんだよね。
 された患者さんはびっくりして、自分の病状を包み隠さずベラベラ詳しく喋ってしまう。
 彼女が病状を訊く前に、すべてを伝えるんだよね。
 患者さんが話し出すと、すっとしゃがんで患者さんと同じ目線になって言葉に出さずに頷いて、すべてを話しきってからおもむろに、こういう治療をすると患者さんに告げる。 今度は患者さんがだまって彼女の話を聴くから、治療の細かい部分まで知ることができて、治療を素直に受け入れる。
 彼女がいつ、どこで、どのようにして心理学上に定義されるようなことを知ったのかはわからないけど、彼女のことを陰でも悪く言う患者さんはいない。
 病棟でNo.1の好感度だと思うよ。
 わたしは、いつのまにかよけいな世間話になってしまうんだよね。 患者さんは笑いながら聴いて、自分も喋ってくれるんだけど、肝心なことを訊くのを忘れてしまったりすることが多くて、最後に、ところで、病状は? なんてね。
 彼は、まず自分の失敗談なんかを話して患者さんを笑わせたり、大ボケをかまして笑いをとって、患者さんの心を開かせて、すっと病気の話に入る。
 結構患者さんには聴くのがつらいような現時点の病状も平気で言うんだけど、患者さんはなぜか笑顔で聴き入れる。 それどころか自分のバックグラウンドまで話してしまう。 だから、彼は肺癌以外の患者さんの悩みまですべて治療という名目で、解決してしまう。 まあ、臨床心理士の立場もあるから当然かもしれないけど、船木医師は本当に不思議でつかみどころがない。
 でも、きのうからスタッフに対しても心を開き始めたから、これから、彼女のチームはものすごい成果を挙げると思うよ。
 彼女のチームの看護師に言わせると、回診の途中の廊下で、ファッションの話とか、J-POPの話や、どこどこのショップが冬物のファッションの半額セールを始めたから、何とか時間をやりくりして行きたいなんていうことを話してるとか。
 だとしたら、やっぱり、日本女性の奥ゆかしさを病棟の医師たちの前では見せているのかもしれない。
 単に綾波レイの初期型じゃあないってことか。
 夜食でも、食べる前に丁寧に無言の礼をして、話の輪に入ろうとしないで黙々と食べて食べ終えたらまた丁寧に礼をするだけ。
 ガンバも食べてるときは比較的おとなしい。 というか、がっつくタイプで食べないと損をする、みたいな感じに見えるし、チャラは一口食べるたびに「ナーイス!」ばっかり。 他においしいという意味の単語を知らないのかね。
 櫻井医師はとにかく良く喋る。 人なつっこいというのか、楽しいしゃべりを延々として、時々、そういえば、と鋭いことを訊くパターン。
 結構、知識の範囲が広いんだよね、彼女。 どういう育ち方をして、その知識を頭に刻んだのかはわからないけど、下世話な話から社会をばっさり切裂くようなことを言ってみたり。 痛烈に権力を批判するのね、言葉に出して。 その点では、彼と同じような思考パターンなのかもしれない。
 
 他のチームの看護師について、わたしがどうこう言うべきじゃないから言わないけど、わたしのチームの看護師は3人とも超個性的。
 紺野看護師と佐橋看護師が揃ってるんだからね。 本当に彼女たちってまるっきりR2ーD2とC3ーPOなんだよ。 身長だけじゃなくお互いの会話までそっくり。 それを新人の黒木看護師が笑いを必死でこらえながら聴いているというパターン。 紺野看護師と佐橋看護師は演芸会では毎度漫才をするんだけど、台本はないし、ネタあわせもリハーサルもやらないんだって。 それで、今の若手芸人なんか問題にならないほど面白い。 どっつきでもなくて、とにかくしゃべくり漫才で、若手でいうとナイツなのかな。 日本の庶民的伝統芸スタイル。 佐橋看護師のボケに、いいタイミングで紺野看護師が突っ込むんだけど、言葉でのみ。 どんなボケでも絶対にどっつかない。 M-1に出るような若手って、どっつきがほとんどだよね。 しゃべりで観客を引っ張るのは、サンドウィッチマンとナイツくらいで。 でも彼らに対する評価って低いでしょう。 毎年、ランクが下がっていくんだよね。 
 わたしが審査員なら、一押しするけど。
 
 アネさんは、どちらかといえば礼を嫌う人。 もちろん、最低限の礼は重んじるし、うるさいけど、病棟をひとつの家族として捕らえてるんだと思います。
 だから、家族の間での礼が最低限度の礼で、それ以上の礼は病棟運営の障害になると、大胆な改革をした。 以前は他の病棟みたいに、他人行儀で上下関係が激しくて、看護師は医師に何も言えない。 医師が間違った治療方法を取っているのをわかりながらも黙って従う。
 4F病棟は、医師が提案した治療法が明らかに患者さんに適さないとわかれば、看護師が医師に対して、それよりこんな治療法のほうが、あの患者さんには適してると、はっきり言うから。
 じゃあ、いつからアネさんの改革が始まったのかといえば、彼が来てから。
 病棟内披露宴で、感極まった彼が、それまでは医長と呼んでいたのに、「これからはアネさんと呼ばせてくれよ!」って挨拶で叫んでから。
 それで、アネさんのスイッチが入った。
 さっそくすべてのスタッフにニックネームをつけて、呼び合うようになったら、チームワークが高まったんだよ。
 
 それからは看護師も常に笑顔で出勤してくるようになった。
 仕事が面白くなったってみんなが言うんだよね。
 看護師は我先に階段を駆け上がってくる。
 ニコニコ笑いながらね。
 『踊る~』の湾岸署みたいに感じるんだって、この病棟が。
 
 それで、先ほど、準夜勤務につく佐橋看護師が出勤してきたんだけど、勢いよく階段を駆け上がってきてそのまま止まることができずに、スタッフステーションのドアに思いっきり激突して、廊下に倒れこんで大笑い。
 交代の紺野看護師があきれて、一言「おバカ」。
 「ドア・・・・・・閉まって・・・・・・悪い」って、廊下に倒れこんだまま笑いこけてる。
 「暖房を入れたらドアは閉める。 毎年決まってるでしょ。 何年看護師やってるの」と紺野看護師。
 「31才だから・・・・・・わからない・・・・・・それより起こして・・・・・・」
 「自分で起きなさい。 健康体なんだから」
 って調子で。
 出勤したらまず、彼を捕まえて、全豪オープンテニスの話。
 「あれは、全然面白くなくなったですよ。 オーストラリアンオープンって、グランドスラムに数えられる大会で唯一の生芝コートだったじゃないですか。 ハードコートにしてしまったために、イレギュラーバウンドがなくなったから。 バウンドしたボールがどこへ向きを変えるかわかんないのが楽しみだったのに、あれはないですよ。 来年は、佐橋が生芝を田植えしに行きますから。 そのために貯金してるし」
 コートって田んぼ?。
 オーストラリアまで芝を植えに行くの?。
 それは骨が折れるでしょう。
 「ええ、骨折してしまいまして、お恥ずかしいですが」なんて答えるだろうね、彼女なら。
 これ、わかる人いますか?
 1984年のロス・オリンピック柔道で金メダルを取った、山下さんが、帰国後、秋の園遊会に招待されて、当時の昭和天皇がお声をかけられたんです。
 「柔道はすごかったね。 あれは大変じゃないの。 骨が折れるでしょう?」
 緊張しまくりの山下さんは、骨が折れるという言葉の意味を取り違えて、骨折の話をしてしまったんです。
 それでも天皇陛下は、「あら、そうなの。 気をつけてくださいよ」ってお声をかけてくれたんですよ。
 で、その隣にいたのが黒柳徹子さん。 自伝小説がベストセラーになって、天皇陛下はそれを知っていて、盛んに「儲かったでしょう」とツッコミまくってました。 昭和天皇ってとにかくユーモアが並じゃないんですよ。
 
 まあ、4F病棟はきょうも面白おかしく生きてます。
 きょうは、街の事情通にはあえて何も訊きません。
 大島渚監督がお亡くなりになられて、落ち込んでるんですよ。
 監督はジャパン・ヌーベルバーグの旗手と言われて、娯楽であった映画を、権力を痛烈に批判する社会的な問題作をガンガン国に対して投げつけて、裁判沙汰まで起こして、権力と闘い続けた人で、彼はシンパシーを感じていて、いつか大島組に入ることが夢だったから。
 わたしは『戦場のメリークリスマス』と『マックス・モン・アムール』くらいしか知らないけど、ものすごく後味の悪い映画でしたよ。 特に『戦場~』はね。
 それを踏襲しているのが中島哲也監督の『告白』じゃないかと思いますね。
 世の中を思い切りえぐるような鋭い視点で、後味が悪いという批評がネットでも一時ものすごかったですけど、後味の悪いのが嫌いなら、その人は娯楽映画だけ観ればいいんだと思いますよ。
 でも、すべての報道が権力に擦り寄るようになった今、必要なのは、権力の欺瞞をとことん攻撃する姿勢なんだと、私は思います。
 事情通は、美しい日本について語る中で、権力批判をしてますから、それでいいでしょう。

 きょう、彼の夢がひとつ破れた。