降りましたよ~、一晩で20cmの雪が。
 昨年の12月28日に、公的な除雪が止まってから、毎日10cm程度の雪と猛吹雪でしたから、20cmといっても、積雪量は1m近いでしょうね。
 歩道に出ると、腰の上まで埋まります。 当然、足を動かせなくなるし、靴の中には大量の雪が入るし。 足を動かそうとして手を入れて足をつかんだが最後、四つんばいで雪の中にすっぽりと埋まって、人がいるのも見えなくなってしまうという、北海道の恐ろしさです。
 公共交通網はすべてストップ。 文字通り陸の孤島です。

 よく、ドラマ『北の国から』の影響で、今でも北海道に移住してくる方がいるんですが、この雪に恐れをなして逃げ帰りますからね。
 案の定、地上波のTVはどの局もまったく受信できない状態です。
 でも、正直に言わせてもらうと、TVガイドの番組表を見ても、ろくな番組がないですから、あんまり気にならないんですよ。 ただ、きょうはウィーン・オペラ座のニューイヤーオペラがあるので、観られないのがつらいなと思ってたんですが、彼の機転でフルタイム録画できました。
 パソコン用のワンセグチューナー。 中国製で、USBメモリー型ボディーにFMラジオの簡易ロッドアンテナがついたもの。 こんなの絶対無理だと思ってました。 外の巨大な魚の骨格みたいな固定アンテナでまったく映らないのに、おもちゃみたいなアンテナでどうなるってバカにしてました。
 でも、最終的にはこいつが一番まともでね。 昨年の暮れに、私室の蛍光灯を買いに行った家電量販店で千円で買ったんですけど、買った本人の彼が映ることとタイマー録画までできることにショックを受けていました。
 なんとか固定アンテナで60VTVに地上波を映そうと屋上に出ようとした彼を、アネさんが止めました。
 「この猛吹雪だと相当な風だろう。 危険だからダメだって。 医師のうち二人が頭を割ってるのに、これ以上怪我人を出せるか。 番組表では、AKBとおネェの痴話げんかと、DVDレンタル旧作の映画、それにくだらないクイズを3時間も延々とやってるような番組ばかりだから、そんなものに命をかける価値はない。 まともなのは箱根駅伝の復路くらいじゃないか。 この暴風じゃ頭が割れるだけですまないかもしれないから、屋上に出るな。 これは院長命令だ」
 確かに箱根駅伝はまともだと思います。 ドラマが毎年生まれますからね。 だけど、オペラ座のニューイヤーオペラもものすごくおもしろいですから。
 
 おせちに飽きたころを見計らって、きょうの昼食はカレーライスでした。
 市販の固形インスタントでも、3分間お湯で温めるレトルトでもない、彼が33種類のスパイスを巧みに混ぜ合わせてきのうから煮込んだルー。 おまけにスパイシーなものと、スパイス禁止のプロテスタントのためのマイルドなものの2種類も作ってしまいました。 CoCo壱番屋やファミレスでも、レトルト缶を温めて出す時代に、コンソメから手作りという、グルメの最終形態でした。
 やっぱり、一晩煮込んだおかげで、野菜の味がルーに流れ出していてものすごく充実した昼食でした。
 彼に院内食堂をすべてまかせたほうがいいんじゃないかと、スタッフからのリクエストがすごくてね。
 私も同じ意見だけど、医師としての腕がこの病棟から消えることになる。 安易に決められないよ、なんてアネさんも困ってました。
 本当に器用と言うか、突き詰めると言うか、生きすぎかもしれないグルメですね。
 ラーメンもスープは豚の拳骨(骨の関節部分になる拳型の部分)を豊富に使ったり、鶏がらに一夜干し開きアジを混ぜたり、何十種類もの果物と野菜をスープを取るためだけに使ったり、とにかく凝りまくる。 ここまでいくと異常かと思ったり。 ヲタクの領域ですね。
 口取りもおせちもほとんど市販品は使ってない。 伊達巻とかまぼこだけです。 あとは一番手のかかる黒豆ときんとんを豆を買ってきて、5時間かけて煮込んでました。ひんぱんに豆の状態を見ないと割れたり、皮が剥がれたりするので、スタッフステーションの待機室の台所と自分のデスクを行ったりきたり。
 できたものが、市販品みたいにいつまでも口の中に残るくどさがないんです。 必ず黒豆やきんとんを食べると後でジュースが無性に飲みたくなるんですが、それがない。
 くどさの原因は、市販品は水飴で甘味をつけるのに、彼は一貫してグラニュー糖のみ。 
 去年のおせちを食べた看護師長が、そのくどくない黒豆に驚いて、彼に作り方を訊いたら、巨匠は企業秘密と答えて教えないものですが、彼は素直に教えました。 ほんとにあっさりと教えました。 しかも、高校のとき、食品加工工場にバイトに行って、CoCoのカレーと、JAブランドの煮豆を作っていて、工場長がいろいろ自分で煮豆の甘味に使う甘味料をあれこれ試して、グラニュー糖に行き着いたのをそばで見ていてやってみたことまでぺらぺらと。 煮崩れしてないのに、適度にやわらかく仕上がっていて食べやすいし、どこのスーパーにもない黒豆ときんとんでした。 去年も今年も実家に届けたんですが、妹の話によると9割は変なおじさんが食べたとか。 オレンジジュースを飲みながら黒豆と金団だけを食べていたらしいですけどね。 グラニュー糖ですから使用量は少なくて甘味が出るから、糖尿の方でも食べられます。
 
 ちょっとおせちやお餅に飽きたかなってときにカレーが出てくるという、絶妙のタイミングもプロの勘。
 きょうは猛吹雪にもかかわらず、北海道で大人気カレー&ぎょうざ店が2時間待ちの大繁盛で、妹はカレーが無性に食べたくて、車を飛ばしていって、結局は食べられなくて病棟に来てみたら、タイミングよく義理の兄が手の込んだカレーでもてなしてくれたと大喜び。 妹の行ったお店は札幌に大きな工場を持っていて、そこでレトルトにしたルーを全道のフランチャイズに配布して、店ではレトルト缶を温めて出すだけですから、彼のカレーのほうが上。
 大きな釜のお湯にレトルト缶を漬けて、時間がきたらブザーが知らせて、カウンターの中の店員さんがお湯からあげて缶を開けて出す。 一度に何百の缶を温めるため、タイミングが悪いと、缶を開けて電子レンジでチンしたルーが出されます。 ぎょうざはレトルトをホットプレートに数十個並べて、電気で焼き目をつけて、時間がきたら、これもブザーが鳴る。 タイミングが悪いと一度焼いたものを電子レンジでチンして出す商売です。 彼の場合は、具を皮で来るんだ状態にしておいて、食べるときに必要な分だけをその都度焼くんです。 ぎょうざって焼いてる途中で蒸すための水を差すでしょう。 下手な人はそこで油はねで火傷するんですが、彼はタイミングよく水を差して、さっとふたを閉めるために、火傷もしない。 また絶妙のタイミングで火を止めると、差した水がきれいに消えていて、なおかつフライパンにこびりつかないんです。

 料理は本当にマニアックです。
 彼が厚労省の指針に全く従わないのは、医師免許を剥奪されたら、シェフとして喜んで迎え入れる一流ホテルが数軒あるだろうということと、具体的にパティシェとして勤務して欲しいと真面目に条件を突きつけている洋菓子店やレストランがあるからじゃないかと思います。
 お母さんは、料理は一切できない人だったと言うんです。 
 スーパーのお惣菜で部長をしていたのに、というと、お惣菜は全部下請けの工場でレトルト状態にされて、温めて出すだけだから、料理とは言わない、と。
 料理は家でも彼が全部作っていたんです。 だから、お母さんが亡くなっても食には困らなかった。 ただ、生活保護費が極端に少ないから、1ヶ月まるまる断食状態だっただけ。
 当時の生活保護費の伝票(毎月、支給額が明記された書状だ送られてくるんです)を見てアネさんが計算したところ、公共料金の基本料を支払うと、食費や服飾費は一切残らない。
 各自治体によって自給額が違うんですよ、何度も言いますが。
 それと、受給者が多いと少なくなるんです。
 どうしてかというと、あらかじめ生活保護費の予算はいくらと決まっているから、それを百人で分けるのと五百人で分けるのとでは額が違って当たり前。 それで、理由のない申請却下が起きるんですね。 働ける状態の健康体なのに、保護を受給して、すべてをパチンコとアルコールに散在する受給者を徹底的にあぶりだせば、本当に必要な人に潤沢な保護費を与えることができるのに、打ち切ったら、出刃包丁を片手に保護課に乗り込んできて暴れたり、訪問したケースワーカーさんにちらつかせて脅す、あるいは暴力団の力を借りたり、市議会議員の力を借りて脅す。 それが怖いから処分できないということで、真面目な受給者にしわ寄せが来るんですよ。
 そういう経験があるから、なおさら料理に関して厳しいんじゃないかと思いますよ。

 難しい選択です。 院内食堂は何とかしたい。 なにせ、大きな病院にはタリーズコーヒーやマクドナルドがある。 院内食堂も一流ホテルのレストランが入っている。 だけど、この病院は昔ながらの院内食堂。 安いのはありがたいけど、それだけの味でしかない。 彼が仕切れば他の病院には負けないだろうけど、医師としての腕が消えるのも病院にとっては命取りになる。
 永遠に解けないでしょうね。
 
 きょうから外来が再開します。
 でも病棟は来週7日から開業。
 それでいいんです。
 だって、厚労省も市役所も、例年は4日から仕事始めなのに、今年は6日まで連続して正月休暇なんですから。
 国立病院だから国に従うのが正しいですから。
 投薬やオペに関しては従えないですから、せめてそれくらいはね。
 それまでは、病棟専属シェフ&パティシェですよ、ドクターXは。