彼にとって今年最後のステージが終わった。
 ディナーショーについては23日と同じ内容だから、あえて書かない。
 きょうは午後にとうとう、病棟のクリスマス演芸会に出演した。
 美空ひばりさんとコラボする、裕次郎さんとコラボする、なんて大きなことを言っていた彼は、成功させるのだろうか?。

 彼の持ち時間になった。
 ステージに置かれたピアノの前に座る彼。
 「お嬢、お嬢、ぼくとコラボしてくれませんか!」
 彼は叫んだ。
 すると、バックスクリーンを星が流れる。
 星が最高に大きくなって、人影が中から現れる。
 星の光が消えると、美空さんが現れた。
 「いいわよ。 きょうはジャズを歌いたい気分だったの。「A列車で行こう」なんかどう?」
 彼は頷いて、カウントをとってから、ピアノでイントロを弾きだした。
 おもむろにスクリーンのひばりさんが歌いだす。
 驚いたことに、間奏で、彼はアドリブまで決めてしまった。
 ひばりさんが歌い終えると、言う。
 「きょうはどうもありがとう。 また、いつかね」
 ひばりさんを星が包み、再び空へと帰っていった。
 「裕さん、ぼくとコラボしてくれないかい?」
 スクリーンの端をまたいで、いきなり、サングラス姿の石原裕次郎さんが現れた。
 「なんだ?。 おう、おまえテナーも吹けたっけ。 じゃあ、一発決めますか。 テナーといえば、夜霧だな。 テナーは持ってきたか、ダチ公」
 「持ってきたよ。今、ちょっと息を入れてみるね」
 彼はテナーを鳴らしてみる。
 かすれた、「ズーッ」って感じの音。
 サブトーン奏法だ。
 テナーの奏法とされているが、彼はアルトでもソプラノでも同じようにやってしまう。
 「裕さん、準備は万端。 いきますか」
 イントロが鳴り出すと、彼は軽く絡んでいった。
 裕次郎さんの甘い歌声の合間に、彼が絶妙に絡む。
 歌い終えた裕次郎さんは言った。
 「いい気分ですな。 また、やりましょうや、ダチ公さんよ。よいしょっと。 私も歳ですかなー」
 そう言い残して、スクリーンをまたいで消える。
 「またね、裕さん」
 彼が言葉をかけると、手だけがスクリーンに現れ、さよならをして引っ込んだ。

 会場の患者さんたちはもう、びっくり。
 だよねー。 亡くなった方たちが現れるんだよ。
 スクリーンの2Dじゃなくて、3Dになって、本当にステージにいるかのような感じに見える。
 ホログラフの一種なんだけど、そんな仕掛けは患者さんにとっては理解できないレベルだから。
 わたしも、スクリーンにひばりさんや裕次郎さんが映るとしか聞いてなかったから、頭が混乱した。
 ステージ上に大仕掛けがあるわけじゃない。
 ピアノの上に、彼お得意のナノマシンがいくつか仕掛けられていて、そこから3D映像を投影していたのだ。
 それをバックスクリーンの映像とシンクロさせる。
 自分でソフトをプログラミングして、ひばりプロと石原プロから借りた秘蔵映像を加工した。
 そして、音は自分のパートだけを映像の音から消す方法をとった。
 最高のクリスマス・プレゼントだったようで、患者さんの中にはひばりさんを拝んでいる人までいたくらいだった。

 スペシャル・ゲストが出演してくれた。
 マツダ自動車の営業所長さんの所属するエレキ・バンドだ。
 彼が休みの日に一緒に楽器店まで行き、ギターを選んで買った、彼が担当医を務める肺がん患者さん。 オペで腫瘍は摘出され、今は検査にだけ通ってきている。
 楽器店で部下とばったりと出会い、部下がエレキ・バンドをやっていてギタリストを探していたことを聴いて、その場で加入した。
 やっぱり、昔取った杵柄だね。
 ベンチャーズから始まってシャドウズなどのエレキ・インストを続けたあと、スプートニクスの「霧のカレリア」で閉める。
 「霧のカレリア」は曲の中にフィンランド民謡「トロイカ」が挿入されている。
 テケテケ・ギターが効いていて、プロみたいだ。
 ギターの基礎的奏法を知らないで、ただがならせて、「どうだ、俺のギタープレイって最高だろ」みたいな顔をする今時のギター弾きを自認する奴らに言いたい。
 いいギターの先生を紹介してあげるよ
 
 所長の演奏中に、彼がふらふらとステージにあがり、1曲終わったところで、リクエストをした。
 「あのー、「君といつまでも」なんかできますか? ぼくのヴォーカルでお願いできればと思って・・・・・・」
 バカ、いきなりなんなの。 そういうのって事前に打ち合わせがあってできることでしょ。
 あーあ、イントロが始まったよ。
 彼は歌ってしまった。
 「君といつまでも」といえば、間奏のセリフ「幸せだなー・・・・・・」。
 それが、どういうことか、ぶち壊すようなセリフに変えてしまった。
 「師走だなー。 ぼくは12月の今頃が一番師走なんだ。 ぼくは死ぬまで師走だぞ、いいだろ」
 以前、俳優の竹中直人さんと、スネークマンショーからのデュオという肩書きで、同じセリスの入った「君といつまでも」のCDをメジャー発売していると、櫻井医師は言って笑いこけていた。
 無意味だよねー
 「その無意味さが、スラップスティックなギャグの王道なんですよ。 政治コントの「ザ・ニューズペーパー」とコンセプトは同じです。 ものすごいことを言ってるように聞こえて実は自分勝手で無意味なことで。 でも、観ているほうはつい笑ってしまう。 スネークマンの笑いって芸人さんたちのようなドッとくる笑いじゃなくて、1人でニャッと笑うタイプの笑いなんです。 わかっている人にはわかるっていう。 一見、おもしろくなさそうで、ずっとあとになってじんわりと効いてくるんですよね」
 わたしには理解できない・・・・・・。

 こうして1年のステージを締めくくって、明日は前代未聞のオペだ。
 「最近の一戸建てって、ものすごく建つのが早いよね。 基礎ができたら、2週間以内に入居できてしまう。 だから、オペも患者さんの体力をできるだけ温存するように、ぼくのチームは打ち合わせとシュミレーションを繰り返したから大丈夫だよ」
 そして、例のセリフを口にした。
 「ぼく、失敗したことがないから。 絶対失敗しないから」
 ドクターX、頼んだよ。
 こっちも負けずにどんどん全身の腫瘍を摘出していくからね。
 ハーバード対セント・ジョンズ・ホプキンス。
 世界で初のオペ対決、立派に勝つからね。
 医大難易度レベル全米第1位がどうした。 第2位のセント・ジョンズ・ホプキンスとの差は髪の毛一本だよ。

 ディナーショーの帰り道。 降りしきる雪を見つめながらハンドルを握っていた彼が唐突に、身も凍るような話を始めた。
 彼がFBIの行動科学課にいて、未解決事件や連続殺人機、爆弾魔と対決している時に出会った不可思議な出来事。
 彼はその裏側に価格を弄ぶ犯罪者の影を感じて、事件に膜を引いた。
 マイナス24℃の中でする話じゃないので、明日以降の記事にしようと思う。
 
 さあ、オペまであと数時間。
 ゆっくりと眠ろう。