きょうも雨。
しとしとだから、止まずに振り続ける。
彼という気象予報士は、天気図とにらみ合い、一言言った。
「このまま、雪になるかもしれない」
雪か・・・・・・。
わたしたちの「夏休み」は雪の中だってことか。
11月下旬だから、それはありか。 ありだね。
雪の積もった「夏休み」って、とても貴重な経験だね。
楽しもう。
「ねえ、国に逆らう勇気はある?」
彼に訊かれた。
元・担任のオペでしょ?
「ああ」
国に逆らう勇気は、ある
前立ちOK
「一応、お父さんに許可を取ってから、正式に頼むよ」
あの変なおじさんなら関係ないって
「大事な娘だよ」
「もしもし」
カウンターから声が聴こえた。
どこかで聴いたことのある声。
あー。
何をしに来たんだよ隣の建物まで。
あんたの縄張りはA棟でしょうが。
話をすると現れるんだから。
札幌みよしのへ行ってジャンボカレーと大盛り餃子を食べようってことならだめだよ、仕事中だから。
「折行って話があるんだ、私の息子に」
「面会棟でも問題はないですか?」
彼は訊いた。
わたしも一応、彼の主治医として目を離せない立場だから同伴した。
「週明けの日曜にでも、今年最後のバーベキューをしないか、ウチの庭で?」
そんなことで仕事中に呼び出すな!。
それに、この雨が雪に変わるんだったら、庭でバーベキューなんかしたら、死ぬよ。 凍死する。
わたしは死にたくない。
「晴れたら、ですが、いいですね」
「きみの天気予報はどうだ?」
「残念ながら、というところなんですが、 急に変わる場合もありますからね」
「天気と女性の心は変わるからね。 ところで、話はバーベキューじゃないんだ」
「ぼくがカウンセリングを担当している看護師さんですね」
「ああ。 何も言わなくともわかるのか」
それが臨床心理士のお仕事だって。
「それで、どんな」
「日に日に健康を取り戻していくのが、目で見てわかるんだ。 本当に薬物は使ってないのか?」
「ええ、あのケースは、薬物を使うとよけい悪化する可能性もありますから。 看護師さんですから、仕事中に薬の副作用が出てもまずいですしね」
「信じられん。 あれが臨床心理学なのか。 私にはどう見ても魔法にしか見えんよ。 今のままの付き合い方で構わないのかね?」
「ごく普通に付き合ってください。 ただひとつ、ミスを叱ることだけはしないでください。 さりげなく他の看護師がカバーするような感じで。 自分が悪い、という意識を持つと、暗示が解けてしまいます。 そうなると、またゼロからやり直しになりますので」
「暗示・・・・・・暗示をかけていたのか。 催眠は脳科学の分野では否定されているけどな」
「臨床心理学でも同じです。 一般に催眠というと、テレビでよくやってる、タレントを並べて、あなたは犬になるとか、猿になるとかってやつですよね。 あれは完全なヤラセです。 催眠になんてかかってない。ただ台本を演じているだけです。 臨床心理学で言う催眠暗示というのは、本能の上に成り立つものであって、例えば、犯罪を犯すように暗示をかけてもかかりません。 それは人間の本能の中に、犯罪を犯してはいけない、という意識があるからです。 でも、犯罪は日夜起きています。 容疑者たちは本能が混濁してるんでしょう。 あるいは前頭葉除去状態。 新興宗教でよくあるパターンですけど。 そこまで極端にいかなくても、極度の疲労状態、例えば、人間は72時間以上睡眠を取らないと、脳の活動が停止しますよね」
「ああ。 医師の限界活動時間だ」
アンビリカル・ケーブルがない場合ですか?。
ある場合ですか?
どっちにしろ、そんなには持たないか。
「その時間を超えた時に、犯罪の命令、あるいは新興宗教の違法な額の寄進を迫るなどをした場合、素直に受け入れます」
「そうだ。 新興宗教というのは、入信、あるいは莫大な額の寄付を迫るときには、一週間睡眠を取らさずに交渉を続けるんだ。 交渉役は悩みを聞く係だの、正当性を訴える係だの、短時間で入れ替わり立ち代りを行うが、迫られる側はあくまでひとりだ。 なるほど、それで傍目にはあきらかにおかしなことでも信じてしまうのか。 狡猾なやり口だな」
「臨床心理学の催眠暗示はそれとは全く違います。 ですから、本人が嫌がることに対しては効果を発揮しません」
「いや、優秀な看護師なんだよ、彼女は。 随分とオペのスタッフも経験してるんだ。 それで、10月31日の私のオペに前立ちをさせたいんだ。 まだ、無理だろうか」
「問題はありませんよ。 病棟の評判ではミスを犯さない、まるでロボットみたいな看護師だとか言われているようですから、いくらしばらくぶりのオペとは言え、脳に刷り込まれているはずです」
「ちょっと複雑なオペでな、彼女の手を借りたいんだ。 よかった」
「ぼくからも一言、いいですか?」
「なんだね」
「娘さんをぼくのオペの前立ちに借りたいんです。とにかく内視カメラの腕が病院一なものですから」
「こいつでもそんな特技があるの?」
あって悪いか。
「どうぞ。 足でまといになったら放り出せばいい」
「そういうことじゃなくて、ぼくがやろうとしているオペは、というよりこの病棟のオペは、国が認めないオペです。 また厚労省が乗り込んでくる可能性もある。 娘さんの医師免許も同時に剥奪という可能性も」
「なんだ、そんなことか。 おもしろいことを教えようか。 医師会でよく笑うんだが、国の言うことをよく聞く医師はとんでもないヤブ医者だ。 国に逆らう医師ほどいい腕を持った医者だ。 患者さんになるなら、国に逆らう医師をを選べ、とな。 厚労省が乗り込んできたら、呼んでくれ。 またにらみ合いができる。 ウチでは睨まれるばかりでな・・・・・・つらいんだよ」
非があるから睨まれるんだよ。
あんたが悪い!。
しかし、薬物療法なしに統合失調症を治すとは、臨床心理士も医師の敵だね。
トマトと同じだ。
違うか・・・・・・トマトは食べると美味しいけど、臨床心理士は食べられない。
食べてるだろう、って?。
それは意味が違う!。
しとしとだから、止まずに振り続ける。
彼という気象予報士は、天気図とにらみ合い、一言言った。
「このまま、雪になるかもしれない」
雪か・・・・・・。
わたしたちの「夏休み」は雪の中だってことか。
11月下旬だから、それはありか。 ありだね。
雪の積もった「夏休み」って、とても貴重な経験だね。
楽しもう。
「ねえ、国に逆らう勇気はある?」
彼に訊かれた。
元・担任のオペでしょ?
「ああ」
国に逆らう勇気は、ある
前立ちOK
「一応、お父さんに許可を取ってから、正式に頼むよ」
あの変なおじさんなら関係ないって
「大事な娘だよ」
「もしもし」
カウンターから声が聴こえた。
どこかで聴いたことのある声。
あー。
何をしに来たんだよ隣の建物まで。
あんたの縄張りはA棟でしょうが。
話をすると現れるんだから。
札幌みよしのへ行ってジャンボカレーと大盛り餃子を食べようってことならだめだよ、仕事中だから。
「折行って話があるんだ、私の息子に」
「面会棟でも問題はないですか?」
彼は訊いた。
わたしも一応、彼の主治医として目を離せない立場だから同伴した。
「週明けの日曜にでも、今年最後のバーベキューをしないか、ウチの庭で?」
そんなことで仕事中に呼び出すな!。
それに、この雨が雪に変わるんだったら、庭でバーベキューなんかしたら、死ぬよ。 凍死する。
わたしは死にたくない。
「晴れたら、ですが、いいですね」
「きみの天気予報はどうだ?」
「残念ながら、というところなんですが、 急に変わる場合もありますからね」
「天気と女性の心は変わるからね。 ところで、話はバーベキューじゃないんだ」
「ぼくがカウンセリングを担当している看護師さんですね」
「ああ。 何も言わなくともわかるのか」
それが臨床心理士のお仕事だって。
「それで、どんな」
「日に日に健康を取り戻していくのが、目で見てわかるんだ。 本当に薬物は使ってないのか?」
「ええ、あのケースは、薬物を使うとよけい悪化する可能性もありますから。 看護師さんですから、仕事中に薬の副作用が出てもまずいですしね」
「信じられん。 あれが臨床心理学なのか。 私にはどう見ても魔法にしか見えんよ。 今のままの付き合い方で構わないのかね?」
「ごく普通に付き合ってください。 ただひとつ、ミスを叱ることだけはしないでください。 さりげなく他の看護師がカバーするような感じで。 自分が悪い、という意識を持つと、暗示が解けてしまいます。 そうなると、またゼロからやり直しになりますので」
「暗示・・・・・・暗示をかけていたのか。 催眠は脳科学の分野では否定されているけどな」
「臨床心理学でも同じです。 一般に催眠というと、テレビでよくやってる、タレントを並べて、あなたは犬になるとか、猿になるとかってやつですよね。 あれは完全なヤラセです。 催眠になんてかかってない。ただ台本を演じているだけです。 臨床心理学で言う催眠暗示というのは、本能の上に成り立つものであって、例えば、犯罪を犯すように暗示をかけてもかかりません。 それは人間の本能の中に、犯罪を犯してはいけない、という意識があるからです。 でも、犯罪は日夜起きています。 容疑者たちは本能が混濁してるんでしょう。 あるいは前頭葉除去状態。 新興宗教でよくあるパターンですけど。 そこまで極端にいかなくても、極度の疲労状態、例えば、人間は72時間以上睡眠を取らないと、脳の活動が停止しますよね」
「ああ。 医師の限界活動時間だ」
アンビリカル・ケーブルがない場合ですか?。
ある場合ですか?
どっちにしろ、そんなには持たないか。
「その時間を超えた時に、犯罪の命令、あるいは新興宗教の違法な額の寄進を迫るなどをした場合、素直に受け入れます」
「そうだ。 新興宗教というのは、入信、あるいは莫大な額の寄付を迫るときには、一週間睡眠を取らさずに交渉を続けるんだ。 交渉役は悩みを聞く係だの、正当性を訴える係だの、短時間で入れ替わり立ち代りを行うが、迫られる側はあくまでひとりだ。 なるほど、それで傍目にはあきらかにおかしなことでも信じてしまうのか。 狡猾なやり口だな」
「臨床心理学の催眠暗示はそれとは全く違います。 ですから、本人が嫌がることに対しては効果を発揮しません」
「いや、優秀な看護師なんだよ、彼女は。 随分とオペのスタッフも経験してるんだ。 それで、10月31日の私のオペに前立ちをさせたいんだ。 まだ、無理だろうか」
「問題はありませんよ。 病棟の評判ではミスを犯さない、まるでロボットみたいな看護師だとか言われているようですから、いくらしばらくぶりのオペとは言え、脳に刷り込まれているはずです」
「ちょっと複雑なオペでな、彼女の手を借りたいんだ。 よかった」
「ぼくからも一言、いいですか?」
「なんだね」
「娘さんをぼくのオペの前立ちに借りたいんです。とにかく内視カメラの腕が病院一なものですから」
「こいつでもそんな特技があるの?」
あって悪いか。
「どうぞ。 足でまといになったら放り出せばいい」
「そういうことじゃなくて、ぼくがやろうとしているオペは、というよりこの病棟のオペは、国が認めないオペです。 また厚労省が乗り込んでくる可能性もある。 娘さんの医師免許も同時に剥奪という可能性も」
「なんだ、そんなことか。 おもしろいことを教えようか。 医師会でよく笑うんだが、国の言うことをよく聞く医師はとんでもないヤブ医者だ。 国に逆らう医師ほどいい腕を持った医者だ。 患者さんになるなら、国に逆らう医師をを選べ、とな。 厚労省が乗り込んできたら、呼んでくれ。 またにらみ合いができる。 ウチでは睨まれるばかりでな・・・・・・つらいんだよ」
非があるから睨まれるんだよ。
あんたが悪い!。
しかし、薬物療法なしに統合失調症を治すとは、臨床心理士も医師の敵だね。
トマトと同じだ。
違うか・・・・・・トマトは食べると美味しいけど、臨床心理士は食べられない。
食べてるだろう、って?。
それは意味が違う!。