いやあー、病棟勤務してると、本当におもしろいことがたくさんあるんだよねー。
中でも、一番おもしろいのは、一時退院。
きょうも病棟のスタッフみんなで世間話をしてる時に、その話題が出て、ゲラゲラ大笑いして。
なにがおもしろいって、これは絶対に外来では経験できないこと。
14日の夕方に、病棟の患者さんは全員、お盆のための一時退院で、自宅へ戻ってお盆を過ごして、きょうの夜病棟へ戻ってきた。
そして、明日金曜日の夕方には、また一時退院で、日曜の夜まで戻ってこない。
だったら、先週の金曜日から19日の日曜日まで、ずっと一時退院を続けたら、患者さんも落ち着くし、わたしたちスタッフも大騒動しなくていいのに。
普通の人間だったら、そう思うでしょう。
患者さん、病棟へ戻ってきて、ベッドでゆっくりとしながら、同じ病室の患者さんと世間話をして笑って、話が乗ってきた時に、はいっ、一時退院の届出願用紙を書いてくださいよ、って、担当看護師が回ってきて、夕方には自宅へ帰る。
一時退院が明けて、また病棟に戻ってきて、病室で同室の患者さんとゲラゲラやってると、また看護師が一時退院届出願を持ってくる。
おかしな話だよねえ。
2泊3日というのは、病院とか病棟とかで決めてるんじゃないんだって。
事務長の話だと、厚生労働省が決めた規則なんだって。
現在の癌医療というのは、病室という限定された空間の中ではなくて、なるべく、一般の社会の中で暮らす時間を重んじることが主流で、できる限り患者さんを外の世界に出してあげなければならないんだとか。 だから、抗癌剤や放射線治療も、体力が有り余ってる患者さんとか、比較的、病院から近い距離に住んでいたり、公共交通が整備されていれば、通院で治療を行うのが望ましい、というのが厚労省の見解なんだって。
でも、一時退院から戻りました、って、届出用紙をスタッフステーションに提出して、担当医の診察を受けたら、病室の中で、一時退院中にこんなことがあってさ、なんて話していたな、と思ったら、自宅へ戻るから診察です。 患者さん、落ち着く暇もないよね。
それを言われるんだよねー、診察の時に。
「何回診察しても、たいした代わり映えしないだろう。 だからさ、2泊3日じゃなくて、このお盆の場合は、べったり続けて一時退院ってことにしてくれないか。 全然、落ち着かないんだよな。 医長に伝えてくれよ。 なんだったら、直接医長に話してもいいよ」
患者さんたちは、厚労省の規則のために、それができないんだと知らないからね。
もう、後でアネさんに怒鳴られてもいいかなと思って、きょうは患者さんにすべてを話した。
「なるほどねー。 言われてみれば確かに、自宅に戻って新鮮な気持ちになって、ちょっと退屈してきたら病棟へ戻って、赤の他人と笑い話をしたくなるわ。 それに、癌患者でも普通の生活をしたいって思うしね。 たまには厚労省もまともなことを考えるわね」
実は、草案を作成して厚労省にこういう癌治療のスタイルにしてほしい、と言ったのは医師会なんだよね。
伝染するウィルス性の病気じゃない癌を、まるで世間から隔離するようなかたちで治療するのは、患者さんのQOL(クオリティー・オブ・ライフ:生活の質)を侵害するようなものだ、ってデモまでやって、厚労省の重たい腰を挙げさせた。
坂口厚生労働大臣って、髪の毛を独特の事業仕分けをしていた大臣の時に、癌治療に対するあらゆる面が改正されて、自民党だったか民主党だったか忘れたけど、山本さんという衆議院議員さんが、自分が癌になって実際に癌治療の最前線で治療した時に、改善点をひとつひとつ挙げて、癌対策基本法草案を国会に提出して、審議中に亡くなられて、与野党を超えて、山本議員のために、癌対策基本法を全会一致で成立させて、日本の癌治療は、新たなスタートラインに立った。
医師も、患者さんの気持ちを、とことん話し合ってお互いの理解の上で治療を行うようになったし、使う抗癌剤について、細部に渡るまで、例えば副作用についてこのようなものが出る可能性があるために、まず、予防的処置として、抗癌剤を投与する前に、30分間から、副作用の種類によっては1時間、副作用を止めるための点滴を投与しますよ。 この抗癌剤でいいですか? 他にもこういう抗癌剤があって、それも使えますが、医師として、これがいいかなと思って選びましたが、他のものがよければ、そうしますけど、って、患者さんに選択権を委ねるようになったり、とにかく癌治療に対する周辺がガラリと変わった。 それ以前は、患者さんをベッドに縛り付けて、抗癌剤がどういうもので、どんな副作用が出る可能性があってなんて説明は一切しなかったし、抗癌剤の選択権は医師にあって、患者さんは意思表示ができなかった。 だから副作用に苦しんでかわいそうなくらいだったよ。 でも、それが国の指針(こうしなさいということ)だったから、逆らえなかった。 逆らうと病院を潰すんだよね、国が。 それだけの権力を持っていた。
今はものすごく柔軟になって、医師もやりやすくなったけどね。
この病棟では、以前の体制のときに密かに、今の治療方法を確立していたんだよね。
ツレのお母さん。
とにかく、何をするにもとことん、今のツレと話し合って、お互いの意見をぶつけ合って、治療や検査を決めていった。
当時は、彼はものすごく癌医療に明るいし、医師しか知らないような知識もたくさん持っているし、癌の家庭医学書をいろいろ読んでるんだろうな、と思ってたんだよね。 病室に行くと、「催眠」「千里眼」、「シャーロック・ホームズ全集」「さよならジュピター」「首都消失」「2001年宇宙の旅」「2010年宇宙の旅」「2030年宇宙の旅」「犬神家の一族」「八つ墓村」「黒蜥蜴」「D坂の殺人事件」なんていうエンターティメントやSFの文庫ばかりで、「家庭の医学」みたいな医学書らしきものがない。 どうやってあれだけの知識を得たのか不思議だったけど、あの、指輪が自分の方を向いて飛び上がったというプロポーズの時になって、アネさんと前院長と事務長が、保険外治療をタダにするから、この病棟に勤務して欲しい。 ハーバード医科大学の総合診療科の腕がどうしても必要なんだ、って。 給与は他の医師のにいくらでも色をつけますよ、なんて事務長が言って、やっとわかった。 逆算すると、当時はハーバードの医学生だったって。 だから医学知識があって当たり前なんだよね。
とにかく癌病棟勤務って、面白いことが多いよ。
一番おもしろいのは、ツレのボケ。
ローワン・アトキンソンと共演させてみたいね。
これ以上ないようなコメディーができるんじゃないかな
中でも、一番おもしろいのは、一時退院。
きょうも病棟のスタッフみんなで世間話をしてる時に、その話題が出て、ゲラゲラ大笑いして。
なにがおもしろいって、これは絶対に外来では経験できないこと。
14日の夕方に、病棟の患者さんは全員、お盆のための一時退院で、自宅へ戻ってお盆を過ごして、きょうの夜病棟へ戻ってきた。
そして、明日金曜日の夕方には、また一時退院で、日曜の夜まで戻ってこない。
だったら、先週の金曜日から19日の日曜日まで、ずっと一時退院を続けたら、患者さんも落ち着くし、わたしたちスタッフも大騒動しなくていいのに。
普通の人間だったら、そう思うでしょう。
患者さん、病棟へ戻ってきて、ベッドでゆっくりとしながら、同じ病室の患者さんと世間話をして笑って、話が乗ってきた時に、はいっ、一時退院の届出願用紙を書いてくださいよ、って、担当看護師が回ってきて、夕方には自宅へ帰る。
一時退院が明けて、また病棟に戻ってきて、病室で同室の患者さんとゲラゲラやってると、また看護師が一時退院届出願を持ってくる。
おかしな話だよねえ。
2泊3日というのは、病院とか病棟とかで決めてるんじゃないんだって。
事務長の話だと、厚生労働省が決めた規則なんだって。
現在の癌医療というのは、病室という限定された空間の中ではなくて、なるべく、一般の社会の中で暮らす時間を重んじることが主流で、できる限り患者さんを外の世界に出してあげなければならないんだとか。 だから、抗癌剤や放射線治療も、体力が有り余ってる患者さんとか、比較的、病院から近い距離に住んでいたり、公共交通が整備されていれば、通院で治療を行うのが望ましい、というのが厚労省の見解なんだって。
でも、一時退院から戻りました、って、届出用紙をスタッフステーションに提出して、担当医の診察を受けたら、病室の中で、一時退院中にこんなことがあってさ、なんて話していたな、と思ったら、自宅へ戻るから診察です。 患者さん、落ち着く暇もないよね。
それを言われるんだよねー、診察の時に。
「何回診察しても、たいした代わり映えしないだろう。 だからさ、2泊3日じゃなくて、このお盆の場合は、べったり続けて一時退院ってことにしてくれないか。 全然、落ち着かないんだよな。 医長に伝えてくれよ。 なんだったら、直接医長に話してもいいよ」
患者さんたちは、厚労省の規則のために、それができないんだと知らないからね。
もう、後でアネさんに怒鳴られてもいいかなと思って、きょうは患者さんにすべてを話した。
「なるほどねー。 言われてみれば確かに、自宅に戻って新鮮な気持ちになって、ちょっと退屈してきたら病棟へ戻って、赤の他人と笑い話をしたくなるわ。 それに、癌患者でも普通の生活をしたいって思うしね。 たまには厚労省もまともなことを考えるわね」
実は、草案を作成して厚労省にこういう癌治療のスタイルにしてほしい、と言ったのは医師会なんだよね。
伝染するウィルス性の病気じゃない癌を、まるで世間から隔離するようなかたちで治療するのは、患者さんのQOL(クオリティー・オブ・ライフ:生活の質)を侵害するようなものだ、ってデモまでやって、厚労省の重たい腰を挙げさせた。
坂口厚生労働大臣って、髪の毛を独特の事業仕分けをしていた大臣の時に、癌治療に対するあらゆる面が改正されて、自民党だったか民主党だったか忘れたけど、山本さんという衆議院議員さんが、自分が癌になって実際に癌治療の最前線で治療した時に、改善点をひとつひとつ挙げて、癌対策基本法草案を国会に提出して、審議中に亡くなられて、与野党を超えて、山本議員のために、癌対策基本法を全会一致で成立させて、日本の癌治療は、新たなスタートラインに立った。
医師も、患者さんの気持ちを、とことん話し合ってお互いの理解の上で治療を行うようになったし、使う抗癌剤について、細部に渡るまで、例えば副作用についてこのようなものが出る可能性があるために、まず、予防的処置として、抗癌剤を投与する前に、30分間から、副作用の種類によっては1時間、副作用を止めるための点滴を投与しますよ。 この抗癌剤でいいですか? 他にもこういう抗癌剤があって、それも使えますが、医師として、これがいいかなと思って選びましたが、他のものがよければ、そうしますけど、って、患者さんに選択権を委ねるようになったり、とにかく癌治療に対する周辺がガラリと変わった。 それ以前は、患者さんをベッドに縛り付けて、抗癌剤がどういうもので、どんな副作用が出る可能性があってなんて説明は一切しなかったし、抗癌剤の選択権は医師にあって、患者さんは意思表示ができなかった。 だから副作用に苦しんでかわいそうなくらいだったよ。 でも、それが国の指針(こうしなさいということ)だったから、逆らえなかった。 逆らうと病院を潰すんだよね、国が。 それだけの権力を持っていた。
今はものすごく柔軟になって、医師もやりやすくなったけどね。
この病棟では、以前の体制のときに密かに、今の治療方法を確立していたんだよね。
ツレのお母さん。
とにかく、何をするにもとことん、今のツレと話し合って、お互いの意見をぶつけ合って、治療や検査を決めていった。
当時は、彼はものすごく癌医療に明るいし、医師しか知らないような知識もたくさん持っているし、癌の家庭医学書をいろいろ読んでるんだろうな、と思ってたんだよね。 病室に行くと、「催眠」「千里眼」、「シャーロック・ホームズ全集」「さよならジュピター」「首都消失」「2001年宇宙の旅」「2010年宇宙の旅」「2030年宇宙の旅」「犬神家の一族」「八つ墓村」「黒蜥蜴」「D坂の殺人事件」なんていうエンターティメントやSFの文庫ばかりで、「家庭の医学」みたいな医学書らしきものがない。 どうやってあれだけの知識を得たのか不思議だったけど、あの、指輪が自分の方を向いて飛び上がったというプロポーズの時になって、アネさんと前院長と事務長が、保険外治療をタダにするから、この病棟に勤務して欲しい。 ハーバード医科大学の総合診療科の腕がどうしても必要なんだ、って。 給与は他の医師のにいくらでも色をつけますよ、なんて事務長が言って、やっとわかった。 逆算すると、当時はハーバードの医学生だったって。 だから医学知識があって当たり前なんだよね。
とにかく癌病棟勤務って、面白いことが多いよ。
一番おもしろいのは、ツレのボケ。
ローワン・アトキンソンと共演させてみたいね。
これ以上ないようなコメディーができるんじゃないかな