31℃です。
 この時間になっても昼間の気温と同じです。
 なにか冷たいアイスが食べたい。
 でも、アイスは食べた後がちょっとね。
 喉が渇くから食べたいんだけど、食べたらそれ以上に渇くという。
 機能性ドリンク(スポーツドリンクとか、アミノ酸系)を飲むと一番いいんだけど、飲みすぎるとお手洗いが近くなる。
 ほんとうは汗になるはずなのに。人間の身体が変化しているということなんだろうね。
 
 総合診療科医にはやっぱり勝てない。
 わたしは、原発は肺だと思っていた。
 MRIもそう言っているし、レントゲンでも肺の腫瘍が一番大きかった。 
 PETの結果が夕方に出て、原発は食堂の可能性がほぼ100%だろうということになって。
 患者さん御本人に、きょうの午前中の巡回で、総合診療科特有の問診を行った。
 警察の取調べのようにしつこく、すべてを聴きだすのが総合診療科の問診。
 それは御家族に対しても同じように行われる。
 個人情報に明らかに踏み込んでいるようなことでも、とにかく洗いざらい聴きだす。
 それによると、
 患者さんは、喉の痛みが一週間続いたから、一応内科のクリニックに行った。
 医師は、風邪からきたものだと決め付けた。
 処方薬の抗生物質を一週間服用したけど、痛みは強くなってくる。
 それで市立病院を訪ねた。
 CTとレントゲンを撮影しただけで、医師は継げた。
 「喉の痛みは食道癌です。ですがかなり広範囲に転移を起こしてますから、どれが一番最初にできた腫瘍かわかりません。もう手遅れで、この病院の設備ではどうすることもできない。
 ここから離れてますけど、総合診療科という科目の医師がいる病院があります。
 彼はこのような癌に対してはスペシャリストです。
 彼だけしかあなたを助けることはできない。
 厚労省通達を平気で破るような男ですが、腕は確かだし、多分生還できると思います」
 そういって紹介状と検査結果を送ってくれた。
 アネさんは、たまたま目が合ったから、彼を担当にしたようなことを言ってるけど、彼の名前で紹介状が出てるんだから、最初から彼が担当する運命だったんだ。
 元・担任だとか、恩師となると、特別な感情で接するかと思いきや、普通の患者さんと同じ扱い。
 特別丁寧にとかも一切ない。
 お手洗いで泣くだけ泣いたら切り替えることができる。
 ある意味、冷酷でもあるし、それが本当の医師の姿なのかもしれない。

 順番が逆になったけど、金曜にCTを撮影して、検査は終わり。
 金曜の夕方から、この街にある奥さんの実家に泊めてやりたいという奥さんの希望で、きょう一時退院届が提出された。
 本人も元気だし、個室といえども病院よりはゆっくりできるから、彼は許可を出すと言っている。
 来週月曜日に、おもしろおかしい検査結果の説明と、告知をするようになると思うよ。
 「オペを希望されますか?それなら余命は人間の寿命くらいになります」
 総合診療科では、余命宣告をああするように決まっているのかって、アネさんが櫻井医師に訊いたら、彼女は顔を真っ赤にして言った。
 「あのボケはオリジナルです。みなさんと告知のしかたは同じですっ」
 終わって告知室から出てくる患者さんと御家族はみんな、拍子抜けしたみたいに苦笑い。
 覚悟するわけでしょ、あと残された時間という重大な瞬間だから。
 オペをするなら余命は必要ない。
 もっともな意見かも知れないけど、一応、形というものがあるから、マニュアル通りにしたほうがいいんじゃないかと思うよ。
 テニスで言うと、相手がスマッシュを決めると読んで、フォーメーションを変えたら、相手コートのネット際に空振りでぽんと落ちてしまったみたいなことだよ。
 人間血管探知機の看護師さんなんて、休憩室に飛び込んで大笑いして、横隔膜が痙攣を起こして大変だったんだから。
 
 オペを希望するかしないかは、真面目なことだからね。
 本当はオペを望んでいるんだけど、医療費が払えない。
 これは高額医療給付制度が正常に働いているから、さすがに最近はない。
 もうひとつ理由があるんだよ。
 身体をこれ以上傷つけたくないっていう方々が。
 宗教なのかなんなのか、そういわれた場合はさすがの彼もオペは行わない。
 仏教でも、プロテスタントでも聴いたことがないけど、新興宗教には、そのような教えがいくつかあると彼は言っていた。
 それに尊厳死という言葉が流行していて、その意味を勘違いした方がそう言っているのかもしれない。
 尊厳死というのはオペももう無理で、患者さんが植物人間状態になったり、痛み止めの副作用で幻覚を観続けるようになると、オペをしても元の患者さんには戻らないからじゃあ、オペをしないで、静かに亡くなるのを待つ。
 彼には無用な言葉だけどね。とにかくオペに耐える体力があるなら、御家族の希望に沿うオペをしますよっていう態度だから。
 来週月曜日に患者さんと御家族の立会いで検査結果を話す特には、同じ手を使うだろうけどね。
 オペが多分8時間くらいかかると思うから、患者さんの体力を考えると、できるだけ早い方がいい。
 できれば来週中がベスト。
 オペ室のライトのLED化がいつ終わるか。
 わたしはソケットは同じで電球だけを取り替えるんだと思ってたけど、ソケット自体が白熱球とLEDとでは違うから、ライトの中を分解していじるんだって。
 にしても、今週中には終わるんじゃないかな。
 来週半ばにオペ。
 いつも見ている、総選挙だのじゃんけんだのくじ引きだのという患者さんは再来週でいいからね。
 彼は週に1~2度しかオペを行わない。
 スタッフの疲れに最も気を使うんだよね。
 疲れが残っていればいい仕事はできないから。
 来週の半ばだとすると、月曜の夕方には、わたしに前立ちを頼んでくる。
 内視カメラが大きな役割を担うオペになるから。
 言われるまではだまっていよう。

 それはそうと、明日はいよいよ、ガンバの病棟内披露宴。
 入籍から1年以上経ってるから、もう終わっていてもいいようなものだけど、奥さんが看護師として働けるまで延期で。
 きょうのお昼休みに、彼とウェディング・ケーキの材料を買ってきた。
 材料店で、一段ごとに半分に切れている発泡スチロールのパンケーキが売っていて、5段分買って、最上段に新郎と新婦のフィギュアを乗せて。
 高さが2m80cm。
 休憩室でホイップトクリームを塗ったり、デコったりすると、外に出せなくなるから、会場で作る。
 床に直接置けないから、台を入れたら3m半ば。
 事務から一番大きな脚立を借りて、その上で作業することになるらしい。
 それでボケたら、本当におしおきだよ。
 わたしが16800円も出して、T-FALのフライパンを買ったのは料理をするためじゃないからね。
 自慢じゃないけど、カップラーメンしか作れないんだから。
 
 とにかく、派手で元気な披露宴になる。
 彼もアルトサックスで感動的なバラードを演奏するし(これが、バックはパソコンで作ったカラオケだから、アドリブに制限があって、かなり苦労して考え考え、夜の屋上で練習して)。
 それに、オーケストラが入ってくれるんだよ。
 グランブルー・ドリームス。
 アネさんの先輩の呼吸器かが主催している、喘息やいじめによるリストカットを繰り返す子、発達障害の子に、健常者の子が加わってる。
 9日に4kmマーチングを一緒にした子たち。
 リーダーと副長は、その病院の外来で看護師をしている。ウチの黒木や安積と同期で、安積と三人できゃきゃ言ってたけど。
 あれで安心した。
 安積も普通の21歳の女の子なのがわかったから。
 アンドロイドじゃなかった。

 患者さんに元気を与えられる披露宴にしたいというのが本人たちの希望だから、思いっきり行くよ。
 わたしもオーケストラでアルトサックスを吹いて、暴れるぞー。