そろそろ一週間が経つというのに、自然的ひざカックンと、足の裏から突き刺されるような痛みはまったく変わりなく続いている。
「大丈夫だよ。来週の月曜化遅くとも火曜日までには嘘のように消えるから」
彼は念入りに、わたしの足をペリトール・クリームでマッサージをしてくれながら言う。
総合診療科を信じてみようか。
いや、その基準はどこから出たのだろう。
テニスで足を酷使していた彼の場合なのか、それともうんち(食事前の人、ゴメン。運動音痴のことを北海道ではこう呼ぶんだよ)なわたしも含めた診断なのか。
それは、誰基準なわけ?
「あくまで一般的基準だよ。普段、スポーツをしないでいきなり4・1kmもマーチングした人の場合ってこと」
じゃあ、テニスで鍛えた人は違うわけだね
「30年近くも前のことだよ。今じゃうんちと変わらない。吹奏楽をやる人の大多数が、マラソン以外のスポーツはできない。マラソンもしたくはないけど、部活で、楽器を持つ前に、精神力を鍛えるためにハーフマラソンを走らされるから、いやいやってだけさ。うんちは左の脳がとても柔らかくて発達している。左の脳の役割は言わなくてもわかるよね。市長みたいなスポーツ・バカは左の脳が筋肉でできていて活動しないために、右の脳だけが異常に発達している。すべての物事を上下でしか判断できない。これを体育会系脳神経麻痺というんだ、医学的には」
一応、おもしろい
さて、お祝いのラーメンに行こう!
きょうの彼は朝からなんとなく落ち着かなかった。
朝礼が終わり、巡回診察の準備に、担当患者さんのカルテを確認している時、いきなり、彼の携帯が鳴った。
おかしい。いつもなら、朝礼の前、誰よりも早くOFF電にする彼が、それを忘れた?。
慌ててスタッフ・ステーションを飛び出した彼は面会棟に飛び込んだ。
まさかとは思うけど、なにか訳があるみたいで、わたしは興味本位で面会棟の入り口まで彼を追いかけた。
窓に向かって何やら話している。
「押さえたんですか・・・・・・どこで・・・・・・やっぱり・・・・・・先輩のお役に立ててうれしいです。おめでとうございます。身柄は間違いなく確保したんですね・・・・・・所轄ですか、じゃあ、これから本庁に移送ですね・・・・・・わかりました、体制を解きます・・・・・・・まだ、アレフが潰れたわけじゃない、終わりではないと思いますけど・・・・・・高橋確保でいいんですか・・・・・・そうですか・・・・・・失った同僚の魂はこれで許してくれるでしょうか・・・・・・と、いうことは退官されるおつもりですか・・・・・・そうですか、残念ですが、きょうまでお役目ご苦労様でした・・・・・・先輩を目指してがんばります。それでは敬礼で見送らせていただきます」
彼は背筋を伸ばして、敬礼をし、携帯を切った。
「中に入って入り口を閉めて」
わたしに気づいていたの?。
あっ、あのー・・・・・・
「今夜は悪いけど、病院食をスルーして、外食につきあってくれる。巡回の結果、気になる患者さんがいなければの話だけど」
アレフとか高橋って、まさかオウムの逃亡犯が捕まったの?
「たった今ね。前月の末から公安部がぴったりと尾行して、押さえるタイミングを狙っていたんだ。マスコミにはわざと偽情報を流してね。確保のタイミングを設定するに当たって、公安部から極秘裏に、ぼくにプロファイリングで高橋の行動を予測して欲しいと頼まれて、ぼくはすべてのデータを公開してもらって、早朝のネットカフェで、川崎の隣の駅周辺に昨日かきょう、あるいは2日間立て続けに現れることを割り出して連絡した。それが、2日間立て続けに現れて、きょうは、今までの尾行をマスコミや一般の人々に悟られないようにネットカフェに根回しして、先ほど身柄を確保した。あとはアレフをどうやって叩くかだけだ。ぼくの尊敬するミツイキ先輩が声をかけ、同行を求めた。
オウムには複数の潜入捜査官が入っていた。でも、正体がバレて、全員VXガスという化学兵器で道場において殺された。中にはサリン事件の実験台にされた捜査官もいた。そんな中でミツイキ先輩は、あえて地下鉄サリン事件の実行役に志願し、実行。幹部に上り詰めることで正体を隠してオウムに残り、松本死刑囚、つまり麻原尊師が上九一色村の第六サティアンに隠れていることを外にいる同僚に連絡して、第六サティアン以下オウムの拠点をすべて潰し、麻原を逮捕した。そのどさくさで、三人の危険な信者を逃してしまって、きょうまで追い続けていたんだ。先輩の仕事は、本当ならこれからアレフを根絶やしにしなくてはならない。でも、きょうの高橋確保で区切りをつけるそうだ。高橋に警視庁が手錠をかけるのを見届けたら、退官届を提出して、殺された同僚たちを弔いながら静かに暮らすって。先輩らしいよ。ミツイキ先輩はぼくの憧れだった。だから、退官祝いをしたくてね。公安という部署は任務中に死ぬことがあっても特進できるわけじゃないし、任務の特殊性から身寄りのない者が選ばれる。死んでも涙を流してくれる人がいない者だけを選び出してスカウトするんだ。
ぼくの出だしも公安だった。そこで、対テロ組織の警察庁内部への設置が必要と判断され、ごく一部の警察官僚とOBしか知らない秘密組織が誕生した。それが特殊捜査二課だ。法が禁じている潜入や、個人情報の取得や調査など、すべてはテロを未然に防ぐためのことなんだ。JOKERはさしあたって家族のいないぼくにしかできない内職ってとこだった。なぜ、特殊捜査二課のデカ部屋がSATの隣にあるか、これでわかるよね。SATはぼくらがテロを防ぐことができなくて起きてしまった場合の、言って見tれば尻拭いなんだ。ぼくには、捜査上のあらゆる縛りを無視して活動できる秘密捜査官の顔もある。でも、絶対にきみを泣かせるようなことはしない。特殊捜査二課で、ちょっととぼけたハンチョウでいるよ、看護師の隠し子を持った、ね。
とにかく、巡回をして、患者さんの容態に変化が認められなければ、なんでもきみの好きなものをおごらせてほしい。殉職した優秀な捜査官たちと、先輩のために祝いたいんだ。17年の苦労は報われた。アレフには、別の潜入捜査官が何人も入っていると思うし、彼らが潰せばいい。幸いこの街にはアレフの道場はないようだけど、まだまだ問題のある新興宗教はある。中には民生委員の皮をかぶって生活保護受給者に近づいて、自分の所属する新興宗教に引きずり込んでいるケースもある。でも、それらは明日からまた追いかければいい。きょうは一区切りでゆっくりとお祝いだ」
おめでとう
マスコミに流した情報は操作されたものだったんだ
筆跡鑑定を出してくる意味は誰もわからなかったでしょ
実際にオウムの捜査を担当した警視庁公安部のOBでさえ不思議がっていた
あらかじめ操作された情報だったらそうだよね
あえて混乱させるのが目的なんだから
マスコミに真相を話すと、その情報を利用して、犯罪者は逃げるだろうし
「高橋が利用する、警察の動きを察知するメディアは新聞・TV・ラジオだけで、協力者はいないのは最初からわかっていたから、あえてマスコミを利用させてもらったんだ。マスコミは身柄確保が最高のニュースで、それまでのことなんかすべて忘れて大騒ぎするからね。身分証明書を提示しなければ、ネットカフェでパソコンを利用できる個室へは入れないからね。携帯もプリペイドならネットが利用できるものはない。比較的楽な工作だったと思うよ」
ところで、わたしの好きなものをおごってくれるの?
「フレンチのフルコースでもイタリアンでもなんでもいいよ」
じゃあ、とんとろチャーシュー麺大盛り、こってりで
イオンの中巻きバイキングを買ってきて、夜食の後、イオンのオリジナルブランドのスポーツドリンクで乾杯
「いつもっぽいね。でかけるまで考えてみてよ。時間はまだある」
彼は、そのまま自分の部下たちに非常警戒態勢を解くように連絡してから、巡回に出かけた。
犯罪者は北へ逃げる、という古い頭の札幌本店の上層部をバカにしながら。
「大丈夫だよ。来週の月曜化遅くとも火曜日までには嘘のように消えるから」
彼は念入りに、わたしの足をペリトール・クリームでマッサージをしてくれながら言う。
総合診療科を信じてみようか。
いや、その基準はどこから出たのだろう。
テニスで足を酷使していた彼の場合なのか、それともうんち(食事前の人、ゴメン。運動音痴のことを北海道ではこう呼ぶんだよ)なわたしも含めた診断なのか。
それは、誰基準なわけ?
「あくまで一般的基準だよ。普段、スポーツをしないでいきなり4・1kmもマーチングした人の場合ってこと」
じゃあ、テニスで鍛えた人は違うわけだね
「30年近くも前のことだよ。今じゃうんちと変わらない。吹奏楽をやる人の大多数が、マラソン以外のスポーツはできない。マラソンもしたくはないけど、部活で、楽器を持つ前に、精神力を鍛えるためにハーフマラソンを走らされるから、いやいやってだけさ。うんちは左の脳がとても柔らかくて発達している。左の脳の役割は言わなくてもわかるよね。市長みたいなスポーツ・バカは左の脳が筋肉でできていて活動しないために、右の脳だけが異常に発達している。すべての物事を上下でしか判断できない。これを体育会系脳神経麻痺というんだ、医学的には」
一応、おもしろい
さて、お祝いのラーメンに行こう!
きょうの彼は朝からなんとなく落ち着かなかった。
朝礼が終わり、巡回診察の準備に、担当患者さんのカルテを確認している時、いきなり、彼の携帯が鳴った。
おかしい。いつもなら、朝礼の前、誰よりも早くOFF電にする彼が、それを忘れた?。
慌ててスタッフ・ステーションを飛び出した彼は面会棟に飛び込んだ。
まさかとは思うけど、なにか訳があるみたいで、わたしは興味本位で面会棟の入り口まで彼を追いかけた。
窓に向かって何やら話している。
「押さえたんですか・・・・・・どこで・・・・・・やっぱり・・・・・・先輩のお役に立ててうれしいです。おめでとうございます。身柄は間違いなく確保したんですね・・・・・・所轄ですか、じゃあ、これから本庁に移送ですね・・・・・・わかりました、体制を解きます・・・・・・・まだ、アレフが潰れたわけじゃない、終わりではないと思いますけど・・・・・・高橋確保でいいんですか・・・・・・そうですか・・・・・・失った同僚の魂はこれで許してくれるでしょうか・・・・・・と、いうことは退官されるおつもりですか・・・・・・そうですか、残念ですが、きょうまでお役目ご苦労様でした・・・・・・先輩を目指してがんばります。それでは敬礼で見送らせていただきます」
彼は背筋を伸ばして、敬礼をし、携帯を切った。
「中に入って入り口を閉めて」
わたしに気づいていたの?。
あっ、あのー・・・・・・
「今夜は悪いけど、病院食をスルーして、外食につきあってくれる。巡回の結果、気になる患者さんがいなければの話だけど」
アレフとか高橋って、まさかオウムの逃亡犯が捕まったの?
「たった今ね。前月の末から公安部がぴったりと尾行して、押さえるタイミングを狙っていたんだ。マスコミにはわざと偽情報を流してね。確保のタイミングを設定するに当たって、公安部から極秘裏に、ぼくにプロファイリングで高橋の行動を予測して欲しいと頼まれて、ぼくはすべてのデータを公開してもらって、早朝のネットカフェで、川崎の隣の駅周辺に昨日かきょう、あるいは2日間立て続けに現れることを割り出して連絡した。それが、2日間立て続けに現れて、きょうは、今までの尾行をマスコミや一般の人々に悟られないようにネットカフェに根回しして、先ほど身柄を確保した。あとはアレフをどうやって叩くかだけだ。ぼくの尊敬するミツイキ先輩が声をかけ、同行を求めた。
オウムには複数の潜入捜査官が入っていた。でも、正体がバレて、全員VXガスという化学兵器で道場において殺された。中にはサリン事件の実験台にされた捜査官もいた。そんな中でミツイキ先輩は、あえて地下鉄サリン事件の実行役に志願し、実行。幹部に上り詰めることで正体を隠してオウムに残り、松本死刑囚、つまり麻原尊師が上九一色村の第六サティアンに隠れていることを外にいる同僚に連絡して、第六サティアン以下オウムの拠点をすべて潰し、麻原を逮捕した。そのどさくさで、三人の危険な信者を逃してしまって、きょうまで追い続けていたんだ。先輩の仕事は、本当ならこれからアレフを根絶やしにしなくてはならない。でも、きょうの高橋確保で区切りをつけるそうだ。高橋に警視庁が手錠をかけるのを見届けたら、退官届を提出して、殺された同僚たちを弔いながら静かに暮らすって。先輩らしいよ。ミツイキ先輩はぼくの憧れだった。だから、退官祝いをしたくてね。公安という部署は任務中に死ぬことがあっても特進できるわけじゃないし、任務の特殊性から身寄りのない者が選ばれる。死んでも涙を流してくれる人がいない者だけを選び出してスカウトするんだ。
ぼくの出だしも公安だった。そこで、対テロ組織の警察庁内部への設置が必要と判断され、ごく一部の警察官僚とOBしか知らない秘密組織が誕生した。それが特殊捜査二課だ。法が禁じている潜入や、個人情報の取得や調査など、すべてはテロを未然に防ぐためのことなんだ。JOKERはさしあたって家族のいないぼくにしかできない内職ってとこだった。なぜ、特殊捜査二課のデカ部屋がSATの隣にあるか、これでわかるよね。SATはぼくらがテロを防ぐことができなくて起きてしまった場合の、言って見tれば尻拭いなんだ。ぼくには、捜査上のあらゆる縛りを無視して活動できる秘密捜査官の顔もある。でも、絶対にきみを泣かせるようなことはしない。特殊捜査二課で、ちょっととぼけたハンチョウでいるよ、看護師の隠し子を持った、ね。
とにかく、巡回をして、患者さんの容態に変化が認められなければ、なんでもきみの好きなものをおごらせてほしい。殉職した優秀な捜査官たちと、先輩のために祝いたいんだ。17年の苦労は報われた。アレフには、別の潜入捜査官が何人も入っていると思うし、彼らが潰せばいい。幸いこの街にはアレフの道場はないようだけど、まだまだ問題のある新興宗教はある。中には民生委員の皮をかぶって生活保護受給者に近づいて、自分の所属する新興宗教に引きずり込んでいるケースもある。でも、それらは明日からまた追いかければいい。きょうは一区切りでゆっくりとお祝いだ」
おめでとう
マスコミに流した情報は操作されたものだったんだ
筆跡鑑定を出してくる意味は誰もわからなかったでしょ
実際にオウムの捜査を担当した警視庁公安部のOBでさえ不思議がっていた
あらかじめ操作された情報だったらそうだよね
あえて混乱させるのが目的なんだから
マスコミに真相を話すと、その情報を利用して、犯罪者は逃げるだろうし
「高橋が利用する、警察の動きを察知するメディアは新聞・TV・ラジオだけで、協力者はいないのは最初からわかっていたから、あえてマスコミを利用させてもらったんだ。マスコミは身柄確保が最高のニュースで、それまでのことなんかすべて忘れて大騒ぎするからね。身分証明書を提示しなければ、ネットカフェでパソコンを利用できる個室へは入れないからね。携帯もプリペイドならネットが利用できるものはない。比較的楽な工作だったと思うよ」
ところで、わたしの好きなものをおごってくれるの?
「フレンチのフルコースでもイタリアンでもなんでもいいよ」
じゃあ、とんとろチャーシュー麺大盛り、こってりで
イオンの中巻きバイキングを買ってきて、夜食の後、イオンのオリジナルブランドのスポーツドリンクで乾杯
「いつもっぽいね。でかけるまで考えてみてよ。時間はまだある」
彼は、そのまま自分の部下たちに非常警戒態勢を解くように連絡してから、巡回に出かけた。
犯罪者は北へ逃げる、という古い頭の札幌本店の上層部をバカにしながら。